「社内にDX推進組織を作りました。やる気のある人材を集め、自由な発想で新しいデジタルビジネスを考えてもらっています。メンバーには業績や人事評価など気にしないでいいと言ってあります。経営陣の了解も取り付けました。みんな機嫌よく和気あいあいとやってくれています。目先の成果など求めずにどんどん失敗をしてもらいながら成長できるチームにしていくつもりです」
このような話を、ビジネスリーダーの方からお聞きすることがあります。大きな企業においてこのような環境はなかなか作れるものではないですし、リーダーの熱意も十分に感じます。従来の組織マネジメントのままでは新しいビジネスが生まれにくいのも、おっしゃる通りだと思います。
しかし、自由な組織であればそれだけ新しいビジネスを創り出せるのでしょうか。私はこの点については少々疑問を持っています。
ビジネスを推進していく上で、どんな企業においても、時間的、金銭的な制約は当然ながら存在します。その条件の中で成功に向けて日々戦い続けています。たくさんの時間とお金があるに越したことはありませんが、制約条件を緩めることだけで、ビジネスの成功率が跳ね上がるとは考えにくいです。
今回は、新しいデジタルビジネスを作り出すために、組織に求められるマネジメントの仕組みについて解説します。
自由な組織はイノベーティブなのか
今般のコロナ禍において世界中で非対面・非接触を前提とした新しいデジタルビジネスが生まれているのを見ても、やはりビジネス創造の原動力になり得るのは、本人の強烈な問題意識につきると思います。「逆境こそがイノベーションの源泉である」という言葉を聞くにつけても、自由であることだけでビジネスが創造できるとは思えません。
もうひとつ。最近よく耳にする「心理的安全性」という言葉の意味が、誤って認識されているようにも思えます。
心理的安全性(Psychological Safety)は、ハーバードビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソンがつくった言葉で、「一人ひとりが恐怖や不安を感じることなく、安心して発言・行動できる状態」のことを言います。安心して何でも言い合える組織、自分の考えを素直に述べても、恥をかいたり無視されたり非難されることがない組織であるということです。
そして心理的安全性が高いチームは、パフォーマンスが高いという研究結果が多く報告されています。確かに、心理的に安全な企業風土を作ることは、DXを推進するリーダーにとっても重要だと思います。
しかし、心理的安全性が高い組織とは、制約のない、ユルく、ヌルい組織のことを意味してはいません。エドモンドソンは「心理的安全性とは、気楽さや心地よさを指すのではない。あなたが話すことに対して無条件の支持や称賛が得られるわけではない」と述べています。
さらに、「心理的安全性が高い組織だとしても、結果を問われないわけではないし、目標や計画を守らなくてもよい勝手気ままな環境になるわけではない」とも、「マネージャーは心理的安全性を高くすることを、目標を緩くすることと勘違いしないでほしい」ということまで述べています。(これだけ繰り返し述べているということは、誤解している人は世界中に多いということなのでしょう)。
何の制約もない自由な組織になることが、イノベーティブな組織になることにつながるとは限らないのです。