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気象学最後の謎が、巨大なビジネスチャンスに。超高精度に風を測る京大発テックベンチャーの躍進
2021.06.08

IT&ビジネスコラム第9回

気象学最後の謎が、巨大なビジネスチャンスに。超高精度に風を測る京大発テックベンチャーの躍進

著者 Bizコンパス編集部

使われなくなった鉄塔が、風のデータ基地になる

2019年に始まったNTTコミュニケーションズのオープンイノベーションプログラムで、メトロウェザーは「山中の無線中継所や鉄塔の新しい活用による、新たな価値創造」というテーマの共創パートナーとして採択され、「オーディエンス賞」と「審査員特別賞」のダブル受賞となった。以降、2020年にはNTTコミュニケーションズと業務提携契約を締結。スタートアップと大企業はどのように共創関係を結んだのか。

──そもそもこのプログラムはどういった経緯で応募したのでしょうか。

東 とにかく、機器を試験的に設置させてもらえる場所を探してたんです。それで、「鉄塔や無線中継所を活用した新たなサービス」という募集に出会って即日、「鉄塔を活用した小型ライダーの展開による風況データ活用の実現」という内容で応募しました。

──当時、メトロウェザーからの応募内容を見て、平川さんはどう思われましたか?

 NTTコミュニケーションズ平川裕樹(以下、平川) まず直感的にとてもおもしろいと思いました。

NTTコミュニケーションズ入社当初より、映像伝送サービスの企画・開発チームで新規サービス開発を担当。2017年より現職。NTTコミュニケーションズにおける基盤設備を管理する組織の企画業務において、事業計画策定のほか、オープンイノベーションプログラムを活用した新規事業開発に向けた取り組みを実施。

 たしかにこれからの世の中にはドローンが増えるだろうし、「風を制し、空の安全を守る」という公共性のあるビジョンも、NTTコミュニケーションズと親和性があると感じました。弊社に風を扱う事業はこれまでなかったのですが、ドローンが安全に飛べるよう空のインフラを整備するのは、通信ネットワークなどのインフラ整備に近いですよね。

──そもそも、なぜ「鉄塔や無線中継所を活用した新たなサービス」というテーマを設定されたのでしょうか。

平川 私がいる部署はインフラデザイン部という、建物やケーブルなど物理的な資産を管理している部署で、その資産の一つに鉄塔がありました。

 全国の都道府県の要所に鉄塔があり、以前は無線の設備などを置いていたのですが、近年は通信も地下を這う光ケーブルが主流になり、あまり使われなくなっていたんです。維持にもコストがかかるし、なんとかビジネスに活かせないかと考えて、テーマを提起しました。

NTTコミュニケーションの社屋から望む鉄塔。こちらも同社の管理資産

──協業はどのように始まったのでしょうか。

平川 まずは鉄塔を一緒に見に行くことから始めました。六甲山に鉄塔があるのでそれを見に行き、まずはここにドップラーライダーを設置して風況データを取得してみましょう、という話になったんです。でも、ドップラーライダーの開発にご苦労されていたようで……。

東 昨年8月末に開催されたオープンイノベーションプログラムの中間発表には、完成が間に合わなかったんです……。

平川 完成までの間に、他にやれることはないかと考えました。そこから、NTTコミュニケーションズのネットワークやクラウドを活用して、風況データのプラットフォームを構築するというアイデアが出てきました。また、今のままだとドップラーライダーで取得したデータが解釈しづらいので、NTTコミュニケーションズの方でもっとわかりやすくビジュアライズするという話も進んでいます。

 鉄塔にこだわらなかったのが、逆に良かったのかもしれません。メトロウェザーさんからも信号処理技術の部分で新しいアイデアを出していただき、さまざまな方向性を検討することができました。

──平川さんは、そもそもインフラデザイン部として、遊休資産の活用が目的で、このプログラムのオーナーになっていたんですよね。それが今では事業提携から新規事業的な役割を担われているということですか。

平川 結果的にはそういうことになりますね。うちの上司も新規事業の可能性を理解してくれて、社内でも、いろんな部署から応援してもらって、今に至ります。

正直に意見をぶつけ合い、一つのチームになれた

──とはいえスタートアップと大企業。カルチャーのギャップなどはなかったのでしょうか。

平川 カルチャーの違いはもちろんありました。ですから、時間をかけて議論したんです。

東 いつも平川さんたちは「何が一緒にできるか」とスタートアップ側に立って柔軟に考えてくれるんです。

平川 一度、お互いの意見をぶつけ合い、真剣に議論したんですよね。そのときに権利関係についてのメトロウェザーさんの思いを、ダイレクトに伝えてもらったのが良かったと思います。

東 テクノロジーベンチャーの失敗のいくつかは、権利関係の問題について、うまくアライアンスを組めず、事業に制約が生まれて、先細りしてしまうというケースが多いと聞きます。

 今回だって「鉄塔のプロジェクトで応募したんだからそれをやるべき。できないなら関係は終了」と一方的に切られる可能性があった。でも、まったくそうではありませんでした。

平川 話を聞いて、権利をNTTコミュニケーションズ側が持つことで、メトロウェザーさんのビジネスが発展しないというのは本末転倒だと考えました。そこで、メトロウェザーさんの希望がなるべく叶うように、法務や財務などを含め、関係部署で調整をおこなったんです。

東 あのときは内心「ここまで言ったら、関係が終わってしまうかな」とヒヤヒヤしていました。でも、言わないと表面的な付き合いで終わってしまう。それでは、この先うまくいかないと思ったんです。

平川 こちらとしては、スタートアップ側がNTTコミュニケーションズをうまく使って、どんどん成長してくれたらいいと思っているんです。将来的にメトロウェザーさんがこのオープンイノベーションプログラムをきっかけに成長して、大きなビジネスを一緒にできたらそれが一番ですよね。

──今、NTTコミュニケーションズとメトロウェザーはどんな関係だと思いますか?

平川 オープンイノベーションプログラムの共創パートナーは、委託とは違って、足りない部分を補い合っているという感じなんですよね。友達……でもないし、なんて言ったらいいんでしょう。

東 こちらとしては、チームを組ませてもらっている感覚ですね。はじめはNTTコミュニケーションズさんのオフィスがあるビルに入るのも緊張していました。それくらい遠い存在だったのですが、今は同じ目標に向かって走っているチームメイトだと感じています。

 ドップラーライダーで取得するデータを、どう活用するか。その部分はメトロウェザー単独ではできないことばかりです。だからこそ、NTTコミュニケーションズさんとタッグを組んで発展性のあるビジネスにつなげていきたいんです。

──最後に今後の展望についてお聞かせください。

平川 風況データのプラットフォームは、システム環境をつくっている最中です。それができたら、実際にお客さんに提案し、一緒に検証していこうとしています。

東 ドップラーライダーも、フィールドで実証実験をする段階に入っています。5年後には、NTTコミュニケーションズさんの鉄塔には必ずドップラーライダーがついていて、世間的にも、それで風のデータをとっていることが認知される世界になっていたらいいですね。

 まだ世界的にも、小型で高性能なドップラーライダーは出回っていないので、早く量産の体制を整えて海外にも進出したいと考えています。

 また、気象学の面でも最後の謎であった「屋根の少し上くらいの高さの風」の全貌が明らかになるのではないか、と期待しています。ドップラーライダーでデータが集まるようになれば、新たな発見がきっとあるでしょう。

(編集:中島洋一 構成:崎谷実穂 写真:加藤麻希 デザイン:田中貴美恵)

※本記事はNewsPicksに掲載された記事です。

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