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気象学最後の謎が、巨大なビジネスチャンスに。超高精度に風を測る京大発テックベンチャーの躍進
2021.06.08

IT&ビジネスコラム第9回

気象学最後の謎が、巨大なビジネスチャンスに。超高精度に風を測る京大発テックベンチャーの躍進

著者 Bizコンパス編集部

「なければ作ればいい」ものづくり魂が起業につながった

──既成のドップラーライダーで、地表に近い風を測れるようになったのでしょうか。

東 いえ、最初はうまくいきませんでした。外国製のドップラーライダーでテストしてみたのですが、計測できる距離が想定よりも全然短く、思うように観測できなかったんです。

 その結果を受けて、古本さんが「よし、(自分たちで)作ろう」と言い出したんです。僕は「ちょっと、センセぶっ飛びすぎやろ……」と引きましたね(笑)。

──そんなにかんたんに自作できるものなんですか?

東 いや、めちゃめちゃ難しいんです(笑)。今年の5月にやっと1号機が完成したので、6年かかりましたね。

──ぶっ飛んでますね……。

東 あはは。琵琶湖の湖畔で言われたときのこと、今でも忘れられません。

 僕らがいた研究室は「ないなら作ればいい」というマインドがありました。滋賀県の超巨大レーダーも、研究室の先輩方が30年ほど前に作ったという歴史がありまして。「ないなら作ればいい」マインドが受け継がれていたんですよね。最初はできるわけがないと思ったのですが、最終的にはやってみようと決心しました。

──そのドップラーライダーを開発するにあたって、起業の話が出てきたんですね。

東 当時、大学の研究成果を世の中に出していくべきだという、社会の気運が盛り上がってきていたんです。大学としても、研究成果を社会実装していこうという気運が高まっていました。

 でもこの時点で僕は大学の研究員。スタートアップのことなどまったく知りませんでした。そこで、くわしそうな人にどうしたらいいか聞いてみたら、「まず、東さんが大学を辞めてCEOになることですね」という答えが返ってきました。

──急展開ですね。

東 ほんまに急展開ですよ。でも、今のまま研究を続けても、成果が出なければ僕自身も行くところがなかったんです。

──と言いますと。

東 じつは研究者としてこのままやっていくことに疑問を感じていました。昔は40歳くらいまでにみんな助教になって、自分の研究室を持つというキャリアプランがありましたが、今はそんなことありません。

 ポスドクという立場だと、2、3年の任期なのでその間に成果を出せないと終わり。容赦なく切られます。若手研究者が集まると、もっぱら「次どうする?」という話ばかりです。

 一方、アメリカでは研究成果をビジネスに転用し、国から予算をもらうだけでなく自分で研究費用を稼いでいる人たちがいます。日本にはそうした事例があまりないので、チャレンジしてみたいと思ったんです。

──研究の世界に行き詰まりを感じていたんですね。

 「チャレンジしてあかんかったら、そのときはそのとき」と考えて、起業に踏み切りました。1年間起業準備をして、2015年に古本と一緒にメトロウェザーを立ち上げたんです。

 僕、民間の気象会社で契約社員として働いていたことがあるんです。2009年に古本の研究室に入ったものの、2年では風をレーダーで捉えられなかった。論文という成果もないので、呼び出されて「このままだと残られへん。どうする?」と進退を迫られたんです。

 そこで、とりあえず気象会社で働くけれど、非常勤として籍は残してほしいと頼みました。研究者の道は諦めたくなかったので……。

──気象会社では、どんな仕事をされたんですか。

 工場などの建設予定地の気象を調査・評価する環境アセスメントの部署に配属されて、全国を飛び回りました。何をするかというと、空き地で風船を上げまくるんです。

──風船を上げる……?

東 ゴム製の気球に温度計などをつけて、気温や風向、風速の観測をするんです。2交代で24時間観測するのですが、僕はだいたい夜勤の担当でした。夜9時から朝の9時まで、3時間おきに誰もいない場所で風船を上げる。

 明け方になってくると、つらくなってくるんですよ。スーツ姿で出勤する人の姿が見えてきて、時折「自分はなにをやってるんだろう」と考え込んでしまう(笑)。

──たしかに考え込みそうです。しかし、その頃から今にいたるまで、東さんはずっと風を計測しているんですね。

東 そうですね。たしかにずっと風を測ってますね。だからその実地の経験は、ビジネスのニーズとしてとても理解できたんです。こんなんバッと計れたらいいやろな、という。

──なるほど。そして研究室に戻ってから1年ほどで、起業を決意された。起業してから、ドップラーライダーの開発は順調だったのでしょうか。

東 いやあ、そんなことはありません。原理はわかっていて、構成もわかっているけれど、いざ組み上げてみると思ったようにデータがとれない。その繰り返しでした。

 ドップラーライダーは、レーザー光源、光を分割する装置、光を増幅する装置、といくつかの部品の集合体なんです。それらの一番適切な組み合わせを見つけるのが難しかった。難解なパズルのようでした。

 その結果、今年の5月に6年がかりで1号機が完成して、もうすぐ10月には、さらに小型化した2号機ができます。

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