いま、日本の製造業では、人手不足やベテランから若手への技能継承が大きな課題となっています。経済産業省が毎年発表している「ものづくり白書」でも、この点が指摘されています。
こうした製造業における課題は、どのように解決すべきなのでしょうか?埼玉大学経済学部教授・東京大学大学院 経済学研究科 ものづくり経営研究センターの特任准教授で、『コアコンピタンスとIT戦略』(早稲田大学出版社)、『ITを活かすものづくり』(日本経済新聞社、藤本隆宏との共同編集)などの書籍づくりに携わった朴英元氏に話を聞きました。
製造業は「ニーズの複雑化」に対応できていない
――現在、日本の製造業が直面している課題について、朴先生自身が問題だと考えている点について教えて下さい。

埼玉大学経済学部教授
東京大学大学院 経営学研究科
ものづくり経営研究センター
特任准教授 朴 英元氏
朴:私は「ニーズの複雑化」に対応できてない点にあると思っています。
日本のものづくりの歴史から考えると、戦前、あるいは戦後の間もない時期はモノが足りない時代であり、基本的に作れば売れるという状況でした。しかし高度経済成長期を迎えると、供給過剰の状態が生じ、さらに顧客のニーズが複雑化したことで、“他社と差別化しないといけない”という議論が、業界内で始まりました。
現在ではそれに加えて、資源やエネルギーなど、地球環境的な課題に対処することも求められるようになっています。製造業として、持続可能な社会をどう実現するかも考えなければなりません。
このように、顧客ニーズだけでなく社会ニーズも複雑化していることから、それに対応するための全体の開発プロセスも複雑化しています。この複雑化の流れに追いつけていない点が、大きな課題だと考えています。