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“センスのなさ”から始める「発注力」の重要性
2021.04.20

IT&ビジネスコラム第2回

“センスのなさ”から始める「発注力」の重要性

著者 NewsPicks BrandDesign

「発注力」とは何か?

──身体的に危機を捉えるには何が必要なのでしょう?

平田 平たく言うと、「自分のものさしで物事をうまく測れること」ではないかと思います。

 フランスの社会学者、ピエール・ブルデューが提唱した「文化資本」という言葉がありますが、中でもいわゆる「センス」「感度」のようなものは「身体的文化資本」と呼ばれています。僕は「文化の自己決定能力」と呼んでいます。

 わかりやすい例では、2004年に開館した「金沢21世紀美術館」(以下、21美)の例です。当時、多くの自治体が、数十億の西洋絵画を勧められるままに購入するなか、21美では、当時無名だった現代アートの作家に着目して、展示の仕方までをトータルで考えて成功しました。

 作品の市場価格に左右されず、自らストーリーまで組み立てた21美の担当者は、自らのものさしで測るセンスがあったということです。ただすこし残酷な話ですが、「身体的文化資本」の厳密な定義に従えば、それは20歳くらいまでに形成されるといわれるもので、後天的に身につきにくいものなんです。

──では、「センス/身体的文化資本」がない人はどうすればいいのでしょうか?

平田 まずそれを自覚することが大事だと思います。自分は何が苦手なのか意識する。これはとても大切で、そこから始まる能力を「発注力」と呼んで僕は重要視しています。

 僕が大阪大学の大学院で関わっていた授業で評判が良かったのは、デザイナーに対して学会ポスターを「発注」するワークショップでした。

 学生たちはポスターの要件を一生懸命、言葉にしようとする。でも、デザイナーにその場でラフ案を描いてもらっても、なかなか思ったようなものにならない(笑)。

 この授業の目的は自分たちの言葉の“伝わらなさ”を体で感じてもらうことにありました。

「発注力」というのは言葉を足すと、苦手な部分や他者に補完してほしい部分を、相手に伝わるように言語化する能力。「センス」は後天的に身につかなくても、「センスの不足」を補うために別の手法を模索することはできるはずなんです。

宇田川 それは、極めて重要な能力ですね。自分の困りごとを認識できると、周りを頼れるようになるということですよね。

平田 おっしゃるとおりです。

宇田川 企業社会に当てはめて言えば、自社が何に困っているのか、よく認識できていないと、短期的な利益を求めて外部のコンサルやツールなどに安易に依存してしまう。

──その場合、何に困っているのでしょうか。成果が出ないことでしょうか。

宇田川 「成果が出なくて困っている」にもいろいろありますよね。
伸び盛りのベンチャーが、売上自体は成長していても、業績目標に対して未達であったならば、株式市場との約束が果たされず、市場価値に傷が付きます。その場合は、資金調達などの面で、思うように信頼が得られないかもしれなくなるというのが困ることですよね。

一方で、業界は成長しているのに、自社の業績が横ばいもしくは微増で、伸び悩んでいるという困りごとであれば、業界の競合他社がその間に市場のシェアを侵食しているかもしれない。その場合は、いずれ他社に市場から駆逐されるかもしれない、ということが困りごとです。

 なので、表層の困りごとの背景にある構造が違えば、問題自体の枠組みが変わってきます。そうすると最初に問題だと思っていたものだけを見ていると、うまく発注できないケースがたくさんあります。

 自分が必ずしも何もかもできなくても良いので、困りごとを言語化しようとする「発注力」が、まさに「しんがり」的な感覚なのかな、と。

「固有の物語」を掘り起こす

──「発注力」を鍛えていく上でのポイントはどこにあるのでしょうか。

平田 「固有の物語」を基盤に考えるということかと思います。

宇田川 それは、自分たちが何者なのかを知るということでしょうか。

平田 そのとおりです。例えば僕は今、兵庫県の豊岡市に住んでいます。きっかけは、市内の城崎温泉地区にある、使われていないコンベンションセンターをリニューアルしたいと相談を受けたことでした。

 城崎温泉は志賀直哉の小説『城の崎にて』で100年もってきた街です。他にも、谷崎潤一郎や島崎藤村ら、文人墨客を無料で逗留させて、最後に書かせた一筆が観光資源にもなってきた。

 それは、今でいうアーティスト・イン・レジデンスではないかと気づいたんです。

宇田川 ええ。

平田 そこで、目利きのプロデューサーに現代アートの作家を選抜してもらい、コンベンションセンターをリニューアルしたアートセンターに滞在させる。ここからいずれ21世紀の『城の崎にて』が生まれれば、さらに100年もつまちづくりができるのではないかと考えました。

宇田川 固有の物語を刷新していくということですね。

平田 加えて、簡単な数字の裏付けも示しました。日本の公共ホールはレジデンス施設を保有していません。仮にフランスの20人規模のアートカンパニーが来日する場合の、東京滞在と豊岡滞在のコスト比較も報告書に記載しました。

 豊岡なら宿泊費が東京ほどかからないので、1ヶ月あたり数百万円の資金が浮く計算になる。だから利用してくれるだろう、と。

宇田川 固有の物語と、数字的な成果のような別軸の評価をどう結びつけるか。

 フィンランドの教育学研究者にユーリア・エンゲストロームという人がいます。彼は「野火的活動(Wildfire Activity)」というコンセプトで、野火のようにしぶとく残る活動について研究をしている。例示したのは、スケートボード、赤十字の災害支援活動、そしてバードウォッチングです。

平田 なるほど。

宇田川 例えばバードウォッチングでは、生物学者と趣味人が共生・搾取関係にあるんです。つまり互いに持ちつ持たれつの関係になっている。これをエンゲストロームは「直線と曲線の融合」というメタファーで表現しています。

 これを経営に当てはめると、利益のより大きな分配という成果を求める資本主義の直線的な要素と、それぞれのローカルな現場での気づきから何か新しいものを生み出していく曲線的な要素の融合が、地に足のついた持続可能な変革を促していくことになります。

 例えば、企業内の新規事業部は、短期的な収益のインパクトが小さいので、他組織から冷ややかな目線を浴びがちです。その環境下で「野火的活動」の如くどう生き延びるかが、企業内のイノベーション推進の中核と言っても過言ではない。

 私の役割は、その企業が持っている「固有の物語」と、数字的な裏付けを踏まえた「成果」の構造的な対立を研究から解き明かし、対話を支援することです。それが「発注力」をベースにした企業の自己決定力につながるのではないか、と思っています。

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