「AI(人工知能)」という言葉を、昨今まったく耳にしたことがない人は少ないでしょう。 現在AIは人のように学習することができるレベルまで進化しており、企業においても活用が広がりつつあります。AIによって業務を効率化するなど、日本企業を成長させるためのデジタルトランスフォーメーション(DX)の後押しとなっています。
しかし、AIをビジネスで活用するためには、まだ懸念や課題も多いのが実情です。AIはどういったことができるのかというメリットと同時に、どういう懸念や課題があるのかも理解した上で、導入を検討する必要があります。
今回の記事では、そもそもAI(人工知能)とはどういったものかという基本知識を確認してから、具体的にAIで何ができるのかなどについて説明します。
AI(人工知能)とはどのような技術なのか?
AI(人工知能)とは「Artificial Intelligence(アーティフィシャル・インテリジェンス)」の略で、「人間のような知能を持ったコンピュータ」のことを指します。昨今ではスマートフォンなどの身近な機器にも搭載されており、音声認識で話した言葉をテキストに起こしたり、自然言語処理で言語を理解し、文章を作ることもできます。たとえば、iPhone搭載のAIであるSiriは、上記で説明したような機能が備わっています。
AIの特徴について
AIには、大きく2つの特徴があります。それは「自立性」と「適応性」です。自律性とは「人が指示することなく自動的に作業を行う能力」。適応性は「経験や学習によって能力を向上させる(パフォーマンスを上げる)能力」を指します。
「自律性」はAI以外の機械(ロボット)にも備わっていますが、「適応性」は、既存のロボットには備わっていません。この適応性こそ、AIの特徴と言えます。
AIのこれまでの歩みとは?歴史について紹介
AI技術は1950年代後半頃から研究が開始されています。現在のAIに至るまでの大きな3つの波について説明します。
■ 第1次AIブーム 推論・探索の時代
AI(人工知能)という言葉は、ダートマス会議(人工知能という学術研究分野を確立した会議の通称)で生まれたものです。ダートマス会議が開催された1950年代後半から1960年代にかけて、第1次AI(人工知能)ブームが起こりました。
コンピュータによる「推論」と「探索」が可能になり、特定の問題への解答を導き出せるようになったことがブームの背景にあります。しかし、当時のAIは現実社会で起こっている複雑な課題の解決には対応できなかったことからブームは徐々に下火に。その結果、1970年代には研究が停滞し冬の時代を迎えました。
■ 第2次AIブーム 知識を入れると賢くなる
第2次AIブームが到来したのは、1980年代~90年代。ブームの理由は、エキスパートシステムによる「知識表現」が可能になったことです。エキスパートシステムとは「○だった場合は✕とする。それ以外の場合は△とする」といったルール群で知識構成している人工知能です。自ら学習するという適応性はありませんが、あらかじめ考え得る事態を予測して対処方法をプログラミングすることができます。
知識構成のパターンが多いほど正確性は向上しますが、情報をすべて人の手でコンピュータに理解させる必要があり、活用できるのも特定の領域のみでした。こうした背景から、AI研究は1995年頃から再び冬の時代を迎えます。
■ 第3次AIブーム 2000年頃からの始まり
第3次AIブームは2000年代から始まります。背景は、AIがビッグデータから知識を取得する「機械学習」の実用化です。
2006年には「特微量」といった知識の定義をAIが自ら習得する「ディープラーニング(深層学習)」、脳の神経細胞の構造と働きをモデルにした「ニュートラルネットワーク」などが提唱され、ブームはさらに加速しました。
AIブーム3つの要因
AIブームは、3つの変化(要因)によって生じたとされています。
■ AI技術が大幅に進歩した
機械技術や深層学習など、AI技術は日々進歩しており、これまでに実現できなかったことが可能となりました。たとえば、自動運転、画像・動画・音声認識などが挙げられます。
■ データが増加した
機械学習のためには膨大なデータが必要です。AIが登場するまでは、企業の顧客データなど、限られたデータしかありませんでしたが、2010年頃からWebやソーシャルネットワーク、スマートフォンに搭載されているセンサーからも情報収集できるようになり、AIの機械学習に使えるデータが圧倒的に増えました。
■ 情報処理能力が進歩した
機械学習、特に深層学習には、コンピュータの高い計算力が必要です。コンピュータの半導体チップや画像処理に特化したGPU(リアルタイム画像処理に特化した演算装置)の性能向上などが、AIの機械学習を支えています。
AIは3つの用途に分類できる!AIにできること
AIにできることは日々増えていますが、ここでは代表的な3つを説明します。
■ 情報の判別や仕分けをする「識別」系AI
識別系AIは、画像処理や音声識別などのAIです。自動車の自動運転の研究に使われているAIは、車載カメラの画像を取得して、通行人・対向車・標識などを識別できます。
スマートフォンでの音声(特定の人の声)でロックを解除する技術も、AIによるものです。文章の識別もでき、テキスト読み上げ機能などが代表例です。
■ 数値を予測する「予測」系AI
予測系AIは、現在あるデータから未来の数値や結果を推論します。AI予測で使われることが多いのは「時系列データ」です。
時系列データとは、時間軸に沿ったデータ形式で、一定期間の気温や売上データなどがあてはまります。時系列データを分析することで、傾向から未来を予測したり、法則性を見つけて未来を推論します。
■ 自動翻訳などを行う「実行」系AI
実行系AIは、車の自動運転や工場の機械による代行作業などを指します。単純なプログラムによる作業ではなく、データをもとに判断しながら自動運転するものや、独自で動く自立型機械制御などが実行系AIです。運転などはもともと人ができる作業であるため、「人間代行型」と呼ばれることもあります。
2種類のAIについて
AIは「強いAI」と「弱いAI」に分かれます。強いAIと弱いAIとは、どのようなものなのでしょうか。
■ 強いAIと弱いAI
「強いAI」は人間と同等、あるいは人間の知能を超えるAIを指します。人間のような知能と汎用性を持ち、多様なタスクをこなせるAIです。
一方、「弱いAI」は、限られた作業しかできないAIを指します。知能レベルは人間と同等ですが、知能をいかせるタスクが少ない場合、「弱いAI」に分類されます。
AIは人間を超えられるか?
強いAIは、「AIは人間を超えるのか?人間は不要なのか?」と人類に敵対する存在として語られがちです。チェスなどでAIが人間に勝利した例もありますが、今すぐに「AIが人間を圧倒的に超える」とは言い切れないでしょう。なぜなら、AIが得意なことと人間が得意なことは異なるからです。
たとえば、AIは大量のデータを扱うことが得意です。車の自動運転では、外部環境の膨大な情報をカメラやセンサーで読み取って、車がとるべき行動を判断するといったことは、AIの力の見せどころです。
一方で、人間はAIにはできない「善悪を含む判断」を下すことができます。たとえば、法廷での最終的な判決や、法の仕組みそのものをつくる政治は、AIに一任することはできません。理由は、法や政治で間違いがあった時、「AIが判断したから」では済まされないからです。逆に言えば、善悪に関わらない、データのみで処理が可能な仕事は今後AIに置き換わっていく可能性があります。
業種別のAI活用事例
AIは適切に導入すれば、ビジネスにおける業務の無駄を省いてくれます。この項では、国内でのAI活用事例を紹介します。
■ 京セラ株式会社
京セラ株式会社は「アメーバ経営」で多角的な事業をグローバルに展開。同社では海外売上高比率が高く、さまざまな言語でビジネスコミュニケーションが行われています。
世界各国とやり取りをする京セラでは、翻訳不備などでコミュニケーションに誤解が生じるとビジネスに悪影響を与えてしまうことあります。そこで同社はNTTコミュニケーションズ株式会社が提供するAI翻訳サービスを導入しました。
このAI翻訳サービスはTOEIC960点超レベルの翻訳精度を実現し、翻訳に要する時間を人間の数十分の一から数百分の一に短縮できるクラウド型AI翻訳プラットフォームです。業界特有の専門用語を登録できる機能も搭載し、京セラのグローバル化を加速させました。
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■ 東京都福祉保健局
東京都受動喫煙防止条例により、受動喫煙を防止するための取り組みがマナーからルールへと変わるなか、都民や施設管理者に条例の内容を周知徹底することは不可欠です。
そのため、東京都福祉保健局は、専用相談窓口を開設しました。しかし、窓口が解説しているのは「平日9時~17時45分」です。この時間内に問い合わせをできない都民も多く、時間外や土日の対応も課題となっていました。
そこで同局は、「AIチャットボット」サービスをリリースし、24時間365日体制で問い合わせ対応を実現し、都民へのさらなる利便性の向上を図っています。
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■ 株式会社クボタ
株式会社クボタは、水道などのインフラ提供事業での実績を生かし、SDGsへの取り組みの一環としてAI機械学習(ディープラーニング)による「ごみ焼却炉における蒸気発電効率を高める実証試験」を行っています。
ごみ焼却炉における蒸気発電では、ごみの性質や形状により蒸気量が変化することに加え、蒸気量の制御が難しく、収益化できないケースがほとんどでした。そこでクボタは、焼却炉の各種データを分析し、蒸気量を予測した制御ができれば、発電効率を高められ焼却炉発電の普及に寄与できると考えました。
その方法は、現場の技術者が経験と感覚で制御していた領域にAI/ディープラーニングを活用して検証を大幅に効率化するというものでした。
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AIは意外に身近、会議の無駄も削減できる
AIは、我々にとって身近な会議の無駄を省くこともできます。たとえば、ほとんどの会議には議事録作成が伴い、多くの場合、会議の参加者のうち誰かがその議事録を作成することになるでしょう。
議事録担当者は、議事録作成に集中するあまりに、議論に参加することが困難になることもあります。しかも、担当者のスキルによっては議事録の出来に差が生まれます。会議中にレコーダーを使用し、会議後に議事録に起こすという方法もありますが、会議を一から聞き直し、それを文字に起こす作業もコストになります。
そこで活躍するのがAIです。たとえば、NTT Comの議事録作成支援サービス「COTOHA Meeting Assist」は、会議での音声データをAIがリアルタイムでテキスト化し、クラウド上に記録するサービスです。
これにより、会議参加者が議事録作成によって議論に参加できないということを防げます。音声を聞き直す際は、管理画面で当該部分のテキストをクリックすれば再生できるため、レコーダーのように繰り返し再生し、当該部分を探す必要もないため、議事録作成による無駄を大幅に削減できるのです。
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AIにもまだある問題や課題について
さまざまな場面で人間のサポート役になってくれるAIですが、自分で考え学習する分、問題も多く残されています。
■ 責任の所在がわからない
たとえば、自動運転の車が事故を起こしてしまった場合。このとき、車に乗っていた人に責任があるのか、車を作った会社に責任があるのか、難しい問題です。
これらは法律で定められていないため、AIを導入する際は、こうしたリスクについても事前に知っておくべきでしょう。さらに、現状、法や政治など、「善悪を含む判断を下すこと」はAIにはできません。こうした重大な決断をAIに任せて間違いが起きた場合は、「AIが下した判断だから」で済ますことはできないのです。
■ AIのプロセスが読めない
AIには、AIの考えのプロセスが見えない「ブラックボックス問題」が存在します。AIが何を考えて、どういった行動を起こすかは計り知れないため、重大な作業をAIに任せることはまだできません。
AI(特に自分で学習する適応性のあるAI)は、我々が予期しない行動を起こす可能性もあります。何かのアクシデントが起きた際に「こういう動きをしてくれるはずだったのに」と後悔するだけでは済まない場合も考えられます。
■ 雇用が減る可能性がある
善悪に関わる判断は人間が行う必要がありますが、たとえばホテルの受付や電話のオペレーターなど、業務内容や受け答えが限られているものは今後AIが人間に取って代わる可能性があります。
実際、人員削減に繋がるとして、こういった業務にAIを導入している企業もあります。今後、技術の進歩に伴ってAIにできることは増えていくでしょう。AIをよく理解して適切な使い方をすれば、人間にしかできない仕事も、AIが正確に行えるようになるかもしれません。
重要な作業はまだ人間の手がいい?AI導入は適切に
AIにはさまざまな可能性がある反面、問題も残っています。ビジネスのデジタルトランスフォーメーション(DX)推進にAIは欠かせない技術ですが、AIが得意な分野、人間が得意な分野が存在します。現時点でのビジネスにおけるAIの活用は、人間が担わなければいけないものAIに任せられるものを、人間が取捨選択する必要があります。
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