激化するサイバー攻撃に対応するため、インシデントの調査や分析、収束および復旧に向けた活動などを行う「CSIRT(Computer Security Incident Response Team)」を設置、あるいは検討する企業が増えています。
しかし、その一方で国内のセキュリティ人材は充足しているとはいえません。2019年にKPMGコンサルティング株式会社とEMCジャパン株式会社 RSAが行った調査によれば、国内企業のサイバーセキュリティ対策領域における今後の投資先として、56.2%が「サイバーセキュリティ人材の育成」を挙げるなど、セキュリティ人材不足は企業の大きな課題となっています。
この状況を改善するために、高度セキュリティ人材の育成組織として2019年1月に設立されたのが株式会社エヌ・エフ・ラボラトリーズ(以下、NFLabs.)です。同社では、独自のカリキュラムによってNTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)およびNTTグループに高度セキュリティ人材を送り出しています。
最近では、外部企業からの受講生も受け入れ始めていますが、具体的にどのようにセキュリティ人材を育成しているのでしょうか。
その施策について、同社の代表取締役社長でありNTT Comのエバンジェリストも務める小山覚氏、そしてNFLabs.の萬本正信氏と高橋惠子氏にお話を伺いました。
多くの企業でセキュリティ人材が不足している
多くの企業が情報セキュリティの重要性を理解しているものの、その一方で、人材がいないことから、十分なセキュリティ対策が取れていないというケースは少なくありません。NTT Comのエバンジェリストであり、NFLabs.の代表取締役社長も務める小山覚氏は、その背景を次のように説明します。

株式会社エヌ・エフ・ラボラトリーズ
代表取締役社長
小山 覚氏
「セキュリティの領域でプロフェッショナルとして働くためには、何より経験が求められます。昨今の若い人材も、AIやデータサイエンティストといった分野に目が向く人が多いようで、セキュリティを志そうという人は少ないのが実情です」
採用が難しければ、社内で育成するという選択肢がありますが、それも容易ではありません。小山氏は「最近では、まず広く浅い知識をeラーニングなどで身に付け、その後の深掘りは自分で勉強しなさいというパターンが多いようです。しかし、それでは深い知識を持つセキュリティ人材を育成することはできません」と語ります。
このような背景から、NTT Comにセキュリティ人材を提供してほしいという依頼が数多く寄せられていたと小山氏は続けます。
「お客さまは、セキュリティの運用を担うことができる人材を求めています。とはいえ、自社にはそういった人材がいないし、募集してもなかなか採用できない。だからNTT Comから人を出してほしいという要望をいただいていました。
しかし、NTT Com内を見回してもセキュリティを志す若手は少なかったのです。そこでセキュリティ人材を育成することの重要性を改めて実感し、NFLabs.を立ち上げることにしました」