2012年に開業した東京スカイツリーも、今や観光名所としてすっかり定着しました。完成間近で東日本大震災に見舞われながら、なんの事故も起きなかったところは、さすが日本の技術と感心させられます。スカイツリーには、法隆寺の五重塔などに使われている「心柱」という免震装置が組み込まれています。最新の建築物に日本古来の技法が生かされているなんてちょっと感慨深いです。
日本はそうやって古いものを大切にする心が根ざした国……のはずなんですが、スカイツリーの最寄駅の名は「とうきょうスカイツリー」に変わってしまいました。観光客にわかりやすくするためでしょうが、ちょっと寂しさを感じてしまいます。
では、変更前の駅名はなんだったでしょう? 正解は「業平橋(なりひらばし)」です。この駅名は、平安時代の歌物語『伊勢物語』の主人公と考えられている在原業平が、東下りのときに訪れたことにちなんだ、古式ゆかしい名前だったのです。駅名は変わりましたが、地名として「業平」の名は残っています。
この在原業平、稀代のプレイボーイだったらしく、東下り時には川で魚をつついている都鳥に「名にし負わば いざ言問はん 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと(都鳥、そういう名前なら都の愛しい人が元気か教えてくれ)」なんて無茶振りな和歌を詠んでいます。
在原業平が詠んだ句で最も有名なのは、今から約1,000年前に誕生した「小倉百人一首」に取り上げられている「ちはやぶる 神代も聞かず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは」でしょう。散った紅葉に埋め尽くされて、唐紅の反物のようになった川の情景がありありと浮かぶ美しい歌です。
百人一首には恋の歌も多いですが、このような四季の情景の歌、日頃の喜びや悲しみの歌などがバランスよく配分されています。… 続きを読む