Bizコンパス

IoTで熱中症防止!JALの実証実験に挑んだ現場の声
2015.12.11

いよいよ本格化!IoTはビジネスをどう変えるのか第9回

IoTで熱中症防止!JALの実証実験に挑んだ現場の声

著者 Bizコンパス編集部

 日本の夏は気温に加えて湿度も高く、熱中症になりやすい気候であるため、多くの企業において社員の健康管理は重要な課題となっています。その対策のため、IoTに注目したのが日本航空株式会社です。ここでは前編に引き続き、実証実験に挑んだ現場の状況について紹介していきます。

 

衣服型ウェアラブルデバイスを実現する「hitoe」

 さまざまなモノをネットワークにつなぐ「IoT」は、新たな価値をビジネスにもたらすテクノロジーとして注目を集めています。前編で紹介したように、日本航空株式会社(以後、JAL)はこのIoTを活用した社員の安全確保に向け、沖縄県那覇空港で実証実験を実施しました。その実証実験に使われたのが、日本電信電話株式会社と東レ株式会社が共同開発した「hitoe」です。

 hitoeは心拍数や心拍間隔などを安定的に長時間取得できる機能性素材であり、これを使用したインナーウェアを着用することで、その人のバイタルデータをシステムに取り込み、さまざまな分析を行うことが可能になります。同様に、身に付けて使うウェアラブルデバイスとしては腕時計型や眼鏡型のものもありますが、hitoeを使った衣服型ウェアラブルデバイスであれば身に付けていることを意識せず、より自然な形でバイタルデータを取得できるのが特長です。

 hitoeで取得したバイタルデータを分析することにより、着用している人の状態をさまざまな角度から確認することが可能になります。具体的には、hitoeで取得した心電データと加速度データを分析することで、熱ストレスや疲労度、姿勢、リラックス度などを可視化することができます。JALの実証実験では、航空機の誘導や貨物の積み降ろしなどを行う、グランドハンドリング業務に従事する社員の熱中症予防を目的として、hitoeを使った各種バイタルデータの取得と分析が行われました。

 

グランドハンドリング業務における暑さとの戦い

 今回の実証実験では、hitoeで取得したバイタルデータをスマートフォン経由でクラウド上のシステムに送信し、そこで分析が行われました。この分析により、熱ストレス(外部の気温による身体への負荷)を可視化し、その内容を作業管理者に報告することで、熱中症になりそうな社員をいち早く見つけ、適切な対処を行うことが可能になります。

 今回、実証実験の対象となったグランドハンドリング業務の社員は、専用車両による荷物の搬送や航空機への荷物の積み降ろしなどの作業を行っていますが、特に夏は暑さとの戦いになります。屋外の作業で問題となるのは直射日光であり、当然荷物の積み降ろし作業を行う場所に屋根はないため、夏場は強い日差しを受けながら荷物を運ばなければなりません。また運ばれてきた荷物の積み降ろし作業は航空機の貨物室内で行うことになりますが、夏は室温が高まるため、やはり熱中症対策が必要となります。

 これらの作業中は大量の汗をかくことから、暑い日は必ず作業着を着替えると話すのは、今回の実証実験に参加した沖縄エアポートサービス株式会社の長濱克樹氏です。

 「屋外と屋内のどちらにおいても暑い場所での作業になりますので、雨が降ったかのように作業着が汗で濡れてしまいます。そのため、夏は1日に最低1回は着替えますね」

 

体調を崩した社員を早く見つけることが大切

 実際、このまま作業し続けると熱中症になるかもしれないと感じたことがある、と話すのは沖縄エアポートサービスの我如古裕康氏です。

 「人それぞれだと思いますが、私の場合は頭痛を感じ始め、身体が熱を持ち始めたのが分かるのです。そのような場合は、休憩スペースに戻って身体を冷やすといった対応をしています。夏の作業現場は高温になるので、その対策はやはり重要だと感じています」

 熱中症の予防方法としては、水分補給や塩分補給などが挙げられるでしょう。しかし、しっかり注意していたとしても、気が付かないうちに熱中症になることも少なくありません。また作業中、体調に異変が生じても、責任感の強さゆえに、無理をしてしまう社員もいると話すのは沖縄エアポートサービス執行役員・業務室室長の黒島透氏です。

 「従来、体調は自己管理、自己申告が前提となっていましたが、グランドハンドリング業務の多くはチームで対応するため、他のメンバーに迷惑がかかるという心理から、体調がすぐれない場合でも少し無理をしてしまいます。そのため、上司が配下のメンバーの状況をチェックし、体調が悪そうな社員がいれば声をかけて、休憩スペースで休ませたり、早めに帰宅させたりするようにしています」

 熱中症になる危険性が高い社員を早く見つけて対処することができれば、重症化する前に何らかの対応を図ることが可能ですが、人の目による確認では限界があるのも事実です。しかしhitoeを使って熱ストレスを把握し、熱中症になりそうな社員をいち早く見つけることができれば適切な対処が可能です。

 グランドハンドリング業務は屋外で行われるため、作業時の気候や作業内容により、身体への負担が大きく変わり、結果として心拍数の推移に違いが発生します。

 熱中症の危険度を判断する数値として、平成18年から環境省が情報提供を行っている「暑さ指数(WBGT)」という指標があります。暑さ指数(WBGT)が28度(厳重警戒)を超えると熱中症患者が増加するとされており、今回の実証実験においても、WBGTが「厳重警戒」を示している場合は、心拍数は多くなり最大目標心拍数を超えることがあります。また、暑さ指数が「警戒」を示している場合は、厳重警戒時と比べて心拍数が下がり最大目標心拍数を超えることはないということが分かりました。

 

快適な着心地を実現したhitoeのインナーウェア

 なお今回使われたhitoeのインナーウェアには小型のトランスミッタ(無線機)が取り付けられており、取得したデータをBluetooth経由でスマートフォンに送信します。データを受信したスマートフォンは、安全なネットワークを使ってクラウド側のシステムにデータを送信するという流れです。

 データを送信するために必要となる、トランスミッタやスマートフォンが作業の支障にならないのかと考える人は多いのではないでしょうか。しかし今回の実証実験に参加し、実際にhitoeを使ったインナーウェアを着用してグランドハンドリング業務を行った沖縄エアポートサービスの上原貴宏氏によれば、トランスミッタやスマートフォンが作業中気になることはなかったと話します。

 「今回の実証実験用のインナーウェアを着て荷物の積み降ろし作業を行いましたが、トランスミッタやスマートフォンが作業の支障になるようなことはありませんでした。今回は実証実験ということで利用したのは短期間でしたが、仮に毎日着用することになったとしても問題ないと感じました」

 なお長濱氏と我如古氏も、hitoeで作られたインナーウェアを着ての作業に問題はなかったと話しています。特に身体を動かして作業する人たちにとって、ウェアラブルデバイスの着用に違和感があれば、作業に支障が生じることにもなりかねません。この点に問題がなかったのは、衣服型ウェアラブルデバイスのアドバンテージと言えるのではないでしょうか。

 

hitoeがグランドハンドリング業務にもたらすメリット

 黒島氏は「今回の取り組みを通じて、hitoeを使った体調管理システムには大きな可能性があると感じました」と話しつつ、荷物の積み降ろし作業だけでなく、他の作業においても、より多くの社員の健康状態を確認できるようになれば、安全確保の観点から大きなメリットが生まれると続けます。

 「空港内での作業は、何かが起きると大きな事故につながる危険性があります。今回のようなシステムでその兆候を捉え、迅速に適切な対応をすることができれば、より安全性を高められます。たとえば空港内を走るバス、あるいは航空機を牽引する車両のドライバーなどは、チームではなく単独での作業になり、極めて重要な役割を担っています。彼らに何かがあれば、大きな問題につながりかねません。そのような現場においても、こうした体調管理システムは有効でしょう」

 IoTがビジネスにもたらす価値はさまざまですが、その一つとして従来可視化することが難しかった状況を把握し、必要な対処を適切かつ迅速に行えるようにすることが挙げられるでしょう。たとえば、工場で使われる機器の状況をリアルタイムに監視し、異常の兆候を検知して対処するといったことが可能になります。

 さらにhitoeのようなウェアラブルデバイスを使えば、“モノ”だけでなく、“人”の状態も定量的にチェックすることができるため、社員の健康状態を把握し、安全を確保することが可能になります。IoTの普及はまだ始まったばかりですが、その具体的な活用方法を考える上で、今回のJALの実証実験は大いに参考になるでしょう。

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