― マインドセットやスキルセットの習得を、企業はどうやって支援できるでしょうか
これまでの大企業は、新卒の学生を入れて鍛え直す教育方法を採用してきましたが、これからは自社完結型ではなく、外部の教育機関や研修ルートを持つ組織とオンラインでコミュニティーをつくるオープンイノベーション型の育成が有効だと思います。いかに外の人材と融和させ、コミュニティーに入り込み、自らコミュニティーをつくるか、その繋がりをつくれるかが人材育成のポイントになります。
外とつながるために必要となるのが、デジタルツールです。デジタルは道具に過ぎませんが、その道具をどう使い「あの相手と繋がれるか」、「何を持ち掛ければいいのか」を考え、経験を通じて学んでいく、それが本質的な能力を身につける基本です。企業はそこを支援すれば良いと思います。
― 予測不能な世界を遠望するには、デジタルを使いこなすことに加え、この世界の原理原則や人間の思考といった根本的な教養が必要といわれますが、その点についてどうお考えですか
今、世の中は、AIやビッグデータなどテクノロジーの進化を受けて変化を遂げていることと、パンデミックによって数千年かけて築き上げた都市集中の仕組みが危機に瀕していること、このダブルの試練に立たされています。この試練から抜け出すには、人間はどう生きるべきかという根本に立ち帰る必要があると思います。そういう意味でリベラルアーツの学びが、今後ますます重要になると思います。
14世紀にペストが蔓延し、ヨーロッパで人口の3分の1が失われ、教会が権威を損ない、人間の根本を問い直すルネサンス運動が起き、近代が訪れました。僕はこのパンデミックとDXという巨大な変化の波を受けて、もう一度、大きなパラダイムシフトが起きるかもしれないと考えています。そのとき、人類はあらためて進む道を問い直さなくてはいけません。我々は、今そういった転換期を迎えているのだと思います。
― 最後にDXに取り組む経営者に人材育成に関するメッセージをお願いします
企業経営者には、自らの意識を変えてデジタル化に取り組むことと、若い世代に任せましょうと言いたいですね。僕の世代から上は、平成の30年間うまくIT化に乗れなかったという反省があります。その反省を踏まえ、経営者の方はぜひともデジタルネイティブな若い人の力を信じてください。