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Bizコンパス

DXの潮流、CDOの挑戦
2021.04.07

ニューノーマル時代にビジネスはどう変わるのか第25回

岸博幸氏が語る「スマートシティは“課題先進国”日本を変革する処方箋になる」

著者 Bizコンパス編集部

日本のイノベーションはアート半分・サイエンス半分のアプローチから生まれる

―― トヨタの「Woven City」は民間発のスマートシティですが、他の製造業もスマートシティに取り組むことで競争力を高められるでしょうか

 日本の製造業が強いと言われていたのは、残念ながらアナログ時代の話です。当時の製造業は、製造の現場、つまり供給サイドからさまざまなイノベーションが生まれました。しかし、デジタルの普及に伴い個人の趣味嗜好が多様化した現代では、今までのような供給者視点のアプローチではイノベーションを起こせません。需要者視点に立ち多様なニーズを把握してイノベーションを起こす、デザイン思考のアプローチが必要です。これからの製造業は、最先端のデジタルを駆使して需要サイドから変革を起こせるかどうかが、成否をわけると思います。

 そうした理由からスマートシティは、製造業の未来に重要な意味を持ちます。私はトヨタが「Woven City」に乗り出した理由のひとつに、需要者サイドから生まれる多様なニーズを把握する目的があると思っています。今、日本政府が推進している、都市をビッグデータの実験場とする「スーパーシティ特区」も、そこに暮らす人々の行動変容を可視化することが重要な目的です。カナダやシンガポールなどが進めるスマートシティプロジェクトも、目的は同様だと思います。

 しかし、世界中でさまざまなプロジェクトが進められているものの、狙い通りの成果を出しているのは、中国だけかもしれません。なぜなら需要者サイド(市民)の行動やニーズを可視化するには、すべての個人情報をデータ化して収集しなければならないからです。これはプライバシー保護を重視する先進諸国では、なかなかできることではありません。日本も国家戦略特区を使えば、法律的には個人情報の収集が可能ですが、住民の合意が取れるかどうかは別問題です。「Woven City」は、市民の大半がトヨタに関係しているので合意を取りやすいから実現可能なわけで、既存の都市や他企業が取り組むにはハードルが高いと思います。

―― 地方の課題もスマートシティで解決可能でしょうか

 地域の課題は細かいレベルまで考えると膨大な量となり、そのひとつひとつを解決する施策はイノベーションと呼べるレベルだと思います。その実行主体が自治体か民間かは別にして、スマートシティが地方の課題解決につながることは間違いありません。しかし、国家戦略特区に関する議論を始めると、「Woven City」のように世界最先端かつ大規模でやらなければ意味がない派と、従来の延長で自治体が取り組みやすい分野からはじめたほうがいい派の哲学論争になってしまい、なかなか前に進みません。私自身は、自治体が問題解決しやすいところからはじめる方が良いと考えているのですが。

 政府は以前から均衡ある国土の発展を目指してきましたが、経済も人口も右肩下がりでデジタル化が進んだ今も、政策をほとんど変えていません。それは自治体も同じです。コロナ禍以降は、従前の金太郎飴的アプローチから脱却し、地域の独自性を強化する政策に転換するべきです。せっかく遠隔勤務、在宅勤務が普及して移住者を呼び込み、地域を活性化するチャンスなのに、金太郎飴の施策をしていたのでは誰も来てくれません。そこを正しく判断できない自治体は、コロナ禍以降さらに衰退してしまうでしょうね。

―― 日本の将来について展望していただけますか

 個人的に日本が目指すべきは、アート半分、サイエンス半分のアプローチによってイノベーションを創出することだと思っています。日本の製造業が強い理由は、現場力です。目に見えない現場のノウハウに価値があるのです。また製造業以外でも、日本の飲食業は世界最高水準だと思います。なぜなら、多様な食材や調理法を取り入れて独自のメニューを創造できる個人経営店が多いからです。こういうアート的な部分が、日本の強みだと思います。問題は残り半分のサイエンスが弱いことです。サイエンスは、言い換えればデジタルです。つまり、デジタル化を強化すれば、日本はアート半分、サイエンス半分がバランスして、独自のイノベーションを生み出しやすくなるはずです。そのバランスを理解してデジタル化を進めれば、地方でも世界に勝てるビジネスが生み出せると思います。

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