「DX」(デジタルトランスフォーメーション)というキーワードが、ビジネスシーンを賑わせています。
新型コロナウイルスの流行により、デジタル化の遅れを痛感した多くの企業が、DXの実現を標榜し、リモートワークやペーパーレス、オンライン会議などを実践しています。政府も「デジタル庁」の創設を表明しています。SI事業者やITベンダーも「企業のDXの実現に貢献する」との趣旨で、オンラインセミナーを開催しています。
しかし、2021年のこれから、企業に求められる「DX」はデジタル化による業務の生産性向上や人手不足の解消、働き方改革などと、同じ意味ではありません。
企業が、真の意味でDXに取り組むには、どのようにすれば良いのでしょうか?前後編の2回に渡って探りたいと思います。前編は、DXという言葉の定義のおさらいと、2021年にDXによってビジネスを成功に導く方法について考えてみます。
「クラウドを採用」「AI を導入」だけではDXとはいえない
そもそもDXとは、どういう意味なのでしょうか。DXという概念は2004年、スウェーデン・ウメオ大学のストルターマン教授に始まる DXの系譜をたどれば、おおよそ、次のような解釈に行き着くようです。
「デジタルを前提に企業の文化や風土、ビジネスモデルやビジネスプロセスを変革し、業績を向上させること」
これ以外にも様々な表現がありますが、たとえば経済産業省のDXレポート(2018)では、DXを次のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
他にも、いろいろな表現が使われていますが、おおむね共通しているのは、次の3点です。
(1)デジタル技術の進展により産業構造や競争原理が変化し、これに対処できなければ、事業継続や企業存続が難しくなる。
(2)だから、デジタル技術の進展を前提に、競争環境 、ビジネスモデル、組織や体制の再定義を行い、企業の文化や体質を変革しなければならない。
(3)すなわち、DXとは、デジタルがもたらした社会やビジネス環境の変化に対応して、ビジネスプロセスやビジネスモデルを変革することである。
デジタル技術の進展により、社会が変化するスピードは増しています。業界の垣根を越えて思わぬ競合が現れることや、社会の価値観やニーズが突然変わってしまうことは、もはや避けることができません。
企業は、この変化に対処しなくては、事業を継続することも生き残ることもできません。だからといって、新しいデジタル技術を使えば、全てが解決できるというわけでもありません。
大事なことは、デジタル技術がもたらす新しい常識を前提に、ビジネスモデルやビジネスプロセス、組織のあり方や意志決定のやり方、社員の働き方や役割を、従来から大きく変えることにあるのです。