大井氏は、まず多くの日本企業で見られる「働き方改革」の取り組みとして、テレワークやリモートワークなどによる残業抑制での「労働時間の削減」とペーパーレス化やオフィス改革による「コスト削減」を挙げ、それらが必ずしも生産性の向上やイノベーションにつながらない実態について言及。「こんなはずじゃなかった」となる背景を説明します。
「日本企業は伝統的に、組織を縦割りにし、機能別に分業化することでバリューチェーンを最適化して成果を上げてきました。例えば、営業や契約、申し込み、デリバリーといった事業ごとの一連の業務フローです。しかしこの組織体制が、現在では“壁”となって全社的な業務プロセスの見直しを阻んでいます」
大井氏は、分業化によって組織独自の業務プロセスやルールが生まれ、サイロ化した組織をつなぎ合わせる調整、連絡といった生産性の向上につながりにくい業務がなくならないこと、本社/本部と現場との目的意識が乖離しやすい弊害について指摘しました。このような「組織の壁」からの脱却のヒントとして、大井氏は1990年代に同じ課題を抱えていたアメリカの企業が取り組んだ「リエンジニアリング」について説明をします。
「リエンジニアリングは、ITの力を利用して業務プロセスをリデザインし、事業構造の見直しを図る取り組みです。90年代のアメリカ企業は、組織と業務プロセスなど事業構造そのものを見直したわけです。これに対して現在の多くの日本企業は、既存の業務プロセスは維持したまま、変革や自動化に取り組むボトムアップ型のアプローチに留まっています」

これらは、昨今、多くの企業で取り組みが始まっている「デジタルトランスフォーメーション(DX)」においても、「プロセス全体の見直しが伴わず、部分最適を目的とした業務の自動化やデジタル化に矮小化されてしまう」こととも共通点があると大井氏はいいます。
「カルチャーや成り立ちの違いを考えずにDXやIT、AIというキーワードのみでツールを導入してしまうと、改革の促進どころか、衰退の促進剤になってしまいます。日本企業が本来持つ『強い現場力』を真のチーム力として結実させるには、最新のツールを導入することを目的化するのでなく、縦割りで組織に埋もれてしまう現場の個人を活かせる体制の再構築(=リエンジニアリング)がまず重要なのです」
個人を活かせる体制の再構築には、現場を直接動かす「事業目標実行リーダー」をアサインし、その下の「現場リーダー」「メンバー」で密な連携が取れる仕組みを作り、それぞれのチームのメンバーがほかチームともスムーズにコラボレーションできる環境を整えることが必要です。そして、その促進に効果的なのが、映像コミュニケーションツールによる「会議プラットフォームの見直し」だと大井氏は言います。