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IoTから自然エネルギーまで、PNP Winter Summit 2020の気になるスタートアップ(前編)
2020.12.14

シリコンバレー通信第33回

IoTから自然エネルギーまで、PNP Winter Summit 2020の気になるスタートアップ(前編)

著者 小室 智昭

(2) PNP Winter Summit 2020の概要

 PNP社はスタートアップおよび、企業のイノベーション活動の支援のために、頻繁にイベントを開催している。PNP社が主催するイベントは様々あるが、”Summit(サミット)”と呼ばれるものが、一番規模が大きく、年間で4回開催される。Summitは様々なカテゴリーのスタートアップが自社のサービスをアピールするピッチイベントや、企業のイノベーション担当者や起業家によるKeynote(基調講演)を聞くことができ、将来注目を浴びるサービスや技術をいち早く入手できる。さらに、シリコンバレー流の考え方、仕事の進め方、成功体験を学ぶ絶好の機会となっている。

 例年であれば、カリフォルニア州サニーベール市にあるPNP社の本社でSummitを開催するのだが、今回もCOVID-19の影響でSummer Summit 2020に続き、Zoomによるオンラインでの開催となった。COVID-19前に行っていたスタートアップのデモテーブルでの議論や食事を取りながらの談笑は、Remoというグループチャットに適したツールで代用していた。気軽に質問ができたり、他の人の会話が聞けるのは良い点だが、個人的には熱量が足りない感じがした。

 PNP Winter Summit 2020では、IoT、Real Estate、Mobility、Energy、FinTech、Travel、InsurTech、Healthの8つのカテゴリーで、Keynote、パネルディスカション、のべ150社のスタートアップピッチが行われた。

PNP Winter Summit 2020のプログラム一覧

(3-1) IoT

 IoTのカテゴリーには19社のスタートアップが登場した。PNP Winter Summitの中では、比較的COVID-19対策としてのRemote(リモート)、Contactless(非接触)に関するソリューションを開発しているスタートアップが多かった。

 ただ、Summer Summit 2020と比べると、提案しているCOVID-19対策が異なっていた。例えば、Summer Summit 2020では、「入館時の体温検査や認証をContactlessにし、しかも複数人同時にリアルタイムに行える。」などといったソリューションが目立ったが、Winter Summit 2020では、その類のソリューションの影は薄い。Winter Summit 2020においては、After COVID-19を睨んで、いかに業務を自動化、効率化できるかということに主眼を置いているスタートアップが多かったと思う。

 さらに、IoTの分野は省電力、無給電への注目度がさらに高まっている。以前は、Shoof社が省電力なIIoTソリューションを提供しているほぼ唯一のスタートアップだったが、この数ヵ月の間に、PNP社以外にも数社と出会った。

 その背景には、クラウドと通信を行うゲートウェイは、電力が供給できる場所に置かれることが通常だが、タグは電力供給が難しい場所に置かれることがほとんどだからだ。省電力、無給電なIIoTソリューションは、荷物の運搬管理、工場や工事現場の資産管理、Smart Cityなど、利用用途は無限に広がる。

 これらを鑑みると、以下に紹介するスタートアップは注目すべきスタートアップだと思う。

IoTプログラムに参加したスタートアップ一覧

 

a) Gideon Brothers社

 Gideon Brothers社は、Amazon社の倉庫の中で動いているような棚を運ぶロボットを開発しているスタートアップ。同社のロボットは完全に自動化されていて、荷物や棚を運ぶ際も自律的に走行する。Gideon Brothers社のロボットはComputer Vision(コンピュータビジョン)で、自分の進む先にいる人、物、車両、ロボットの存在をリアルタイムに確認できる。

 さらに同社は、今話題のSLAM(Simultaneous Localization and Mapping; 位置特定)技術を活用して、ロボットが正確な位置を把握できるようにしている。同社はロボット開発だけでなく、既存のフォークリフトを無人化する技術開発も行っていて、PNP Fall Summit 2020のSupply ChainカテゴリーのKeynoteに登場したDB Schenker社が同社の技術を採用している。

 Gideon Brothers社は2019年10月には、Seed Round(シードラウンド、新ビジネスのスタートアップ期に行われる資金調達)として€4.9M(490万ユーロ、約6億円)の資金を調達していて、2021年にSeries Aを調達予定。PNP社は€2.7M(270万ユーロ、約3億4千万円)を調達した2018年のConvertible Note(転換社債)によるSeed Roundに参加している。

左: Gideon Brothers社のセンシング技術(上: 物体認識、下: 位置認識)、 右上: フォークリフトソリューション、右下: 自走式ロボット

 

b) ForceN社

 ForceN社は、IIoT、Robotics、医療業界、航空宇宙産業、自動車業界業をターゲットにした極薄のセンシングフィルムを開発しているスタートアップ。ForceN社のCEOのRobert Brooksさんは、「私たちが開発したフィルムは世界で一番薄いセンサーだ。」と説明した。

Brooksさんは、「スマートフォンの背面にこのフィルムを貼り付けるだけで、スマートフォンを持っている力、スマートフォンの先端にかかる荷重やトルクを測定できる」と説明を続けた。他にも、製造業社が利用している機械に同社のフィルムを貼って振動を分析した故障予知、ロボットアームの先端に同社のフィルムを貼って人間が行うような繊細なタッチの実現、など幅広い用途とニーズに応えられるそうだ。

 現在、ForceN社は、パートナーと一緒に試作品を開発し、商用化に向けて潜在顧客と議論をしている。ForceN社の本社はカナダのトロント市。トロント市のスタートアップと聞けばAIのイメージが強いが、優秀な大学が近くにあることもあり、AI分野以外にも目が離せないということだ。

ForceN社のフィルムの利用事例

 

c) Pascal Tags社

 Pascal Tags社は、資産管理のためのIoTソリューションを提供しているスタートアップで、精度が低い、可用性及び効率性が悪い、といった既存の資産管理IoTソリューションの課題を解決しようとしている。

Pascal Tags社のCEOのBrandon Youngさんは、ピッチ後の個別ミーティングで、「Pascal Tags社のタグは、QRコードのような手軽さとコストパフォーマンスに加え、QRコードにはない機能性を兼ね備えている。」と話してくれた。Pascal Tags社のタグにはユニークなシリアル番号が割り当てられているため、資産をもれなく管理できるそうだ。

 Pascal Tag社の強みは2つある。一つは、タグがバッテリーフリーで長寿命。もう一つは高い経済性。同社のタグは、極薄ながら磁気から自己発電できる仕組みを持っている。高い経済性は、タグとゲートウェイとの通信にWi-Fi/5Gといった一般的な通信プロトコルを使用しているからだという。Bandonさんは、ピッチの中で「タグのコストは一つ$0.1以下で、プロジェクトの総コストからすると微々たるものだ。」と説明した。

 ターゲット市場は明確で、サプライチェーンにおける荷物のTracking(追跡)、倉庫や工場内の資産管理が最優先だそうだ。

左:Pascal Tags社が解決したい課題(上)と解決後のイメージ(下)、 右上: 機能比較、Pascal Tags社の成長戦略

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(3-2) Real Estate

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