NTTコミュニケーションズ

Bizコンパス

【PNP Spring Summit】日用品をオンラインでサンプル提供するサービス、ギグワークでリサイクルを推奨するスタートアップなど
2021.06.28

シリコンバレー通信第39回

【PNP Spring Summit】日用品をオンラインでサンプル提供するサービス、ギグワークでリサイクルを推奨するスタートアップなど

著者 小室 智昭

2.Food & Beverage(食品&飲料)

(1) PNP社の注目エリア

 PNP社は、Ingredient Innovation(食材のイノベーション)、Data Analytics(データ分析)、Manufacturing、AgTech、Biotechnology(生物工学)、Food Supply Chain(食品のサプライチェーン)、Food Packaging(食品の包装)、Food Safety(食品の安全性)の8つの技術エリアに注目して今回のFood & Beverageのプログラムを進めてきた。

Food & BeverageにおけるPNP社の注目エリア

 2017年から始まったこのプログラムは今回で9回目を迎え、23社のコーポレートパートナーがStartupを支援してきた。PNP社はFood & Beverageのプログラムをシリコンバレー以外に、2020年にはミラノ、アメリカのファーゴとトピカ、タイ、上海・南京、2021年には、シカゴ、チューリヒ、東京で実施した。

左: 今回のFood & Beverageプログラムに参加したStartup、
右: Food & Beverageプログラムのコーポレートパートナー

 特にシカゴは、Tyson社、マクドナルド社などの食品関連の大企業やGrubhub社などのイノベーティブなスタートアップがいる。もしかすると、シカゴが今後のFood & BeverageのInnovationの震源地になるかもしれない。

 

(2) Keynote

 Food & Beverageプログラムの基調講演には、Northwestern大学の非常勤の准教授のDavid Donnanさんが登場した。Davidさんは、”食品と消費者行動の変化”と”COVID-19の影響”について考えを述べた。

 Davidさんによると、”食品と消費者行動の変化”については、”Affluence to Influence”(豊かさから影響)と題し、これまで消費者は物理的に量が多い商品が安く買えることを”価値”と考えていたが、最近は少量でも質の良い商品が買えることを”価値”と考える消費者が増えてきているという。そして「これまで消費者は豊かさ、マス広告、企業ブランドで食品を選んでいたが、最近は信頼、影響力、パーソナライズを重要視するようになった。」と続けた。

 Steve Jobsさんは生前、”ブランドは信頼そのものだ”と言っている。ミレニアム世代は、購入判断や投票判断は社会に大きなインパクトを与えると考え、消費者は大企業よりもファーマーズマーケットのような小さな店舗を信用しているという調査結果があるようだ。

購買動向に影響を与える要素(上: 従来、下: 現在)

 Davidさんは、「インフルエンサーの説明の中で”ダイエットをするときに誰の意見を聞きますか? 栄養士? 友達? 家族? 医師? ジムのトレーナー?” それともインターネット?」と質問を投げかけ、「現在、私たちはインターネットで多くの情報を得ています。」と答えた。

 インフルエンサーと仲良くなりたいと思っている消費者は大勢いる。そして企業も、インフルエンサーをマーケティングツールとして利用し始めている。一方、Jeff Bezosさんは、「対面で商売をしていた時と比べるとインターネット時代は悪い評判は1,000以上も早く伝わる」とインターネット活用リスクを語っている。

 Personalize(個人最適化)に関してDavidさんは、「テクノロジーは生活の一部になり、消費者の行動を変えた。特に2014年以降はモバイルによるインターネットアクセスがパソコンによるインターアクセスを超え、企業はユーザの行動に関する多くのデータを得られるようになった。そして、フィードバックメカニズムが開発され、集められた情報は消費者の行動を変える情報として活用されるようになった。Google社、Facebook社、Amazon社などは消費者行動を正確に予測するためのMLアルゴリズムの開発に余念がない。」と説明した。

 AIはすでにフードデリバリーにも大きな影響を与えている。消費者行動に関するデータはパーソナライズ、ターゲティング、ロイヤリティに活用され、”Data = Currency”(データ=お金)と言っても過言ではないそうだ。

データ活用のサイクル

 2021年のフードトレンドについてDavidさんは、Health and Wellness(健康)、(Local Community(地元コミュニティ)、Experience & Discovery(体験と発見)、Sustainability(持続可能性)の4つを挙げた。

 最後に、After COVID-19の消費者行動のポイントとして、次の6点を紹介した。

・健康に気を遣う。
・生産者、生産地、生産方法に関心を持つ。
・企業ブランドへの依存が下がり、広告よりも友達を信用する。
・新しい商品、テイスト、体験を求める。
・ネットで買って家でくつろぎながら楽しむ。
・常に情報を集める。

 

(3) Startup Pitch

 今回で9回目のFood & Beverageプログラムでは、15社のスタートアップがピッチを行った。

 前回と同様に、新たな食材を開発しているスタートアップもいたが、今回はPackaging、ブランド戦略に関するスタートアップが多かった印象だ。今回のFood & BeverageプログラムでAwardを受賞したPeekage社もブランド戦略に関するソリューションを提供している。それでは、Awardを受賞したPeekage社を含めた私個人のTop3 Startupを紹介する。

 

(3-1) Peekage社

 Peekage社は、オンラインでサンプリング調査ができる仕組みを提供しているスタートアップ。Peekage社のサービスについて説明したのは、Peekage社のCo-Founder & COOのSina Roshanさん。Sinaさんは、「コストコなどの店内試食コーナーは、新商品を目当てに行列ができるが、店舗での試食やサンプル提供は、消費者の購買行動の50%にしか貢献していない」と説明した。

 しかし、CPG(Comsumer Packaged Goods、日曜消費財)と呼ばれる商品の主な販売方法は、店頭での試食とサンプリングで、化粧品関連の商品の売り上げの1/3は店頭でのサンプリングによるものだそうだ。Sinaさんは、「昨年、企業はCPGの店頭での試食およびサンプリングに$70B(700億ドル、約7兆6千億円)も投資した」と語る。各企業は、適切な消費者に正しいメッセージを届けるための努力を続けている。そして、Shopify社のようなD2C(Direct to Consumer)の拡大により、既存の方法に変わる方法のニーズがより高まった。

 そのようなマーケットの変化をもとに、Sinaさんは、簡単に新商品を発見・体験でき、データに基づいたパーソナライゼーションを提供するためにPeekage社を立ち上げた。ユーザーはPeekage社のスマートフォンアプリから体験したい商品を探して、サンプルを依頼する。サンプルを試した後は、Peekage社のスマートフォンアプリで評価、コメント、意見を投稿する。Peekage社は、ユーザーが数分で評価、コメント、意見を伝えられるようにスマートフォンアプリのデザインに拘っている。商品に関する評価を投稿したユーザーは、パーソナライズされた商品の体験に利用できる「Peekage Coin」というポイントが得られる。

 Peekage社の企業ユーザーは、Peekage社の集めた年齢、収入、ライフスタイルなどの200種類以上のプロファイル情報を元に企業が期待しているターゲットユーザーに対して新商品のキャンペーンを提案できる。さらに、企業ユーザーはPeekage社のプラットフォームを通じて、キャンペーンの効果を測定・確認できる。現在、12のブランドがPeekage社のプラットフォームを活用し、6万人以上のエンドユーザーが同社のサービスに登録している。

 Peekage社はShopifyや他のメディアなどとも連携していて、簡単にサンプリングのOmnchannel化も実現できる。例えばP&G社は、GilletteブランドをPeekage社のPlatformを活用してShopifyなどでキャンペーンを行っている。

 Peekage社のビジネスモデルは6ヵ月以上のサブスクリプションで、企業規模に応じて月額費用は異なる。

 米国ではコロナ禍でCostcoなどのスーパーは店内での試食やサンプル提供を控えていたが、ワクチン接種率が接種対象者の42%(5月27日時点)を超え、実店舗で試食やサンプル提供をするお店が増えてきた。しかし、Sinaさんの説明やDavidさんの基調講演によると、オンラインでのサンプリング調査ニーズはさらに高まりそうだ。Award受賞はアフターコロナでもPeekage社は成長し続けるという表れだろう。

左上:サンプリング(店頭からオンラインへと拡張)、
左下: P&G社のGillettのサンプリング、右: Peekage社のDashboard)

 

(3-2) BranchOut社

 BranchOut社は、アボカド、バナナ、チェリー、パイナップルなど加工時に傷んでしまう野菜や果物を、チップスや粉末にする加工技術を独自に開発しているスタートアップ。BranchOut社のFounder & CEOのEric Healyさんは、「植物由来の食材マーケットは2020年に27%成長して$7B(70億ドル、約7600億円)に達した。アボカドは、栄養価が高く、アンチエンジン効果もあり、米国市場だけで10年間で市場は2倍になった。」と説明した。そして「バナナは米国で一番消費量が多いフルーツだ」とバナナをターゲットにした理由も説明した。

 BranchOut社は3年をかけて乾燥やフリーズドドライでは実現できない栄養素はそのままで色と味も本物そっくりのサクサクとした食感のチップスの製造に成功した。

 BranchOut社はアボカド、バナナ、パイナップルのチップス、アボカド、バナナ、ブルーベリーの粉末をCostco、Sam’sなで販売を開始し、2020年3月からは、Sprouts Farmers Market、Walmart、TJ-maxx、Krogerなどへと販路を拡大した。

BranchOut社の製品(左: アボカド、右: バナナ)

 

(3-3) W-CYCLE社

 W-CYCLE社は、エコフレンドリーなPackaging Solution(包装ソリューション)を開発しているスタートアップ。W-CYCLE社のCo-Founder & CEOのLior Itaiさんは、「プラスティックは素晴らしい素材で私たちの生活に欠かせない。しかし問題は、消えてなくならないことだ。」と切り出した。

 Itaiさんは、「年間で350Mトンのプラスチックが生成され、その40%がパッケ―ジとして使われている。9%のプラスチックが回収されているが、リサイクルされるプラスチックは3%以下だ。それ以外は、燃やされるか埋められかだ。」と現状を憂いている。そして、「リサイクルは根本解決にならないと考えたItaiさんは、エコフレンドリーで製造コストが安くプラスティックと同じ性能を持つPackagingを実現するためにW-CYCLE社を立ち上げた。Itaiさんが目指すPackagingは、どんな温度の液体でも耐水性があるパッケージだ。

 W-CYCLE社が開発したSuperPulpは、FDA(アメリカ食品医薬品局)およびEU Food Contact Materials(ECによる食品に接触する素材・製品に関する規則)から承認された100%再生可能な素材で摂氏-40度から270度での耐水性、耐油性を兼ね備えている。

 W-CYCLE社のターゲットは、食品工場、学校や病院、飛行機、電車、船舶などの旅行業、そしてFood Deliveryを含めたレストラン業界だ。

 W-CYCLE社のPackagingは、スープや湿った食品、油っぽい食品も安心して持ち帰れて、使用後は堆肥として生まれ変わる。再利用も大切だが、「エコな使い捨て素材」という選択肢を市場が求め始めているのかもしれない。

W-CYCLE社のターゲット(左: 料理例、右: ターゲットユーザー)

SHARE

関連記事

デザイン思考は、イノベーションを生みだす魔法の杖ではない

2021.07.21

ニューノーマル時代にビジネスはどう変わるのか第31回

デザイン思考は、イノベーションを生みだす魔法の杖ではない

企業にCDOが求められる3つの理由

2021.07.16

ニューノーマル時代にビジネスはどう変わるのか第30回

企業にCDOが求められる3つの理由

有識者が解説する「誤解だらけのサブスクとDXの関係性」

2021.06.25

デジタルトランスフォーメーションの実現へ向けて第68回

有識者が解説する「誤解だらけのサブスクとDXの関係性」

早大IT戦略研究所 根来龍之氏 「日本の大企業だけがDXに後れを取っているわけではない」

2021.06.04

デジタルトランスフォーメーションの実現へ向けて第67回

早大IT戦略研究所 根来龍之氏 「日本の大企業だけがDXに後れを取っているわけではない」