
今、あらゆる企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に注力していますが、企業価値向上やイノベーション創出など革新的な成果を手にしている企業は決して多いとはいえません。その背景の一つが、DXを推進するビジネスパーソンのスキルが追いついていないことです。DXを推進するために必要なスキルとは何か、産学連携でビジネスにイノベーションを起こせる人材を育成するiUの中村伊知哉学長にお話を伺いました。

iU 学長
中村 伊知哉氏
1961年生まれ。京都大学経済学部卒。慶應義塾大学で博士号取得。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。1998年 MITメディアラボ客員教授。2002年 スタンフォード日本センター研究所長。2006年 慶應義塾大学教授。2020年4月よりiU(情報経営イノベーション専門職大学)学長。
日本企業のDXが進まない原因は、そもそもIT化ができていないから
―― 日本はDXの取り組みが遅れていると言われていますが、その原因として考えられることは何ですか
DXを語る以前に、日本企業はそもそもIT化が十分ではないというのが、僕の見方です。IT化さえままならないのに、より本質的な変革を起こすDXがうまくいくはずがありません。
IMD(国際経営開発研究所)が毎年発表している世界競争力ランキングによれば、日本は1989年に1位となった後、下降線を辿り2020年には34位まで落ちてしまいました。この日本企業の凋落を「デジタル敗戦」と表現することがありますが、僕も日本企業が本気でIT化に取り組まなかったことが、その原因だと考えています。日本企業はITを業務効率化やコストダウンなど「守り」の道具だと考えていましたが、欧米企業は新商品の開発や未来への投資など「攻め」の道具として活用しました。その違いが競争力の差に現れているのです。
―― 日本が競争力を上げるために、ビジネスパーソンに求められるスキルは何でしょうか
有り体にいえば、ITリテラシーです。日本人はITリテラシーと言うと、プログラミングやデータ分析のような専門技術を考えがちですが、それほど難しく考える必要はありません。例えば、日本人の多くが毎日スマホを使っていますよね。スマホは最新のデジタル技術が詰め込まれたデバイスですから、それを使いこなしながら「デジタルは使えない」と言うこと自体おかしな話です。すでにデジタルを使いこなしている事実を肯定することから始めれば、ITリテラシーを身に付けることは、難しい話ではありません。
ただし、求められるスキルが時代と共に変わっていることを忘れてはいけません。25年前に必要とされたのはパソコンやネットを使うスキルでしたが、iPhone発売後にスマート化が始まってからモバイルでコミュニケーションする力、クラウドを使う力、あるいはソーシャルメディアを使いこなす力が必要になりました。
近年、AIやIoT、ビッグデータが進化する中、さらに求められるスキルは変わっています。つまり、必要なスキルは時代とともに変わり続けるので、1つのスキルに齧り付かず、目の前のサービスやガジェットをどんどん使っていく、そういう姿勢でいれば良いと思います。