DXを推進していくとき、多くの企業で課題となっているのが「DX人材」の不足です。
たとえば、情報システム部門が既存ITシステムの運用・保守に手一杯で、事業部門がデジタルを活用した新たなビジネスのプランを打ち出しても、それを実現することができないというケースもあります。
そういった課題を解決するため、企業はDXの取り組みをリードできる適切な人材をどのように選び、あるいは育てていけばよいのでしょうか。
前編では、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)のエバンジェリスト林雅之氏が「DX推進における自社課題」についての読者アンケートで最多回答だった「組織やITシステムのサイロ化」について解説しました。後編の本稿では、2番目に回答の多かった「適切な人材のアサイン方法」について解説します。
DX人材には、テクノロジーだけでなく文系的な感覚も必要となる
DXを推進する「適切な人材」をアサインしていくためには、どのような考え方が必要なのでしょうか。林氏はまず、DX人材に必要な素養について、次のように説明します。
「DX人材は、どちらかというと文系的な感覚が必要になると考えています。IPAが発表した『DX推進に向けた企業とIT人材の実態調査』を見ると、DXに対応する人材に必要な素養として、課題設定力や主体性・好奇心が挙げられています。社会や異業種を巻き込むことを求められる場面も多く、さまざまなタイプの人たちとコミュニケーションできることも必要です。

NTTコミュニケーションズ株式会社
エバンジェリスト 林雅之
NTT Comデータプラットフォームサービス部にて広報、マーケティング等を担当。国際大学GLOCOM客員研究員。総務省 AIネットワーク社会推進会議 構成員(2016-2018)。経済産業省 データ流通及びデータプラットフォームのグローバル化に関する研究会 招聘委員(2018)。一般社団法人クラウド利用促進機構 総合アドバイザーなども務め、クラウドを中心にDXの推進に寄与する活動に積極的に取り組んでいる。主な著書は『イラスト図解式この一冊で全部わかるクラウドの基本』(SBクリエイティブ)、『スマートマシン 機械が考える時代』(洋泉社)など。企業が「With/Afterコロナ」で検討すべきIT投資とは?など、Bizコンパスへの定期的な寄稿も行っている。
特にDXをリードする人材には、将来のビジョンを描いたり、未来を構想する力が求められます。これは“妄想力”と言い換えてもいいかもしれません。将来このようになるのだから、現段階ではこれに取り組んでおくべきといった、ビジョンを描いた上でDXを進めていかなければ、周りを巻き込むことはできませんし、プロジェクトのスタートラインにも立てないでしょう。DXやデジタルビジネスの企画や立案、推進を担うという意味では『ビジネスをデザインできる人材』という言い方が近いかもしれません」
もちろん、デジタルテクノロジーを活用していくスキルも必要です。林氏は、IDC Japanによる「国内企業のデジタル人材に関する調査(2020.7)」を踏まえながら、DX人材に必要なのはハードウェアよりもソフトウェアのスキルであるといいます。
「ハードウェアも重要ですが、外部のベンダーの協力を得やすい領域である上、昨今ではさまざまなクラウドサービスを利用する手もあります。社内のDX人材に求められるのは、それらのハードウェア上で実行するソフトウェアを組み立て、ベネフィットを創出できるスキルです」
With/Afterコロナでのニューノーマルなビジネス環境において、個人としての「キャリア形成」を考えた場合でも、DXは大きなポイントになるといいます。
「新型コロナウイルスの影響によってテレワークが浸透し、働き方や評価制度についても『メンバーシップ型』から『ジョブ型』に変える企業が増えつつあります。こうした中で、ビジネスパーソンとしての自分自身の付加価値を高めるためには、ひとりひとりがジョブ型雇用を意識しながら、DXに対応できる人材としてのスキルを高めていくことが重要です」(林氏)