―― 現代社会では、昔に比べてメンタル不調を訴える方が増えたと感じますが、時代的な背景があるのでしょうか
肉体を使う仕事が主体だった時代は、怪我や腰痛になる方がたくさんいましたよね。今はコミュニケーション主体の知的労働が増えたので、肉体より脳にかかる負担が大きくなり、メンタルに不調をきたす方が増えたのだといえます。社会環境やツールの影響で働き方が変わったときは、心の在り方も変わるというのが、世の常です。
―― 働き方が変われば、ビジネスパーソンも変わらなくてはいけないということですね
社会環境が変化したとき、その変化に適応できる人と、上手く適応できない人の両者に分かれます。例えば、落語家は磨き上げた芸を披露する積み重ね型の仕事で、以前は芸能における花形職業でした。しかし、テレビの時代になると当意即妙のアドリブが求められるようになり、落語家の多くはテレビへの適応が難しくなりました。一方、フォーマットがテレビに変わったことで、トップスターに登り詰めた芸人も少なくありません。
そして今、ネットにフォーマットが広がる中で、YouTubeやSNSなどをうまく使う芸人が成功を収めています。テレビでは大御所と呼ばれる芸能人でさえ、この世界で勝てるとは限りません。もちろん、フォーマットの変化をものともしないトップ・オブ・トップの方もいらっしゃいますが、これは例外中の例外です。99.9%の方々は、社会のフォーマットチェンジが起きたら自らのスタイルを変える必要があります。
―― ビジネスパーソンは、どう変化すれば良いでしょうか
昭和の日本では「わからないことは、聞きに来い」という親方型コミュケーションが職人だけではなく、ホワイトカラーの職場でも主流でした。以前、私が担当したメンタル不調の方が回復して復職する際に「今後、同じことが起きないように、どうすれば良いと思いますか?」と質問すると、8~9割の方は「1人で抱え込みすぎない」と答えました。しかし、そう答えた8~9割の方の上司は、「いや、いつでも聞きに来いと言っていたんですけど」と答えるわけで、結局上司のスタイルが変わらなければ問題は解決しないのです。
対面で働いていたときでさえ聞きにいけない部下が、上司の顔色もわからないリモートで聞きにいけるわけがありません。一方、欧米企業では、上司が自ら「何か困っていることはないか?」と聞きにいくスタイルが一般的です。これからの日本は、上司自ら積極的に声がけするコミュニケーションスタイルにチェンジすることが求められるでしょう。