多くの企業の情報システム部門に共通する悩みを取り上げ、課題解決につながるポイントを解説していきます。連載第1回は、人的リソース不足、ガバナンス強化、災害対策コストの適正化、迅速なトラブル対応といった、IT基盤の構築や運用に関わる悩みを取り上げていきます。
お悩み1:情報システム部門の人手が足りない!
・システム改修や導入時の複数ベンダー調整が毎回大変。障害時は切り分けや修理手配などの対応に追われて他の業務がストップする
・複数のクラウドやSaaS利用にともなう、学習や運用体制作りのための新たな稼働が発生している
・戦略的なIT投資に向けた企画検討のための時間を確保できない
本気で運用負荷を軽減したい――「システム検討時」にすべきこととは?
この課題を解決する上で、大きなポイントになるのは「標準化されたIT基盤」と運用業務の「定型化」です。フルスクラッチで開発した独自システムをパッケージアプリケーションやクラウドサービスなどに置き換えるといったことも視野に入れる必要があります。
ここで重要なのは、システム検討の段階から、運用を意識してサービスやインフラを選定することです。今まさにIT基盤更改の提案を受けているなら、その中に運用負荷を軽減するための検討項目が含まれているか確認してみましょう。多くの場合、構築に関する事項が固まったのちに、それらをどのように運用するかが議論されます。しかし大事なのは、検討段階から運用チームも議論に加わることなのです。アウトソースによる効果が期待できる「定型化可能な業務の洗い出し」や、運用そのものが不要となる「オプションサービスの併用」などをしっかり検討することにより、本当の意味で運用負荷の軽減へとつながると言えるでしょう。
アウトソースのコスト負担を経営層にどう説得するか
こうした運用業務のアウトソースを検討する際、問題になりがちなのはコストです。実際、アウトソースのコスト負担について経営層に理解してもらえず、インソースでの運用を余儀なくされるケースは珍しくありません。しかし、上述したようにシステムの検討段階からアウトソースについて検討しておくことで、アウトソースそのものの費用を圧縮することが可能です。アウトソースの費用を組み込んでおくことで、構築後に費用が膨れ上がる心配もありません。費用だけでなく、構築内容をきちんと理解した上で運用をするわけですから、トラブル時の切り分けなど迅速な対応が必要なケースでも安心して任せることができます。
一方で、アウトソースするのではなく、運用のために人を雇う方法もありますが、新たに人材を雇い入れれば、会社としての金銭的な負担が増すのはもちろん、マネジメントの手間や辞職などのリスクも考慮しなければなりません。
このように、アウトソースの内容も費用も適正に組み立てることで、経営層の印象は大きく変わってきます。人を雇うケースとの比較は、経営層にとって共感を得られる話のようです。
アウトソースサービスの見極めポイントは?
特にグローバルで利用するアウトソースサービスの選定では、対応時間の幅や対応言語の種類がポイントになります。海外拠点からの問い合わせに対し、日本時間の深夜でも現地語で対応してもらえるサービスであれば、負担を大幅に軽減できるでしょう。また、アウトソースする業務内容を柔軟に調整可能かどうかも事前に確認しておきましょう。
運用業務の見直しのタイミングは、アウトソースする内容を精査しやすいIT基盤更改時がベストです。この際、提案段階から運用サービスを担当するチームが参加し、業務の定型化にまで踏み込んで提案されているかを確認します。またNTTコミュニケーションズの「Global Management One」のように、全体を把握するサービスマネージャが一元的に窓口となるサービスであれば、ユーザー企業側の負担も軽減できるでしょう。
お悩み2:IT環境がバラバラで、ガバナンスが効かせられない!
・グループ内で、EOLをとっくに過ぎているサーバーがあちらこちらにある。海外に至っては把握しきれていない
・グループ会社や海外拠点が勝手にクラウドサービスを契約したり、新たなシステムやサーバーを導入したりしている
・IT環境がバラバラなせいで、非効率な上、コスト増加の要因になっている
グループ全体でIT基盤を共通化する
このようなガバナンス上の課題解決のために検討したいのが、海外拠点を含めたグループ全体で利用するIT基盤の整備です。IT基盤を共通化すれば、各グループ会社や各海外拠点のIT環境を一元的に把握することが可能になり、ガバナンスの強化にもつながります。
検討にあたっては、本社とグループ会社、海外拠点のそれぞれでどのようにしてIT環境を一般化し、コストを抑えていくかを検討することが重要です。その選択肢の1つがクラウドであり、海外拠点までを含めて検討するならAmazon Web Servicesの「Amazon Elastic Compute Cloud」やマイクロソフトの「Microsoft Azure」、NTTコミュニケーションズの「Enterprise Cloud」といった、グローバルで利用できるクラウドサービスを選択したいところです。これらをIT基盤として使い、さらに各拠点からクラウドに接続するためのネットワークを整備し、IT環境を一元化するという形です。
グローバルに事業を展開する飲料メーカーの事例

どのようにグループ会社や海外拠点を納得させるか
しかし、いくらIT環境を一元化しても、それに乗り換えるメリットがなかったり、グループ会社や海外拠点(以下、拠点側)への負担が大きすぎたりする場合は反発を受けることも十分に想定されます。そこで、まず本社主導でIT基盤や運用管理の環境を整備し、パイロット的に移転や新規拠点設立のタイミングで共通基盤へ参加させ、効果を測定しながら展開していくというように、段階を踏んで進めていくと、うまくいくようです。
さらに、サーバー等の機器の構成管理も運用サービスの中で行うことで、保守がいつまでなのか、更改のタイミングはいつなのかといったことも簡単に管理できるようになります。そういった拠点側へのメリットを見せることで、展開しやすくなり、本社にとってもガバナンスの強化につながります。
お悩み3:災害対策の目途が付けられない!
・データバックアップやBCPの策定は行っているが、何かあった時に本当に対応できるのか不安
・数年前に講じたDR対策の費用負担が重くのしかかっている
RTO/RPOに応じた費用配分
災害対策でまず考える必要があるのは、自社の事業を継続するために必要なシステムの見極めでしょう。災害対策にかけられる費用をどう使うか、その判断のためにシステムの優先順位を検討するというわけです。
その上で災害発生後にどれくらいの時間で復旧する必要があるか(目標復旧時間/RTO)や、障害時にどの程度のデータの損失を許容するか(目標復旧時点/RPO)をシステムごとに決め、必要な対策を講じていきます。
キャリアのデータセンターやクラウドサービスを上手に活用
その対策の1つとして、災害の被害が及ばない遠隔地にバックアップ環境を構築し、実際にシステムが停止した場合にはそのバックアップ環境を利用するというものがあります。たとえばNTTコミュニケーションズのEnterprise Cloudの場合、世界各地のクラウド拠点間を結ぶ、10Gbpsベストエフォートのネットワークを無料で利用できるため、このような遠隔地にバックアップ環境を構築するといった際には有効でしょう。
あらかじめ災害対策が組み込まれたクラウドサービスの利用も有効です。もしオンプレミスでメール環境を構築しているのであれば、それをSaaSとして提供されているメールサービスに移行することで、災害に強いメール環境を整えられます。実際、東日本大震災が発生した際でも多くのクラウドサービスが継続して利用できたことを考えると、SaaSの活用は災害対策の面においても有効です。
最大10Gbpsのクラウド拠点間ネットワークが無料

お悩み4:ヘルプデスク業務が大きな負担になっている!
クライアントPCの利用に対するヘルプデスク業務を情報システム部門で担っていますが、次から次に問い合わせが舞い込み、業務上の大きな負担になっています。何か解決策はありませんか。
・クライアントPCやアカウントの追加などに対するヘルプデスク業務に稼働をとられている
・ITに詳しい人がいない拠点でトラブルが発生すると、情報システム部門から人を派遣しなければならない
・時差の大きい海外拠点からの問い合わせがあると、早朝や深夜の対応を余儀なくされる
ヘルプデスク業務のアウトソースは効果が期待できる分野
最もシンプルな解決策は、ヘルプデスク業務のアウトソースでしょう。クライアントPCに関する問い合わせ内容は多岐にわたりますが、たとえば基本的な操作方法などについての問い合わせについては外部で対応してもらいつつ、トラブルなど情報システム部門でしか解決できない問題だけをエスカレーションする仕組みにすれば、かなりの負担を軽減することが可能です。問い合わせの多くは一次対応で解決する場合も多く、ヘルプデスク業務の切り替えのための手順書準備や擦りあわせに時間を要したとしても、効果が出るケースが多いようです。
なお、ヘルプデスクサービスは現在多くのベンダーで提供していますが、特にグローバルに事業を展開している企業であれば、対応する言語の種類、そして受け付け可能時間がポイントになります。海外からの深夜の問い合わせにも迅速に対応できれば、情報システム部門の負担も軽減し、またすばやい問題解決はユーザーの利益にもつながるでしょう。
また、ヘルプデスク業務は運用とも密接に連携しています。たとえばメールサーバーに接続できないといった問い合わせがあった際、運用チームにエスカレーションして問題の切り分けを行って解決を図ることになるため、ヘルプデスクと運用のそれぞれのチームが蜜に連携していれば、迅速な問題解決につながります。こうした観点からも運用およびヘルプデスク業務のアウトソース先を選べば、より効率的にIT環境を運用できるでしょう。
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