AI導入の事前検討においては、新しいAI技術動向を把握しておくことも大切です。島田氏は、今後のAIのビジネス活用において注目すべき技術として「XAI(Explainable AI)」と「マルチモーダルAI」を挙げます。
「前回記事で紹介したXAIは、AIの予測や推定プロセスを説明できる機械学習の技術です。我々の取り組みでは、ベテラン現場担当者の感覚とXAIで出力された結果を照合しています。それによって、現場の納得感も大きく変わってきます。
マルチモーダルAIにも注目しています。これは画像+音、あるいは画像+センサー+言語など、さまざまなデータを組み合わせることで、AIの認識精度を人の五感に近づけようする技術です。
わかりやすい例は監視カメラです。通常のカメラでは真っ暗になると何も映らずAIも判断できません。人間の場合、耳を使って状況を判断することがあります。AIでもカメラの映像にマイクから入力された音を組み合わせることで、人間と同じようにさまざまな場面の状況を判断できるようになる可能性があるでしょう」
データ分析などにおいても、AIの活用が進んでいるといいます。
「AIの機械学習アルゴリズムに関しては、膨大な顧客データやセンサデータの前処理や加工、予測モデル構築などを自動化できるソリューションも登場しています。これによって、データサイエンティストが試行錯誤して実施していたことを事業部門などのメンバーも行えるようになります。これは人材の不足などでデータ活用が進まない企業のDXをより推進させる可能性があります。
AIの機械学習に必要な初期データ(教師データ)についても、これまで人間が定義などを定めて作成していましたが、Self-Supervised Learningなどのように、ある程度この部分を自動化する技術の研究も進んでいます。これが一般化されれば、企業におけるデータ活用のハードルはさらに下がるはずです」
最後に島田氏は、「交渉をAIで行う」という研究について、興味深いエピソードを紹介します。
「AIによる交渉については、ゲーム理論などの文脈でも研究開発が活発に行われています。たとえば、ポーカーでAIが駆け引きで人間に勝利した事例があります。ポーカーは相手がどのような手を持っているのか、どのような経緯で今の手があるのかわからない、不完全情報ゲームと呼ばれるものです。
この環境下で、AIがプロのポーカープレイヤーに対して、自分の手が悪いにもかかわらず、掛け金をつり上げるといった駆け引きで勝利したのです。これらはビジネスシーンにおける価格交渉やリーガルテックの領域で応用される可能性があります」
XAIやバイモーダルAI、データ分析の自動化などによって、AIは日々、ビジネスで活用しやすい技術に進歩しています。企業がAIによるDX推進を検討するタイミングは“今”かもしれません。