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【太田直樹✕藤井保文】謎ワード「スマートシティ」をリードするプレイヤーは誰か?
2021.04.22

IT&ビジネスコラム第3回

【太田直樹✕藤井保文】謎ワード「スマートシティ」をリードするプレイヤーは誰か?

著者 NewsPicks BrandDesign

DX時代の都市設計思想とは

──社会課題のDXで言えば、スマートシティについてはいかがでしょうか。

太田 そうですね。「スマートシティ」って、DXと並んで“謎ワード”だと思うんですよ。その言葉を使っておけば、重要な仕事をしている気分になるけど、実はみんな考えていることが違うという(笑)。

 僕の解釈としては、DXもスマートシティも、今チャンスが顕在化しているのは「資源の最適化」にあると考えています。

──「資源の最適化」ですか。

太田 新興国なんかがわかりやすいのですが、人口がどんどん増加しますよね。でも医療、インフラといった資源は限られている。放置していると、しょっちゅう停電したり、医療サービスが劣悪で健康リスクが高まったり、治安が悪化したりと、目に見える問題が噴出してくる。

 だから資源の利用をデータを通じて可視化して、効率的に配分するためにデジタルが用いられていく。それができれば、国や土地の魅力度が高まる。その意味で、海外ではスマートシティやDXの目的がはっきりしています。

藤井 わかります。中国なんかはまさにそうです。

 交通、医療、行政といった公共資源に人が殺到してしまうので、車の渋滞も酷いし、医療の整理券を取ったら診療は3日後ということが普通にありました。

 そういった深刻な社会課題を、DXによる大胆な「資源の最適化」で乗り越えようとしている。つまり、ある種の危機感が、社会のDXを推進する原動力になっているように思います。

 一方、日本でスマートシティと言えば、都市エネルギーの「省エネ」といった効率化レベルの話に矮小化されてしまう。

太田 日本の場合は、既存のアナログサービスが“そこそこ良い”ということが、DX推進の上で難しいんですよね。

藤井 「資源の最適化」という文脈で言えば、ある程度、資源が分配されて、社会インフラ上大きな課題がない状態に収まっている。

太田 そういうことです。既存のオフラインのサービスがそれなりに充実していて、実際には、その裏に非効率な構造があるけれども、経営者をはじめとして、多くの人が現状に不満がない。

 結果として、雇用の維持になっていて、それでいいという社会的コンセンサスがあるように思います。だから、DXやスマートシティの必要性を、自分事として感じにくいのかもしれません。

藤井 スマートシティについて太田さんに伺ってみたいのが、これからの都市の構造変化です。

 従来の都市構造は、まず電気・ガス・水道・交通網といったインフラがあって、その上に経済活動が成立しているものと理解しています。それが、デジタル化で逆転する現象が起こるんじゃないかと思っていて。

 つまり、現在の経済活動に基づいたデータを基盤に都市が作られていく。そうしてできる街は、可変性が高いものになっていくのかなと。

──具体的にはどういうことでしょうか?

藤井 例えば、アリババが展開している「フーマー」というスーパーマーケットがあります。あれは、アリババが保有するEコマースのデータと、Alipayの電子決済データを基に、見込み顧客が集まっているエリアにピンポイントで出店しています。

 中国の北京の南部に「雄安新区」という政府直轄のスマートシティ区画ができているのですが、ここはフーマーみたいな発想で街全体を作ろうとしているように見えます。それでいて建物にエアコンを入れないとか、軽く作っているんです。

 極端な話、ユーザーの行動に最適化された街は、家から徒歩5分以内に自分の好きなものが全部ある。ユーザーの行動データに基づいて、容易に街を作り変えることができる。そんな「スマートシティ」のあり方が、これからひとつの基本思想になるのでは、と考えているのですが、どう思われますか。

太田 そうですね。大きな流れでいうと、トップダウンとボトムアップ、つまり「国家主導」と「民間主導/市民参加型」で分かれていくんじゃないでしょうか。まず、雄安新区のような都市計画は、何もなかったところに、国家主導のトップダウンで街を作っていますよね。

藤井 そうですね。

太田 今、タイで進んでいる「Eastern Economic Corridor」(東部経済回廊)というスマートシティ構想にも、アリババが参入してるんです。なぜかというと、そういう大規模なDXをマネジメントできる人材やノウハウがタイの民間企業にないからです。つまり、新興国ではトップダウンの大胆な都市構想が進みやすい。

藤井 なるほど。

太田 対して、僕が今、スマートシティの可能性としておもしろいなと思っているのは、ボトムアップの流れです。

 ボトムアップ、中でも市民参加型のスマートシティでは、ヨーロッパが進んでいて、最近、都市工学、都市計画の領域で、市民参加型の街づくりの文脈で、デジタルを重視する建築家が出てきているんです。

 例えば、デンマークの設計事務所「ゲール・アーキテクツ(Gehl Architects)」が「ソフトシティ(Soft City)」という概念を提唱しています。ソフトシティは3つの原則を提案しています。

 まず、建物の間の空間をデザインして、人と会う、パブリックな活動をする、プライベートなことをするなどの選択を生み出すこと。次に、歩くという行為を中心に、都市や建物をデザインして、楽しさや喜びを生み出すこと。最後に、建物の内と外の境界線を曖昧にして、自然と人間との関係を変えること。

 今年、ゲール・アーキテクツは、『Public Space & Public Life during COVID-19』という調査レポートを公表しています。これはソフトシティと関連するものですが、興味深いのは、レポートの冒頭で語られている目的です。

 GoogleやAppleなどの巨大IT企業のビッグデータが見過ごすような、人間の営みの変化を知るためのデータを提供したいとあります。

 スマートシティについては、ディストピアの未来がよく語られますが、人間の行動に合わせた街づくりの流れがきていることは確かです。

藤井 とても興味深いですね。中国や新興国で、既存の経済構造を180度転換するようなダイナミックな都市計画が進む一方で、北欧ではソフトを基軸にした市民参加型の街づくりが提唱されている。同じスマートシティにしても、このパラレルな世界観は非常におもしろいですね。

太田 ただやはり、デンマークのようにコンパクトで、ある程度成熟した社会でないと、ソフトシティのような、市民参加型でなおかつテクノロジーを活用した街づくりは絵に描いた餅になってしまいます。

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