歴史を題材にした小説には、二種類の分類があります。“歴史小説”と“時代小説”です。
この両者、似ているようですが明確な違いがあります。歴史小説は歴史上の人物やできごとを史実に照らし合わせて物語化した作品で、一方の時代小説は歴史人物や時代環境を物語のフレームとして用い、架空の物語を展開する作品を指します。前者は司馬遼太郎、後者は藤沢周平に代表されます。
しかし、ここではそんな枠組みをとっぱらい、映画やゲームとも比肩できるような今っぽい感性の小説を“歴史エンタメノベル”として三冊ご紹介しようと思います。
まずは下川博著『弩』をおすすめしましょう。読み方は「ど」です。重い矢や石を放ち、弓矢よりも殺傷能力が高いとされる重量級の武器の名前です。
舞台は14世紀中頃の南北朝時代。村を襲う悪党を撃退するため、農民たちが8人の侍を雇って対抗する――と書くと、まるで映画『七人の侍』そのままじゃないか、と思われるかもしれません。でもこの小説、じつは創作ではなく、実話をもとに書かれているのです。
注目すべきポイントはふたつ。まずひとつめは、農民たちが侍を雇う経済力を持っていたということ。そしてふたつめは、農民たちが侍と渡り合うために、武士階級には普及しなかった「弩」という武器を得たことです。… 続きを読む