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なぜ日本企業は先陣を切らないのか。スマートシティ開発3つの課題と最大の壁
2021.06.15

IT&ビジネスコラム第11回

なぜ日本企業は先陣を切らないのか。スマートシティ開発3つの課題と最大の壁

著者 NewsPicks BrandDesign

※本記事は2020年10月7日にNewsPicksに掲載された記事です。

 スマートシティ──これからの社会課題を語る上での最重要ワードであり、ビジネスにおける計り知れない可能性を秘めた“新大陸”だ。

 しかし、あなたはこの言葉の実態をどこまで理解できているだろうか。

 世界各国で進むスマートシティ開発はまだ道半ばだが、国や自治体、企業によって意味するところさえ異なるままに持て囃され、早くも“バズワード”として独り歩きしつつある。

 ここで、改めてスマートシティの現在地を捉え直し、日本独自のあり方を探るべく、建築家の豊田啓介氏とNTTコミュニケーションズのスマートシティ推進室長・加賀淳也氏とが意見を交わした。

 インターネット、スマホ、SNS、Zoom、5G……テクノロジーの進化によって、社会はどんどん繋がっていきます。人と人、人と社会との距離を超えながら、いかによりよい未来を創っていけるのかを探る大型連載「Change Distance.」。

 コミュニケーションの変革をリードするNTTコミュニケーションズの提供でお届けします。

あまりにも広がりすぎた「スマートシティ」の概念

──最近、あちこちで「スマートシティ」という言葉を耳にしますが、実際にはどんな都市を指すのか、いまいちつかめずにいます。

豊田 スマートシティって名称が相当なミスリードですよね。もはや、その全体像を捉えきれていないと思います。

東京大学工学部建築学科卒業。安藤忠雄建築研究所などを経て、2007年から建築デザイン事務所noizを共同主宰。建築を軸にプロダクトデザインから都市まで分野を横断した制作活動を行う。17年より建築・都市文脈の横断型プラットフォームgluonを共同設立。テクノロジーベースのコンサルティング活動を行う。25年開催予定の大阪・関西万博の誘致時に、会場計画アドバイザーとして関わった。東京大学生産技術研究所客員教授。

──それは、どういうことでしょうか?

豊田 そもそも定義が曖昧で、国や企業によって意味するところが違うから、余計にわかりにくいんです。

 国内では、2010年代初めにスマートシティを謳った神奈川県藤沢市でのプロジェクトが代表的で、エネルギーやセキュリティに特化したものと思われている節がある。

 そうした先行する事例のイメージに引っ張られて、“これからあり得るはずの姿”が見失われていると感じます。

加賀 時には同じ社内ですら思い浮かべるものが変わりますよね。

 私の所属するスマートシティ推進室は、オフィスビルなどの都市開発を手掛けてきたチームが母体で、これまでの都市開発では、まさにエネルギーやセキュリティを扱ってきました。

 モビリティや教育、ヘルスケアといった社会全般のまちづくりを指す場合と比べると、狭義のスマートシティと言えます。

1995年日本電信電話(NTT)に入社。持株体制への移行により設立したNTT東日本で設備計画から保全まで携わった後、持株会社とNTTレゾナントで映像コミュニケーションサービスの立ち上げから運用までを経験。06年にNTTコミュニケーションズへ移り、ネットビジネス事業戦略策定やアフィリエイト広告事業運営、IDaaSサービスの立ち上げを経験。現職では多店舗ネットワークや都市開発に関わるSIに携わるとともに、スマートシティ推進室の立ち上げからデジタルツイン実現に向けたスマートシティ案件に携わる。

豊田 最近こういった話をしてばかりで忘れられがちなんですけど、僕の本業は建築家。設計のお仕事もぜひお願いしたいところですが(笑)、加賀さんのおっしゃるとおり、本来のスマートシティは都市開発にとどまらず、あらゆる領域を内包するものだと思います。

 街なかのデータをリアル空間に落とし込むことで、人やモノの物理的移動のほか、情報の移動や編集を可能にする。そして、価値の面でも体験の面でも、今より多様な選択肢のある世界をつくり出す。

 その基盤をあらかじめ環境側から提供することが、スマートシティの本質です。

 そして次世代のスマートシティでは、情報の移動と人・物の物理的な移動が等価になり、世界中どこにいても同じ利益を享受できるようになる。「都会だから便利。地方は不便」といった概念はなくなります。

 この世界観にのっとれば、郊外や地方都市、田舎、リゾート地などの土地の性質を問わず、どこだろうとスマートシティのネットワークが広がっているべきです。

 それなのに、「シティ」と言った瞬間に「都会のもの」と思われる。

加賀 私もスマートシティの本質は、街のありとあらゆるデータを縦横無尽に活用し、暮らしの質や価値を上げていくことにあると考えています。

 例えば横須賀市では、電力データとAIを活用して在宅かを見極め、配達を効率化する実証実験を行っています。

 こんなふうに、「水道や電気のデータはエネルギー分野だけに」「監視カメラならセキュリティ分野だけ」と縦割りで活用するのではなく、データを横串に新たな価値を創造していくのが、我々の考えるスマートシティです。

豊田 情報を物理世界に接続していくのは、まさに世界的なトレンドですね。となると、NTTグループも全社を挙げて、これから物理領域に打って出るのですか?

加賀 というより、NTTはもともと物理領域に強いとも言えるんです。

 データ通信を支えるインフラ整備を担うNTTコミュニケーションズも、センサーを建物に埋め込み、地下や海底にケーブルを敷設し、時にはスカイツリーの先端に登ってカメラの設置や保守をしてきました。

加賀 リアル空間とのデータ接続が求められる今こそ、こうした我々の長年の積み重ねが、もっと有効活用できるのではないかという思いがあります。

──街なかのデータを集めて活用するには、どんなテクノロジーが必要になるでしょうか?

加賀 自分たちは何に取り組むべきか、社内で議論を重ねていくと、「デジタルツイン(※)」というキーワードが出てきました。

※「デジタルの双子」の意。現実世界のデータをもとに、仮想空間にリアルタイムな連動性を以て再構築し、そこで高度なシミュレーションを行う

 今後は、リアルタイムな街のデータ化が当たり前になる。究極的には、街そのものをデジタル記述した「デジタルツイン」が誕生し、それを基盤にスマートシティが実現するだろう、と。

 まず我々は、その下支えとなるデータプラットフォームの構築に注力しています。

豊田 僕はスマートシティ実現のためには、デジタルツインからもう一歩踏み込んだ「コモングラウンド」の実装が必要だと考えています。

コモングラウンドは、人工知能学会の西田豊明氏が「人工知能と人間が会話をするための共通基盤」として提唱した概念。「初めて聞いた時に、スマートシティ実現のカギはこれだと思った」と豊田氏

豊田 スマートシティには、サービスを提供するデジタルエージェント(※AIやアバター、自律走行マシンなど)が不可欠です。しかし、彼らは物理的な世界を人間のように五感で認識することはできません。

 そこで必要になるのが、人間もロボットも空間や物体を認識できる共通基盤。僕はそれをコモングラウンドと呼んでいます。

──コモングラウンドの実装で、どんなことが可能になりますか?

豊田 さまざまなインパクトが考えられますが、わかりやすいところで言えば、サービス導入の効率化と将来的な調整可能性でしょうか。

 例えば、あるビルに自律走行ロボットのサービサーとARナビゲーションのサービサーが計10社一斉に入るとしましょう。それぞれビル全体をスキャンしていたら、非効率極まりないですよね。

 そこで、デベロッパー側があらかじめ、ビル内の多種多様な3Dデータや属性データ、センサー等のシステムを体系化したコモングラウンド環境を提供し、サービサーはそれに対応できる環境を整える。

 一社あたりのコストは下がり、現地に行かずとも事前準備ができて効率がいい。同じデベロッパーのビルであれば、サービスの横展開もしやすいはず。

 つまり、あるエリアで自律走行やAR実装をするための物理環境SDKが、あらかじめ公開されているイメージです。

これまで実世界のデータ類は共有されず、サービサーの数だけ空間のスキャンや実証実験が必要だった。コモングラウンドというオープンなプラットフォームの実装が、各社に最適な形での情報提供を可能にし、サービス開発における非効率を解消する

豊田 こういった環境が整って初めて、超高層ビルのオフィスからコーヒーやお弁当を頼むと、デジタルエージェントが効率を計算して、さらに他のロボットや人の動きとも調整しながら届けてくれる。そんな未来が可能になると思います。

加賀 お昼の混雑が緩和されれば、30基必要だったエレベーターを10基削減できるかもしれない。その分、空間を効率的に使えるようにもなりますね。

豊田 はい。そして2025年の大阪・関西万博が、このコモングラウンドの実証実験における絶好の機会と捉えています。仮設都市を作って実験できるなんて、世界的に見たってまれですからね。

 まずこの秋から、大阪市内に11社が参画した「コモングラウンド・リビングラボ」を設置し、シミュレーションを重ねていきます。現在、いろんな領域から参画企業を募っている段階ですが、すでに大きな反響をいただいています。

 その成果を万博会場、そして実際の都市でのコモングラウンド実装につなげていきたいですね。

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