けれども、スポーツ用具の急速な進化には、必ずといっていいほど調査、そして場合によっては規制がかかる。
記憶に残るところでは、2008年の北京オリンピックで話題となった水泳の「高速水着問題」がある。
イギリスのスピード社が開発した「レーザー・レーサー」を着用した選手が、23の競技種目で世界記録を連発した。同社はアメリカ航空宇宙局(NASA)を筆頭とする世界トップクラスの技術を結集し、ポリウレタン素材の高性能水着を生み出した。
だが、2009年7月に国際水泳連盟は「2010年より水着素材を布地のみに制限する」という新ルールを発表した。
さらに翌年1月には、競泳水着の規定変更を最終決定した。それによると、水着の布地については「繊維を織る、編む、紡ぐという工程だけで加工した素材を使用」と限定された。
それだけでなく、水着が体を覆う範囲も限られた。プール競技では男性用は「すねから膝までの部分」、女性用は「肩から膝までの部分」、海や川、湖などで行われるオープンウォーター競技については、男性・女性ともに「肩からかかとまで」と制限されたのだ。
これによって事実上、レーザー・レーサーを公式大会では使用不可となり、2008年から続いた高速水着騒動は収まった。
今回の厚底シューズを巡っても、一時は賛否両論となった。今年の1月15日には、「世界陸連がズームXヴェイパーフライネクスト%の使用を禁止する」という報道も飛び出した。
だが、当事者の一人である大迫は「どっちでも良いからさっさと決めてくれーい!」と、早急な解決を望む声をTwitterに書き込んだ。
このとき、思い出されたのが「レーザー・レーサー騒動」での平泳ぎ・北島康介の主張である。北京五輪前に行われた2008年の国内大会にて、「泳ぐのは僕だ」と記されたTシャツを着て、世間に訴え出たのだ。
結果、北島は北京五輪で2大会連続の金メダルを獲得した。「水着よりも個々の選手の努力に注目してほしい」と彼は言いたかったに違いない。もちろんTwitterで声を上げた大迫とて、北島と同じ心境だったはずだ。