AIの活用は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を大きく推進させる可能性を持っています。
前回記事「AIはビジネスで価値を生み出す技術に進化している」で、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)のエバンジェリスト(分野:AI)島田健一郎氏は、「この5~6年で、AIの分析精度は人間のレベルに近づいている。ビジネスでも実用例が次々と出てきている」と、企業におけるAI活用の現在地について解説しました。
今回は、その中で実施した読者アンケート「ビジネスでのAI活用で、知りたいことはなんですか?」で、最も回答の多かった「導入までのイメージが湧かない(27%)」と2位「最新のAI技術動向を理解したい(25%)」をもとに、「AIをビジネスでの収益や成果につなげる」ための導入プロセスや注目すべき技術について、島田氏が解説します。
AI導入では「PoCの前に」やるべきことがある
読者アンケートに見られるように、「AIをビジネスで活用したいが導入までのイメージがわかない」という企業は多いようです。島田氏はそれによって生じている企業の課題について次のように指摘します。
「AIの活用を検討するプロジェクトでは、まず課題を抽出し、優先順位を見定めた上でPoC(Proof of Concept:概念実証)のテーマを決定するのが一般的です。
しかし、実際には、『現場との連携がないままプロジェクトが進み、PoCの評価ができない』『想定よりコスト削減効果が低い』『実ビジネスと乖離している』といったことや、『AIでは解決できないテーマが課題だった』『ゴール設定がないためゴールが動く』といったことから、ビジネスでの実用化に至らないというケースが少なくありません」
島田氏は、これらの失敗は、事前検討の不足が要因と話します。
「AI導入を検討するにあたって重要なのは、プロジェクトが走り出す前に、ビジネスで何を生み出し、どう解決したいのか?というゴールを明確にすることです。事前にテーマを絞り込むことに時間をかけることによって、見切り発車でプロジェクトがスタートし、結果としてPoCがとん挫してしまうなどのリスクを抑えることにつながります」(島田氏)
そこでNTT Comでは、AIによる新ビジネスやサービス創出に必要な要素である「事業性」「データ解析技術」「データ活用基盤」について、プロジェクトのスタート前に検討できるフレームワークの活用を企業に提案しています。
「我々は、これをCoB(Consideration of Business:ビジネス検討)/CoS(Consideration of Service:サービス検討)と呼んでいます。
CoB/CoS は、NTTグループによる100社以上のPoC事例と、長年の機械学習分野の研究開発ノウハウを活用して、クライアント企業と一緒にAIによる新しいビジネスやサービスを創るための取り組みです。それによって、研究開発からサービス開発、システム構築に至る開発プロセスを最短化し、マーケットへの迅速なサービス提供を目的としています」(島田氏)
CoB/CoSは、PoCを実施する前に3~5カ月ほどの時間をかけて検討します。具体的な検討項目としては、「テーマ候補の洗い出し」や「テーマの具現化と選定」、「テーマの詳細化」、「サービスモデルや収益モデルの検討」、そして「テーマ候補決定」があります。まずテーマを洗い出し、具体化、詳細化した上で、最終的にテーマを絞り込むという流れです。