――“勝ち組”がさらに勝つための構造を生み出してしまうという社会の不都合な構造が、コロナ騒動によって明らかになったというわけですね。
宮田:いや、実はコロナ以前から、経済合理性至上主義や、株主の短期利益だけに配慮するグローバル経済は立ち止まるべきであると、多くの人から指摘されていました。たとえば世界経済フォーラムにおいても、経済合理性至上主義を見直す「グレートリセット」という考え方が提唱されていました。その矢先に、リセットボタンを押すまでもなく、新型コロナウイルスによって経済が強制的に止まりました。
この立ち止まっている期間が、人類にとって“何が大切なのか”を、あらためて考え直すきっかけになったと考えています。
たとえばアメリカでは、アフリカ系アメリカ人に対する警察の残酷な行為に抗議して、各地でBLM(Black Lives Matter)運動が巻き起こっています。ドイツでは国民の“幸福”を担保するために、生活に必要な現金を、国民に対し無条件に支給する「ベーシックインカム」の議論が進んでおり、8月より社会実験がスタートしています。フランスでは6月の地方選挙にて、エマニュエル・マクロン大統領が所属する与党が、環境政策を強く打ち出す政党に敗れ、結果的にマクロン大統領が環境政策に力を入れざるを得ない状況となっています。
これまで人類が選択してきた経済合理至上主義は、一部の人々が恩恵を受ける社会でした。しかし、コロナ後の世界では、国や企業が、人権や教育、命、環境など、多元的な軸を元に、持続可能な社会にどう貢献していくか、その姿勢を示す必要が出てきたのです。
最近、GAFAなどが「ソーシャルグッド」(地球環境や地域コミュニティなどに対し、良いインパクトを与える活動や製品・サービスの総称)という言葉をよく使っているのを目にします。この背景には、企業側に信頼がないと、ユーザーからデータを提供してもらえない時代になってきていることがあるでしょう。
現在、GDPRのような、個人情報を企業が勝手に扱うことを禁止する法律が世界中にあります。一方でDXは、パーソナルデータを正しく集めて使うことが本質です。そのため、企業がデータを集めるためには、ユーザーに「あなたのデータを使って、これだけあなたにいいことをします。社会にも貢献します」ということを明示する必要があります。
ユーザーの信頼を得て、幅広く多くのデータが集められることが、DXを成功させて企業を成長させる前提条件になる時代を迎えています。