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DXの潮流、CDOの挑戦
2020.11.25

革新的新薬の創出に向け、中外製薬が社運を賭けて挑むDX

中外製薬株式会社 執行役員 デジタル・IT統轄部門長 志済 聡子 氏

AIや多様なデータの収集・解析を通じて『革新的新薬の創出』を加速

 DX戦略の本丸といえる『革新的な新薬創出』は、DxD3(Digital transformation for Drug Discovery and Development)との名称が与えられ、「AIを活用した新薬創出」、「デジタルバイオマーカーへの取り組み」、「リアルワールドデータ/リアルワールドエビデンスの利活用」という3本柱で進められています。

 現在の新薬開発は、新薬の候補となる抗体の構造設計の選定プロセスを、研究員の知識と経験に基づく試行錯誤に頼っており、これが開発期間の長期化とコスト増大の一因となっていました。このプロセスにAIなどのデジタル技術を組み込み、新規の分子配列を自動生成して成功確率を高め、新薬開発の短期化とコスト削減を目指しています。

 「現時点でも、初期のスクリーニング段階にAIを使うことで、抗体の配列や化合物の候補を絞り込み、半年かかっていた検証を大幅に短縮できています。まだ、成果をひとつずつ積み重ねている段階ですが、長年、製薬会社が抱えていた課題の克服が、デジタル化で目前に迫っていることを感じます」

 第二の柱『デジタルバイオマーカーへの取り組み』では、ウェアラブルデバイスを通じて患者の生体データの変化を疾患と紐づけてリアルタイム、かつ連続的に収集・分析することで、疾患理解の深耕や臨床試験への活用を目指しています。

 「これまでは、治療中の患者さんのデータを得られるのが通院時に限られ、患者さんの日々の様子や、時間の経過による治療効果や副作用の推移を理解することに限界がありました。しかし、患者さんにウェアラブルデバイスを装着いただき、常時データを収集できれば、状態を長期にわたり正確に把握することができます。これにより、従来できなかった診断・治療による新たな価値の提供の可能性が開け、ゆくゆくは個々の健康状態に基づく『真の個別化医療』に近づけると考えています」

 第三の柱『リアルワールドデータ/リアルワールドエビデンスの利活用』とは、臨床現場から得られる実際の患者さんの匿名化された治療データを利活用して、承認申請戦略の拡大、臨床開発戦略の刷新などにつなげる取り組みです。

 「通常、後期臨床試験は、多くの患者さんを集め、検証する薬を投与するグループと投与しないグループに分けて比較します。後者をリアルワールドデータに置き換えられるようになれば、試験期間を大幅に短縮できます。しかし、現状では、その方法で承認を得ることは難しいので、開発の最終フェーズに移行するタイミングで、社内の意思決定の一部にリアルワールドデータを利用する取り組みを始めたところです」

DXに失敗する会社と成功する会社は、経営者のコミットが違う

 2019年から本格的なデジタル化に取り組んだ中外製薬は、急ピッチで変革が進み、2020年8月には経済産業省と東京証券取引所が共同選定する「DX銘柄2020」に医薬品業界から唯一選ばれました。一方、世の中ではDXに取り組むと宣言しながら、その実態はペーパーレスやテレワークなどに止まっている企業も少なくありません。その違いがどこから生じるのでしょうか。

 「DXイコール RPAで終わってしまうとか、PoCまでで終わってしまうという話は、よく聞きます。その理由は一丁目一番地をデジタル化していないからだと思います。企業のコアな領域に適用しないから効果が見えないのです。では、なぜ中外製薬がDXを実践できたのか、それは小坂CEOが全面的にデジタル化にコミットしたからです。CEOのコミットが明確だったから社員が真剣になったので、私も非常にやりやすかったです。逆に『好きなようにDXをやってくれ』などと言われていたら、絶対うまくいかなかったと思います

 私が来てからの約1年で、デジタル化がどこまで浸透し、どれほどの価値創造に貢献できたのか、まだわかりませんが、社内のモメンタムはかなり変わったと感じています。例えば、製薬本部から解析のできる人財が欲しい、営業本部からはマーケットデータを処理できる人財が欲しいといった要望が上がってきたり、病理画像の研究メンバーが画像認識のツールでこういった効果が得られたと報告が上がったり、現場のデジタルリテラシーの高まりを日々感じています」

 「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」の目標である2030年に向けて全速でデジタル化に取り組む中外製薬ですが、今のペースで行けば計画より早くゴールに到達できる可能性があるといいます。

 「COVID-19禍により『デジタルを使って』が枕詞になり、社会全体にデジタル化の素地が整ったと感じます。臨床試験も患者さんに直接治験薬を送付して治験を行えるよう一部規制が緩和され、患者さんが自宅で治験薬を投薬し、医師や我々が遠隔でモニタリングするといった世界も決して遠い未来の話ではなくなってきました。こうした社会の変容は後戻りしないので、我々が掲げる2030年というタイムラインが短縮される可能性も十分あると思います」

 中外製薬は短期間で国内トップクラスのDX企業へ変貌を遂げました。その取り組みの数々は、多くの企業に多大な示唆を与えるものばかりです。ますます変革のスピードを高める中外製薬のDX戦略に、業界内外から大きな注目が集まっています。

※本記事は2020年10月時点の情報に基づき作成されています。

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