老朽化や複雑化、ブラックボックス化した既存の基幹システム(以下、レガシーシステム)への対応に大きな労力を強いられる「2025年の崖」は、国内企業がDXを実現するために克服しなければならない課題です。
連載第1回 では「2025年の崖」とは何か、第2回では「2025年の崖」を克服するための「DX実現シナリオ」について、整理しました。
第3回では、「2025年の崖」を克服するための“アクション支援ツール”である「DX推進指標」について解説します。
「DX推進指標」とは、どんなツールなのか?
ユーザー企業が2025年の崖を克服するためには、2020年までにシステム刷新の経営判断を行い、DXの推進に向けたアクションにつなげていくことが必要となります。
DXの推進にあたっては、これまでの仕事の仕方や企業文化の変革も求められ、「DXによって顧客視点でどのような価値を創出するか」「なぜ、その改革が必要なのか」「DXを実現するために経営の仕組みをどう作り変えるのか」といった、経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門など、関係部門の担当者が現状や課題を共有した上で、必要なアクションをとっていくことが重要となります。
経済産業省では、「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開に向けたアクションにつなげるための気付きの機会を提供する指標として、2019年7月31日に「デジタル経営改革のための評価指標(DX推進指標)」を公表しました。
DX推進指標は、以下の2つから構成されています。
1)DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標
「DX推進の枠組み」(定性指標)、「DX推進の取組状況」(定量指標)
2)DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標
「ITシステム構築の枠組み」(定性指標)、「ITシステム構築の取組状況」(定量指標)
定性指標は35項目で構成され、現在の日本企業が直面している課題やそれを解決するために押さえるべき事項を中心に選定しています。

出典:デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」) 2019.7
定性指標では、DX推進の成熟度を以下のとおり、6段階で評価しています。たとえば、レベル1の場合は「一部での散発的実施」、レベル3は「全社戦略に基づく部門横断的推進」、レベル5になると、デジタル企業として、グローバル競争を勝ち抜くことのできる「グローバル市場におけるデジタル企業」としています。

定性指標における成熟度の考え方
出典:デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」) 2019.7
DXの枠組みに関する定性指標では、ビジョンや経営トップのコミットメント、仕組み、事業への落とし込みから構成されています。ビジョンにおいては、たとえば「AIを使って何かやれ」では事業は前に進みません。企業がデータとデジタル技術を使って、変化に迅速に対応しつつ、顧客視点でどのような価値を創出するのか、社内外でビジョンを共有できていることが大前提となります。
ポイントとなるのが、「事業への落とし込み」です。DXを通じた顧客視点での価値創出に向け、ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化の改革に対して、経営者自らがリーダーシップを発揮して取り組んでいるか。また、戦略やロードマップの明確化や、社内外のサプライチェーンやエコシステムを通したバリューチェーンワイドの実施なども重要となってきます。

DX推進の枠組みに関する定性指標
出典:デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」) 2019.7