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IoTから自然エネルギーまで、PNP Winter Summit 2020の気になるスタートアップ(前編)
2020.12.14

シリコンバレー通信第33回

IoTから自然エネルギーまで、PNP Winter Summit 2020の気になるスタートアップ(前編)

著者 小室 智昭

(3-2) Real Estate

 Real Estateのカテゴリーには16社のスタートアップが登場した。今回のReal Estateカテゴリーでのスタートアップ Pitchを見る限り、Real Estate業界に関わるスタートアップにとって、デジタル化、自動化、仮想化がブームのようだ。

 Summer Summit 2020のReal Estateカテゴリーでは、位置情報、IoTを活用した資産管理、安全性確保のソリューションが多く提案されていたことを考えると、Winter Summitではそれとは異なる課題を解決するソリューションを提案するスタートアップが多く集まった。その中には一気にデジタル化に向かう提案をするのではなく、業界の古くからの習慣に沿って、リアルな世界とデジタルの世界を組み合わせたデジタルツインを実現しようとしているスタートアップもいた。

Real Estateプログラムに参加したスタートアップ一覧

 

a) Constru社

  Constru社は、360度カメラを使って、建設現場をデジタル化する技術を持ったスタートアップ。他社と比べて強みとなる空間デジタル化サービスを提供しており、その一つが工程管理。空間をデジタル化するだけでなく、工事の進捗状態を可視化できる。

 課金モデルもユニークだ。ライバルがデジタル化するサイトの数に応じて課金するのに対し、Constru社はデジタル化するスペースの広さに応じて課金する。大規模工事を請け負っている建設会社には辛い課金モデルではあるが、Constru社は、Real Estate業界における錬金術を心得ていると言える。

左: Constru社のサービスのLife Cycle、右上:撮影ポイント(左)、AR画像(右)、 右下: 進捗管理Dashboard

 

b) BuildFore社(SlatPlanner)

 業務の進捗を可視化する場合、ホワイトボードや模造紙にスケジュールを書いたり、タスクを書いた付箋紙を貼っている人もいると思う。BuildFore社のSlatPlannerは、そのように業務の進捗や工程を管理している人向けのデジタルツインサービス。SlatPlannerの使い方は、以下の(1)~(3)の通りでいたって簡単だ。

1) カラープリンターでSlatPlanner専用の色分けされたテンプレート(Slat Note)を印刷する。

2) Slat Noteにタスクの名前、内容、日付などを記入して壁などに貼り付ける。BuildFore社はSlat Noteを貼った壁は”Slatwall”と呼んでいる。

3) SlatPlanner専用アプリで貼り付けたSlat Noteを専用のスマートフォンアプリで撮影し、プロジェクトの状況(開始・遅延・完了など)を登録する。

 たったこれだけで、どこにいても誰とでもプロジェクトの進捗を共有できる。Slat Wallはサイズの制約がないため、どんな大きなプロジェクトにも対応できるそうだ。

 BuildFore社はWebベースのSlatPlannerダッシュボードを提供していて、PC、スマートフォンでプロジェクトの開始、終了などの各タスクの進捗状況の更新、確認ができる。SlatPlannerダッシュボードを使うと、プロジェクト管理者は、遅れが生じているタスクをすぐに確認できるため、迅速に状況の確認、対策の指示ができる。

 SlatPlannerは建設業界以外にも利用できそうな印象を持ったため、ピッチ後にBuildFore社の、マネージャーのSteve Mooreさんに個別に打ち合わせをして質問すると、「そうだね。ただ、私たちのCEOのMoodyは、建築業界に知見があるから、他の業界に展開するにしても、まずは建築業界で実績を積んでからだね」と話してくれた。

SlatPlanner社のサービスライフサイクル

 

c) ARUtility社

 ARUtility社は社名が表す通り、地中に埋まっているファイバー、送電管、ガス管、水道管などのインフラの情報をARで管理、可視化するソリューションを提供しているスタートアップ。ARUtility社が達成したい一番の目標は、安全な工事現場の実現と作業員の安全性の確保だそうだ。

 同社は地下に埋まっているインフラをARで可視化するためのスマートフォンアプリを提供していて、ユーザーが簡単に、リアルな現場にARでインフラ画像を重ね合わせて表示できるようになっている。作成したARコンテンツは、他の社員、協力会社なども利用できる仕組みになっている。さらに、同社のスマートフォンアプリは現場を測定できる機能も提供している。

 同社は、esri社などと技術パートナーのサポートを受けながら、ソリューション開発を進めている。 ビジネスモデルは、通信、ガス、電気、上下水道の各業界へのソリューション販売と技術ライセンシングだ。

ARUtility社のデモ画面

(3-3) Mobility

 Mobilityのカテゴリーには22社のスタートアップが登場した。少し前までは、どのカンファレンスでもMaaS(Mobility_as_a_Service)と自動運転に関するソリューションばかりだったが、Winter Summit 2020ではセンサーとAIによる事故防止ソリューションなど目線が変わったように感じた。特に、Computer Visionとクラウドを組み合わせたスマートライフは今後大きく成長しそうだ。

 以下に紹介するスタートアップ以外にも、Connected Vehicle(コネクティッドカー)やConnected Robot(コネクティッドロボット)に必要なConnectivity(接続)サービスを提供するスタートアップなど、通信事業者目線でも興味深いスタートアップがMobilityのカテゴリーに多く登場し、世界的にMobility業界が注目されていることを再認識した。

Mobilityプログラムに参加したスタートアップ一覧

 

a) Traxen社

 全てのOEM(自動車メーカー)が提供している「クルーズコントロールシステム」は、一定の速度で走行することを目的に作られている。そのため、登り勾配では必然的に加速するので、どうしても燃費が悪くなる。

 Traxen社はAIを活用し、燃費に注目したクルーズコントロールシステムの「iQ-Cruise」を運送業向けに開発しているミシガン州のスタートアップ。ATRI(American Transportation Research Institute)社の調査によると、運送業の費用の24%が燃料費だそうだ。ほとんどの運送業者は、費用の約半分を占めるドライバーのコストを節約することを目指すが、Traxen社は運送業に対して、燃料費の10%の節約と50%以上の粗利の向上を提案している。

 Traxen社は、走行中の道路の状況、その先の勾配、カーブ、渋滞、天気、トータルの走行ルートをAIで分析して、最適な燃料管理を実現している。同社は2年かけてソフトウェアを開発し、8つの特許を出願している。現在、7社の運送業社とPoCを実施し、10%以上の燃料が節約できることを証明したそうだ。

 Traxen社は、MVP(Minimum Viable Product、実用最小限の製品)の開発も終わり、2021年春に予定しているSeries Aに先駆けて$2.5M(250万ドル、約2億6千万円)のPre-Series Aの機会を探っている。

Traxen社のiQ-Cruseのアルゴリズム概要

 

b) Provizio社

 Mobilityの分野におけるセンサー技術と聞いてすぐに思い浮かぶのは、自動運転車を実現するための技術だろう。しかし最近は、V2X(Vehicle-to-Everything)といわれる自動車と交通インフラとの通信、自動車と歩行者との通信などのプラットフォームの一部としてのセンサー技術が注目を集めている。

 Provizio社は、交通事故を減らすためのV2Xソリューションを実現するためのレーダーを開発しているスタートアップで、Provizio社のFounder & CEOのBarry Lunnさんは、同社のレーダーの強みを”5D Imaging(5次元画像)”と説明する。

 Provizio社が定義する5D Imagingとは、距離・高度・深度の3Dに加速度(4D)と認知(5D)を加えた5つを指す。認知の部分については、車載型のエッジコンピューター、AI、ML(機械学習)で実現している。Provizio社は、この技術で高速移動中でも、視界が悪い悪天候、夜間でも、自動車の周りにいる歩行者、自転車、他の車両の動きを検知して、事故を予測・回避しようとしている。

 Barryさんはピッチ後の個別打ち合わせで「自動車メーカーも衝突防止や車線変更注意などのソリューションを提供しているが、センサーの能力もソリューションも不十分だ」と説明してくれた。続けて「交通事故防止ソリューションの市場規模は2025年までに2020年の約3倍になるという予測もあるんだよ。」と教えてくれた。

 それを裏付けるように、同社は2020年11月にSeed Roundとして$6.2M(620万ドル、約6億4千万円)を調達し、2021年Q3までにSeries Aの資金調達を目指す。Barryさんは、これまでセキュリティ、航空宇宙に関するスタートアップを起業し、Provizio社が3社目の起業となるSerial Entrepreneur(シリアルアントレプレナー、何度も新しい事業を立ち上げる起業家)で、COVID-19禍でも更なる成長を目指している。

Provizio社による他社製品との性能比較

 

c) Sensagrate社

 Sensagrate社は、「SensaVision」というComputer VisionとAIを組み合わせたMobility as a Serviceを開発しているスタートアップ。SensaVisionは、交通渋滞の改善と交通事故減少に向けて、交通データをリアルタイムに分析・可視化するためのプラットフォームだ。同社のプラットフォームは、交通事故の予測、歩行者の安全性の確保、ドライバーへの他の車両や歩行者の検知・通知、そして交通信号の制御を可能とする。

 Sensagrate社の強みは、センサーに依存しないということだろう。同社は、独自のセンサーの開発も行っているが、すでに街中に設置されているカメラやセンサーを利用したり、それらのカメラやセンサーと新しいカメラやセンサーと組み合わせて利用することができる。

 Sensagrate社は、Toyota Mobility Foundationが主催したMobility Unlimited Challengeへの参加や、アリゾナ州のツーソン市やフェニックス市とのPoC実施など、2020年は積極的に活動したそうだ。

 同社は、OEM、センサー開発会社、交通ソリューションのプロバイダーとの連携を目指しつつ、SAFE(Simple Agreement for Future Equity; 将来株式の簡易な同意書)による$1.8M(180万ドル、約1億8千万円)の資金調達の機会を探している。

上; SensaVisionの仕組み、下: センサシング結果

 

d) Carbin AI社

 車に乗っていて、壊れたガードレール、変な方を向いているミラー、穴が空いた道路などを見つけて、”補修して欲しいな”と思ったことがある人は多いと思う。Carbin AI社は、そんな思いを自治体に伝えてくれるソリューションを提案しているスタートアップ。同社は、車両が収集した振動データを、AIを使って路面状況を分析し、補修が必要な道路の情報をクラウドソーシングの仕組みを使って自治体に伝えている。

 Carbin AI社のCo-Founder & CEOのJacob RoxonさんがCarbon AI社を立ち上げた背景に、Telematic(テレマティクス、ITを用いた自動車向け情報サービス)システムの普及がある。「今は、ドライバーのスマートフォン、Telematicデバイス、車両が実装している通信機能などを利用して容易に車両データを共有・分析することができるようになった。」と説明してくれた。
 Carbin AI社は、アプリ開発者向けのSDK(ソフトウェア開発キット)と、クラウドソリューションプロバイダー向けのAPIの2タイプの製品を提要している。Carbin AI社の特許申請中の技術はMIT(マサチューセッツ工科大学)で開発されたもので、500,000 マイル(80万キロメートル)以上を走行して、振動データの収集、AI アルゴリズムの開発・改良、システムの拡張性に対するクラウドソーシング効果測定を行ってきたそうだ。

 同社は現在、運送業、Tier2 Supplier(二次サプライヤー)、テレマティクスソリューションプロバイダーと連携してビジネス拡大を目指している。さらにJacobさんは、分析されたデータは、道路の補修だけでなく、ドライバーや同乗者の安全性の確保、自動車のメンテナンスコストの削減、自動車保険のリスク回避にも使えると考えているようだ。

上; SensaVisionの仕組み、下: センサシング結果

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(3-4) Energy

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