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デザイン思考は、イノベーションを生みだす魔法の杖ではない
2021.07.21

ニューノーマル時代にビジネスはどう変わるのか第31回

デザイン思考は、イノベーションを生みだす魔法の杖ではない

著者 斎藤昌義

デザイン思考は、○○に裏付けされた○○があって初めて成立する

 企業の「課題」を生み出すための「意欲」は、残念ながらデザイン思考だけでは生み出せません。

 デザイン思考は、テーマを見つけ出す手段として、注目されています。たしかに、現実をあるがままに受け入れ、問題の本質を見極めるには有効な手段ですが、その問題を解決した先にある“あるべき姿”を何としてでも実現したいという意欲までは、デザイン思考が生みだしてくれるわけではありません。

 だからといって、精神論や根性論で無理やり意欲を生み出す、というわけではありません。課題を見つけるために必要な「意欲」は、以下に挙げる3つの前提が揃うことで、自然と発生します。

 まずひとつは、「企業文化」です。デザイン思考の前提は、現実を先入観なく、あるいは前提を設けずに、あるがままに見つめ、問題を同定し、課題を見つけ出すことにあります。しかし、前例を重んじ、新規性をためらう保守的な企業文化や、失敗を許さない企業文化では、難しいでしょう。

 デザイン思考は、米シリコンバレーを中心に普及してきました。この地域の企業は、失敗を許容し、リスクを取りながらテクノロジーを駆使して試行錯誤で問題を解決することが当たり前と考える企業文化を育ててきました。たとえば「新事業開発室」や「新規事業開発プロジェクト」のような組織をわざわざ作らなくても、新しいことに積極的に挑戦しようとする企業文化が根付いているのです。だからこそ、デザイン思考が成果をあげてきたのです。

 次は、「ビジョン」です。“自分たちは、何を目指すのか”を経営や事業部門、そして新しい取り組みに関わる人たちが、ビジョンを共有し、一丸となって取り組む姿勢を持つことです。たとえ新規事業やイノベーションに取り組む組織を新しく作ったとしても、「お前たちに任せたから後はよろしく」といった姿勢では、意欲など生まれません。任せた方も任された方も、一緒になって課題を解決し、当事者として向き合えることが重要です。

 最後は、「業績評価基準」と「組織」です。新しい取り組みは、何が正解かは分かりません。だから、試行錯誤を繰り返し、探索するしかありません。

 それにもかかわらず、既存事業と同様に、「計画通りに成果目標を達成する」ことを求め、リスクを徹底して排除するために「稟議が通らなければ何もさせない」では、うまくいくはずはありません。また、「計画通り成果が達成できなければ、人事考課を下げる」というのも、いかがなものかと思います。

 もちろん企業である以上、業績評価は必要でしょうが、既存と同じでは、意欲など湧きません。失敗を許容でき、既存を逸脱し、新しい可能性を見つけ出そうとすることを評価する業績評価基準と、大幅に権限委譲をされた「自律したチーム」がなければうまくいかないでしょう。

 冒頭で紹介したトラスコ中山の取り組みは、デザイン思考の成功事例としても知られています。しかし、それはデザイン思考を使ったことだけで成功したのではありません。

 同プロジェクトの責任者によると、「課題は明確であり、どうしても解決しなければならなかった」そうです。トラスコ中山の社長は、「誰もやらないことをやる」ことをモットーとして掲げています。そんな意欲と企業文化があったればこそ、デザイン思考は効果的な手段になり得たのです。

 デザイン思考は、イノベーションを生みだす魔法の杖ではありません。明確な課題と、その課題解決に役立つITなどの手段、そして“課題を解決しよう”という従業員の熱い意欲が揃って、初めて機能するものです。手段は目的にはなり得ないことを、日頃から心がけておくべきでしょう。

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