新型コロナウイルスの流行により、これまで以上にデジタルの力を活用する動きが、社会全体で高まっています。企業では、テレワークやWeb会議、教育の現場では遠隔授業、医療業界では遠隔医療の要件緩和など、人と人がリアル空間で対面することのない、新しい生活様式への取り組みが拡大しつつあります。
しかし、何も「人と人とが対面しない」ことだけがデジタル化ではありません。人やモノに関するデータを活用することで、これまでにないサービスが生まれたり、社会問題の解決につながる可能性があります。
With/Afterコロナの時代に、企業はどのようにデータを活用すれば良いのでしょうか?厚生労働省のLINEを使った「新型コロナウイルス感染症対策の全国調査」を仕掛けたデータサイエンティストであり、世界経済フォーラムでも活動する慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授の宮田裕章氏に、コロナ禍における日本のデータ活用の現状と今後の見通しについて聞きました。
日本はデータを活用したコロナ対策ができていない
――まずはコロナ禍における日本のデータ活用の現状から話を聞かせてください。新型コロナウイルスへの対策として、デジタルの力が効果的に発揮されたと考えていますか?

慶應義塾大学医学部
医療政策・管理学教室教授
宮田裕章氏
宮田:効果的に発揮された部分もありますが、デジタル化の遅れが顕著に示された部分がありました。FAXによる陽性者情報の登録、給付金の一律配布などを通して、日本全体のデジタル化の課題が共有されたと思います。
市中感染のフェーズに入った新型コロナウイルス対策では、さまざまなデータを活用して不確実な現状を明らかにする取り組みを行う必要があります。たとえばWHOがマスク着用の効果を発表したのは5月末ですが、ドイツや台湾では3月には公共交通機関でのマスク着用を義務付けています。両国はコロナに関連したデータを集めつつ、変化する状況に対して継続的な判断を行い、功を奏しました。
――緊急事態宣言が4月に発令されてから、半年が過ぎつつあります(インタビューは9月に実施)。これからの「Afterコロナ」の時代にも、データ活用は必要でしょうか。
宮田:もちろん必要です。今後、新型コロナウイルスの流行が収まったとしても、データ活用の必要性がなくなることはありません。
もしワクチンが開発され、以前のように世界を行き来できるようになると、データ活用の問題は日本国内のみでは済まなくなります。たとえば海外出張時に、日本語で書かれたワクチン接種の証明書を見せても、渡航先では信頼されないでしょう。信頼のあるデジタルデータで共有できるようにしておかないと、意味がありません。
国境を“開いて”いかないと、グローバル経済は正常化しません。Afterコロナの時代こそ、データを共有し、互いの国同士の信頼関係を深める必要があります。
現在、日本のPCR検査証は紙で発行されていますが、これもデジタルデータ化し、共有できるように変えるべきです。私は現在、こうしたような課題を解決するべく、データ連携のための共有の枠組みを世界経済フォーラムと一緒に作っています。