デジタル活用という意味で最も象徴的なのが、スーツをマスカスタマイゼーションできるオンラインサービスです。「オーダーメイド感覚で選ぶ、感動ジャケット」というのが商品名ですが、「採寸」→「注文」→「配送」をアプリケーション上で完了して、スーツをオーダーすることができます。これはオンラインとオフラインを融合させるOMO(Online Merges with Offline)といえます。
戦略的なのは、「UNIQLO TOKYO」というリアル店舗だけにボディサイズ・着丈・袖丈などが異なる豊富な試着サンプルが用意されていることです。店内には、来店者が現物を見ながら自分でフィッティングして、細かいカスタマイズをスマホでオーダーできるようにしているのです。サービスをデジタルで完結させずに、あえて来店する動機づけを残しています。
着こなし発見アプリをコンセプトにした「StyleHint」もOMOの一例です。店舗スタッフの着こなした写真が、店内のデジタルサイネージにも表示されており、来店者は自分が気に入ったコーディネートを見つけることができます。その画面をタッチすると店舗内で置いてある場所や価格などもわかります。
「StyleHint」は、ユニクロ以外の服でも、自分で気に入ったコーディネートの写真をアップすることができます。前述の「感動スーツ」や、アプリを使って自分の気に入ったデザインのTシャツを作れる「UTme!」というサービスも、将来的なマーケティングのための「ビッグデータ収集」を念頭に置いているのでしょう。
前回言及したように、DXの目的はデジタルツールを自社ビジネスに導入することではありません。企業文化の刷新にまで手をつけ、店舗・戦略商品・人材などの「重要な経営要素」を、デジタルとリアルの両面でアップデート(進化)させることが本当の意味でのDXです。
ユニクロの場合、マーケティングにおけるSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)で重視しているのは「年代」や「性別」ではなく「行動パターン」です。デモグラフィック(属性)ではなく、「ベーシックカジュアルを、合理的な価格で買いたい」という行動パターンの人たちをターゲットにしていることがターゲティング戦略として見逃せません。
この行動パターンは、ほとんどの消費者に当てはまるものです。ユニクロは、「ベーシックカジュアルを、合理的な価格で買いたい」という顧客の求める“ユニクロらしさ”の軸をぶらさず、商品や店舗をアップデートし続けた結果、アパレル小売りにおいて今日の地位を築いたわけです。
「UNIQLO TOKYO」は、そういったユニクロのベースとなる事業コンセプトを「デジタルを活用して」アップデートさせています。