航空会社にとって、航空機の安全運航は、絶対的な使命です。その実現のために、航空各社はさまざまな取り組みを行っています。たとえば客室乗務員(CA)の訓練も、機内の安全を守るという重要な役割を担うという点で、安全運航のための重要な活動の一つです。
北海道と本州を結ぶ航空会社である株式会社AIRDO(エア・ドゥ、以下「AIRDO」)でも、客室乗務員の訓練をはじめとする、安全に対する取り組みを行っています。しかし、その訓練は二次元の図版ベースの訓練も多く、より現場に近い環境の訓練を増やすことが課題でした。
この問題を改善するために、同社が導入したのが「VR技術」です。訓練の効果を高める“リアルなVR訓練”とは、一体どのようなものなのでしょうか?
【株式会社AIRDO】
「北海道の翼」AIRDOは、1996年11月、北海道をベースとする航空会社として誕生、2018年に就航20周年を迎えた。現在運航する10路線は、すべて北海道内の空港を発着している。
新人客室乗務員に、よりリアリティある訓練を提供したい
AIRDOは1996年11月、北海道国際航空株式会社として設立されました。北海道をベースとする航空会社として1998年に新千歳・羽田線で運航を開始し、2012年には社名を株式会社AIRDOに変更。「北海道の翼」として、空の旅を提供し続けています。
同社は業務を効率化するため、かねてより、ICTの導入に積極的に取り組んできました。2017年には全客室乗務員約230名にタブレット端末を貸与。従来は分厚い冊子だった規程や、紙で行っていた周知事項の通知の電子化などペーパーレス化を推進するとともに、訓練動画の視聴も場所を選ばずできるように環境を整えています。さらに、クレジットカードの決済端末としても、タブレットを利用しています。
このようにICT化が進む中、同社客室部長の番平智氏は、客室乗務員の訓練にもICTを活用できないかと考えていました。
「当社の場合、入社した客室乗務員は、まず訓練生として、約3か月の訓練を受けてもらいます。具体的には会議室等で受講する座学の訓練、訓練センターで航空機の実物大模型を使った非常救難訓練等、そして実際の航空機内での訓練です。当然、実際の航空機を使った訓練に近ければ近いほど、高い効果が見込めます。
しかし、実際の航空機内で訓練を行う機会は限られています。弊社は自前で訓練センターを持っておらず、他の航空会社の施設を借りて利用しているので、センターの利用機会も限られていました。
とはいえ、航空機の安全運航をこれからも高いレベルで維持、改善していくためには、よりリアルな教材を訓練生に提供する必要がありました」
特殊なデバイスを用いなくても、タブレットで十分効果がある
この課題を解決するために、同社が導入を検討したのが、VR技術でした。
「今まで飛行機の図面を使い平面的に行ってきた訓練をVR化し、上下左右360度機内を疑似体験しながら客室乗務員に訓練してもらうことで、学習効果が上がるのではないかと考えました。
VRはメディアでも盛んに取り上げられていましたので、世の中で普及しつつあることは感じており、かつ、航空業界でも積極的に活用されているということも認識していました。まずは情報収集ということで、東京で行われていたVRソリューションに関する展示会に参加しました」(番平氏)
番平氏は東京の展示会を訪問。多くの出展企業が最新のデバイスと技術を用いて、さまざまなデモンストレーションを行っていました。
そこで番平氏は、… 続きを読む