残念ながら多くの企業は、このような不確実性が高まる社会に、簡単に対応できないでしょう。ですが、決して不可能なことではありません。
ひとつの参考として「ダイナミック・ケイパビリティ」という考え方を引用したいと思います。
ダイナミック・ケイパビリティとは、カリフォルニア大学バークレイ校のデビット・J・コーティースによる経営理論で、「不測の環境変化に対応するために、組織内外の経営資源を再結合・再構成する能力」のことを意味します。企業が自己変革を行う能力といってもいいでしょう。
これまでの経営理論では、ポーターのポジショニング戦略(市場に合致した最適な企業のポジションを取ることから競争優位が生まれる)や、バーニーの資源ベース論(企業が保有している資源にこそ競争優位の源泉がある)などが有名ですが、いずれもあまり変化しない“静的”な環境であることが前提になっています。
これに対して、不確実性が高く、環境変化が激しい“動的”な環境での経営論としてつくられたのが、このダイナミック・ケイパビリティです。
コーティースは、ダイナミック・ケイパビリティを、大きく3つの能力に分解しています。具体的には、「(1)環境変化を感知する」「(2)機会を捕捉する」「(3)既存資源を再構成して自己変革する」ことです。私は最初の「環境変化の感知」が最も重要だと考えています。
不測の事態が連続的に起きるということは、今まで自分たちが学んできた経験が全く役に立たないということです。これから起きることを予測し準備するというこれまでのアプローチそのものをあきらめるしかありません。このような状況で最も頼りになるのが、「環境変化の感知」つまり、現時点の環境がどうなっていて、どう変化し始めているかを把握することです。
周辺環境をデータとして写し取り活用するデジタル技術の出番がここにあります。自社のビジネス環境がどうなっているか、個々の顧客はどのような状況にあるのか、データによって瞬時にかつ継続的にこれらを把握し続けることは強力な武器になります。
企業経営において「経験・勘・度胸(KKD)」ではなく「データドリブンな意思決定(DDD:Data Driven Division)」を指向すべきということは従前から言われていたことですが、不確実性の高いこれからの環境においては、文字通り生命線になるでしょう。これが1つ目の企業変革の方向性です。