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FinTechからスマートヘルスケアまで、PNP Winter Summit 2020の気になるスタートアップ(後編)
2020.12.21

シリコンバレー通信第34回

FinTechからスマートヘルスケアまで、PNP Winter Summit 2020の気になるスタートアップ(後編)

著者 Bizコンパス編集部

c) Authentication

c-1) Keyless社

 Keyless社は、生体情報を用いてGDPRやCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)にも対応した、データ保護と認証プラットフォームを提供するサイバーセキュリティ分野のスタートアップ。

「私たちは10年以上、生体情報と画像認識について研究開発を続けてきた。」と説明したのは、Keyless社のCo-Founder & COO/CFOのFabian Eberleさん。同社はいつでも、誰もがどんな端末でも個人情報、プライバシーを守りながら、どんなデジタルサービスにもアクセスできるようにしたいという思いを語った。Fabianさんは、「記録させなければ、盗まれることはない。」という。生体認証を使えば、記録することも記憶することもなく、特別なスキルがなくても利用できるというのが信念のようだ。

 Keyless社は生体情報からキーを生成し、分散型プラットフォームに暗号化して登録する。認証が必要な場合、分散型プラットフォームで管理された情報を元に一回だけ利用できる鍵を生成して、ユーザーキーと組み合わせて認証に利用する。生体認証は顔認証だけでなく、ユーザーの動きやタイプのスピード・パターンなどと組み合わせることもできる。

 Keyless社のビジネスモデルは企業・個人向けのサービス提供と開発者向けSDK(ソフトウェア開発キット)提供だ。Keyless社はPre-Seed、Seedながら、$6.2M(620万ドル、約6億4千万円)の資金を多くの投資家から調達していることを鑑みると、投資家達はこの分野と彼らの成長に注目しているのかもしれない。

Keyless社のサービスの利用フロー

 

c-2) Unum ID社

 Unum ID社は、スタンフォード大学にゆかりがあるLiam McCartyさんと弟のAidan McCartyさんが立ち上げたスタートアップ。同社は、パスワードがいらない「ACME」というMobile Payment Platform(モバイル決済プラットフォーム)を開発しており、このPlatformを「Sharified Identity」と名付け、商標登録を済ませている。

 ACMEの利用事例を説明する。eコマース事業者がACMEを活用したWebサイト、モバイルアプリを開発・提供する。ACMEはeコマース事業者のモバイルアプリの裏で動いていて、eコマースがACMEを使って作成したQRコードをユーザーがスキャンすると、ACMEは即座にユーザーを認証する。それと同時にユーザーはeコマースユーザーを認証する。盗み出すID情報がない上に、双方向認証の仕組みを持ち、どちらかの認証が失敗すると取引は成立しないため、ハッカーはすぐに炙り出されてフィッシング詐欺は成功しない。

 ACMEは、iPhoneのFaceIDなどの既存の認証システムとの連携も可能だそうだ。「ACMEを利用すると、OktaやActive Directoryなどの高価で複雑な認証システムがなくても簡単かつ安全に、そして安価に認証プラットフォームを構築できる」とUnum ID社のCo-Founder & CEOのLiam McCartyさんは説明した。また、Liamさんは、「あなたの子供達がFloppy Diskを知らないように、将来、ID/パスワードを知らない子供達が出てくるだろう」と面白い例えをしてくれた。

 Unum ID社はSamsung Next社やスタンフォード大学などから資金調達している。Samsung社はUnum ID社のようなモバイル決済ソリューションが大好きなので、近いうちに買収されるかも知れない。

Unum ID社の双方向認証の仕組み

Unum ID社のデモの様子

(3-2) Travel

a) Keynote

 スタートアップピッチの前のKeynoteに登場したのは、Thayer Ventures社のChris Hemmesterさん。Thayer Ventures社は、若いスタートアップを支援するために$80M(8千万ドル、約83億円)ファンドを運用している。

 Chrisさんの経験に基づいたCOVID-19にまつわるKeynoteがとても印象深く、「俺は、ハワイ育ちなので海が恋しい。早くハワイに行きたい。」と話した素直な気持ちに親近感を覚えた。TravelのカテゴリーはKeynoteを中心に伝えたいが、さすがにすべては紹介しきれないため、箇条書きでメモのようなスタイルにて紹介する。

1) 市場規模が$9T(9兆ドル、約940兆円)の世界最大の業界である旅行業界は過去に経験したことがない苦境に直面している

2) 複数の調査会社のレポートをまとめると、Zoom社の収入と世界の主要15社の航空会社の総収入が同じ。

3) 悪いことばかりではない。全ての業界でデジタル化は確実に進んだ。

4) 古き良き時代は終わり、将来に向けて投資家、起業家、サプライヤー、経営者の頭の中にはホワイトノイズが広がっている。

5) これからどこに向かうのか誰もわからない。だからこそ、起業家、イノベーターにチャンスがある。

6) これまでの経験から、ワクチンが配布されるなど、人々が”安心”と思えば、市場は急成長する。

※ 人類は集まることが大好きなので、”安心”が広がれば、エンターテイメント業界も急速に復旧する。

7) Crunchbase社によると、Early Stageへの投資に関してはCOVID-19の影響はあまり受けておらず”Gas Stations open”(24時間営業のガソリンスタンドのように、常にオープンな状態にあることの例え)。Growth Stageへの投資は、2020年Q3に成長に転じた。

8) “Technology”は必ずしも必要ではないが、Mobile First、360-degree Data Analytics(多面的な視点によるデータ分析)、Cloud、Tech Team(開発チーム)、Open API、AI&ML、IoT&Roboticsは必要不可欠なツールで、これらが製品開発、デジタル化・自動化を牽引し、俊敏性を改善して更なる成長をもたらす。

9) PropTech(不動産テック)では、Second Home_as_a_Serivce(別荘のオンデマンドサービス)や、レンタカーセンターの空きスペースを短期宿泊施設として提供するサービスなど、新たなビジネスモデルも登場している。

10) リーマンショック後にUber社やairbnb社などの多くのユニコーンが誕生した。このクライシスの後にどんなユニコーンが誕生するか、誰がそれを成し遂げるのか楽しみだ。

11) 投資プロセスにおけるFace to Face Engagement(対面での打ち合わせ)は何物にも変え難いもので、Virtualは一時的なもの。

12) 投資家からポートフォリオ企業への一番大切なメッセージは”Protect Capital(資本を守れ)”。

Keynoteまとめ

 

b) スタートアップ Pitch

 Travelのカテゴリーには18社のスタートアップが登場した。登場したスタートアップは、COVID-19、効率化、UX(ユーザーエクスペリエンス)の3つ分野に分類できる。ここでは、効率化の分野からThe Data Appeal Company社、UXの分野からPort社とDitto社を紹介する。

Travelプログラムに参加したスタートアップ一覧

 

b-1) The Data Appeal社

 The Data Appeal社はSNS、写真、天気、イベント、危険情報、レポートなど、さまざまな情報をインターネットおよびパートナーから収集して分析し、旅行者がリアルタイムに正しい判断ができるようなアドバイスを提供するプラットフォームを開発しているスタートアップ。The Data Appeal社が旅行者に提供する情報は、大別すると目的地の地理的リスク、世間の評価、行動アドバイスの3つになる。同社が提供する情報は、例えば、Wi-Fiが利用できるレストランやカフェの情報や観光客の数、そして最近はCOVID-19の感染リスクも提供している。

 同社が独自に開発したAIを活用したビッグデータ分析プラットフォームは、毎分500万件の情報のリアルタイム分析を可能とした。

 The Data Appeal社のFounder & CEOのMirko Lalliさんは、「私たちのプラットフォームは、医療、飲食、小売、政府、不動産、金融、保健、運送などでも利用できる。」とさまざまな業界でも利用できることを説明した。実際に、旅行業界以外に、ホテルチェーンのBest Western社、ビル管理のJLL社、Swisscom社、UniCredit Bank社などが、The Data Appeal社のプラットフォームを利用している。

左上: Data Appeal社が提供するリスク情報   右上: Data Appeal社の情報ソース       左下: Data Appeal社の仕組み         右下: Data Appeal社の導入実績(抜粋)

b-2) Port社

 Port社は、ビデオ・コミュニケーションを活用して旅行者に世界中のどこでも利用できるリモートツアーガイドサービスを提供しているスタートアップ。Port社のモバイルアプリは、高解像度の写真を撮影し、その写真をモバイルアプリのアルバムに保存できるようになっている。また、お気に入りの場所をブックマークしたり、建物などの情報を画面に表示できる機能も提供している。

 Port社のビジネスモデルはプラットフォーム利用料だ。旅行会社などがPort社のプラットフォームを使った場合、旅行会社に収入の25%を利用料として請求する。

 Port社は、旅行会社以外にもツアー会社、イベントプロモーターにもサービス提案している。そして、日本のHIS社が同社のパートナーとなり50カ所の観光地で500のオンラインツアーを提供するようだ。

 同社のピッチを見ていて、「No-code(ノーコード、プログラミング不要)でモジュールを組み合わせるだけで、簡単にモバイルアプリが開発できる仕組みがあると、Skywayはさらに拡大するかもしれない」と思った。最近は、No-codeでモバイルアプリが開発できるIDE(統合開発環境)が人気で、色々な業種のPitchでNo-code開発環境を提案するスタートアップを見かける。

Port社のリモートツアーガイドアプリ画面

 

b-3) Ditto社

 Ditto社は、インターネットがなくてもリアルタイム通信を可能とするマルチプラットフォーム対応のSDKを提供しているスタートアップ。Port社のCo-FounderのMax Alexanderさんは、eコマースを模したデモで、インターネットに接続しているiOS端末とAndroid端末が同期している様子を見せたくれた。次に、一つの端末をAirplaneモード(機内モード)にしても全ての端末が同期する様子を見せた。そして、一つの端末をオフラインにすると、その端末だけは同期されないが、その端末を再びOnlineにすると、自律的に同期を開始する様子を見せてくれた。

 Maxさんは、同社の技術は、飛行機のキャビン内の乗務員同士のコミュニケーションや、コックピットにいるパイロットとキャビン内の乗務員とのコミュニケーションに利用できると考えているようだ。

 そして、出来立てホヤホヤのサービスについても説明した。そのシステムは、乗客向けの機内食オーダーシステム。乗客が自分のスマートフォンにインストールした航空会社のアプリから機内食をオーダーし、そのオーダーが乗務員の端末にリアルタイムに送られるというものだ。「ある航空会社がDitto社のSDKを使ってアプリ開発をしている。」とMaxさんは説明した。

 Ditto社の仕組みはキャビンの長さが50Mを超える飛行機にも対応できる。その秘密は、同じアプリをインストールしているスマートフォン同士でメッシュネットワークを構築し、カバレッジを拡大できるからだ。

 同社のピッチを見ていて「無線の使用が厳しい航空業界には最適なソリューションだな」と思ったが、建設業や製造業などWi-Fiや携帯網が届かない場所でも利用できるのではないかと思った。

左上: Ditto社のデモ、左下: 機内食オーダーのコンセプト、 右(上・中・下): 航空業界での利用事例

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(3-3) InsurTech

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