事業所の建設・移転は、ネットワークシステムを刷新する絶好のチャンスです。自社の戦略や展望を見据えたネットワーク基盤の構築は、まさにシステム担当者にとって腕の見せどころと言えるでしょう。
福島テレビ株式会社(以下、福島テレビ)では、新社屋の建設・移転にあたり、既存の電話およびデータ通信環境を束ねる統合型ネットワークの構築を計画します。
1人のシステム担当者がキーマンとなり、既存のネットワークが抱える課題を解決し、10年先も安心して使える未来志向の統合型ネットワーク構築プロジェクトに迫ります。
【福島テレビについて】
福島テレビは1963年に福島県最初の民間テレビ局として開局。「県民のニーズにこたえる情報発信基地」として活動を続けており、自社制作番組の「テレポートプラス」や「サタふく」は地域の情報を幅広く・わかりやすく伝える番組として視聴者から高い評価を受けている。このほかにも「東日本女子駅伝」等のスポーツイベントの開催、中継にも取り組んでいる。
福島テレビは、県内初の民間テレビ局として1963年に開局しました。その当時から建つ社屋を含め、敷地内に隣接する建物の多くが2011年の東日本大震災で被災したため、新社屋の建設計画は急ピッチで進んでいきました。そこで持ち上がった課題の一つが旧社屋で利用する電話やデータネットワークを新社屋へスムーズに移行することでした。
このプロジェクトを担当したのは、同社のシステムを一手に担う佐々木裕氏です。
「今回の大きなテーマは、電話と社内ネットワークをIPで一体化した統合型ネットワークシステムの構築です。旧社屋では老朽化、複雑化により手をつけられないシステムが数多く存在しており、それらを新社屋で整理し、属人化させないこと、そしてベンダー任せではなく、社内の誰もが運用できるような仕組みを作りたいと考えていました」(佐々木氏)
もう一つの課題となっていたのが、オンプレミスのPBXで運用されていた内線・外線の電話環境です。
佐々木氏は、従来の電話環境が抱えていた問題点を次のように語ります。
「PBXの老朽化と、社員によっては、社内の内線用PHS、会社貸与の携帯電話、そして社員個人のスマホと3台、中には4台の電話を持ち歩くことが常態化しており、多くの社員から、電話を1つにまとめたいという声が上がっていました。さらに外出の多い社員が自身のスマホを仕事で使うケースも増えていたため、内線と外線を1台のスマホに統合するためにPBXのクラウド化を決断しました」
PBXをクラウド化する道筋は決まったものの、すべての電話環境をクラウドへ移行するわけにはいきませんでした。
「報道機関である放送局においては、音声ネットワークは情報伝達の重要インフラの一つです。従来のアナログ電話網を利用するためにオンプレミスを残しつつ、移行できる部分をクラウド化するハイブリッド構成が今回のプロジェクトにおける要件の一つでした」
そのように、自前での運用を前提とした音声とデータの統合と、PBXのクラウド化によるスマホの内線・外線利用が直近の課題でしたが、加えて、佐々木氏は新たな統合型ネットワークの構築にあたり10年先でも安心して使えることを目指したと話します。
「たとえば、データネットワークではLAN、WANの足回りを含めて自前でネットワークの変更ができるSDNの実装を要件に入れています。最初からできないと決めてかからず、大きな視点からいくつかのやりたいことイメージしました。それらを要件定義書にまとめ、具体的なかたちにしてくれるパートナーを選定したのです」
複数の事業者からの提案を受けて検討を重ねた結果、選定したパートナーはNTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)でした。佐々木氏は、選定理由を次のように語ります。
「まずは、私たちの求めているシステムの規模感にフィットする機能を妥当なコストで提案いただけたことが挙げられます。さらに、一元的な窓口でオンプレミスのPBXベンダーと連携した対応ができることも大きかった。何より私たちの要求に対してできること、できないことをITの知見で的確に判断してくれた提案だったことです」
ちなみに、今回の依頼を受けてNTT Comから提案を受けたサービスは、クラウド型PBXサービスの「SmartCloud® Phone」と、NFV・SDN技術を活用したクラウドに最適なネットワークの「Arcstar Universal One」でした。これらにオンプレミスのPBXを組み合わせ、統合型ネットワークのグランドデザインが描かれていたことも選定の決め手になりました。
ここから、新社屋における統合型ネットワークの構築は着々と進行していきます。しかし、従来の放送事業を継続しながらの移行作業は苦労も多かったようです。
「当初の計画では2週間くらいで新社屋へ移行する予定でしたが、事業に支障の出ないよう少しずつ番号を切り替えて行ったので、3カ月がかりの作業になりました。ちなみに移行時には新社屋と旧社屋を行き来したのですが、その際にトライアルで使用していたスマホの内線が非常に役立ったことは印象的でした」
こうして、無事にPBXのハイブリッド構成による音声、データの統合型ネットワークの構築は完了。新社屋の事業が新たなコミュニケーション基盤の下でスタートします。
まだ本稼働から2カ月ほどですが、すでに新たなコミュニケーション基盤の導入効果が出ていると佐々木氏は指摘します。
「IP化により、明らかに電話のコストが抑えられています。さらに人事異動の際も配線を変える必要がなく、電話機を移動するだけで対応できますので運用面の負荷が格段に低減されました。故障対応も自前でできるので、ダウンタイムも最小化できます。そのうえ選挙や駅伝などの番組用に臨時回線を増設する場合も、社内で臨機応変な対応が可能です」


福島テレビのシステム構成イメージ

今後は、本社のみならず各支社のPBXの更改時期に合わせて各支社の内線も随時クラウドに切り替えていき、最終的には本社の代表番号ですべての支社に内線でつながる仕組みを目指しています。
複数台の電話を1台のスマホに集約する準備も着々と進んでいます。すでにトライアル運用でスマホを利用している佐々木氏は確かな手応えを感じています。
「いつ、どこにいても内線、外線がスマホ1台で受けられる利便性を肌で感じています。いずれは社員個人のスマホを使ったBYODを導入し、会社貸与の端末を削減したいと考えています。紛失対策としてWeb電話帳などの導入も検討していますが、会社貸与の端末より、触れている時間が長い社員個人のスマホのほうが紛失のリスクはかなり低いでしょう」
BYODを導入するには、社員の同意や制度の整備、セキュリティの担保などクリアすべき課題はありますが、導入により社外でも柔軟かつ安全にコミュニケーションがとれるようになれば、それが働き方改革の布石になると佐々木氏は期待を寄せています。
また、LAN、WANについても、10年先を見据えたゆとりある帯域設計としました。
「放送局として、映像伝送用のネットワークは別にあるのですが、社内LANでも映像伝送を想定した広帯域を確保しています。社内のどこからでも手軽にテレビ中継ができる時代を迎えても、SDNとの合わせ技で十分に対応できる設計にしているのです」
このように今回の社屋移転に伴い構築された統合ネットワークは、まだまだ大きなポテンシャルを秘めていて、佐々木氏は10年先の未来に向けた進化を明確にイメージしています。
「最初にシステムを利用するユーザーとして、イメージを最大限まで膨らませないことには、いいシステムは作れないのでは。システムの刷新においては、あれもやりたい、これも導入したいといった無理難題を聞き入れ、現実的なプランに仕上げてくれるパートナー選びこそがカギを握っているのかもしれません。次のフェーズではNTT Comと一緒に、信頼性、機能性を担保できた部分から随時クラウド化を進めていく予定です」
パートナーのサポートを受けたとはいえ、佐々木氏がこれだけのことを短期間で成し遂げた成功の一因は、間違いなく最初にユーザーとして壮大なイメージを描いたことと言えるのではないでしょうか。
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