DXの潮流、CDOの挑戦
2020.03.18
INDUSTRY REVIEW~業界有識者が「DXの現在と未来」を語る第4回
「熟練の技を学ばないと、AIはどんどん馬鹿になる」中京大・輿水名誉教授
著者 Bizコンパス編集部
“検査の神様”にしか見えない傷を、どう数値化するか
――人による検査のメカニズムを再現した画像認識技術は、どのように開発したのでしょうか?
輿水:「KIZKIアルゴリズム」の開発は、2000年頃にトヨタ自動車の計測技術部から相談を受けたのがきっかけに始まりました。プロジェクトは、40年にわたってトヨタ自動車で傷検査に携わってきた「検査の神様」のような社員と連携して進めました。
一緒に取り組む中で分かってきたのは、「検査の神様にしか見えない傷」というものがあることです。傷というのは物理的な現象ですので「位置・形・濃淡」で数値化することができます。画像認識技術では、それらを精度高く数値化できれば、開発プログラムの9割方は解決できるのです。
そこで重要になるのが、「質の良いNGサンプル」です。AIが画像認識で「不良品」と判定する精度を高めるためには、検査の神様にしか見えない傷、つまり匠の勘と経験でしか発見できない傷をデータ化しなくてはいけないわけです。
私たちはどうやってその傷に気付いているかを知りたくて、傷の寸法や面積がいくつで、色の濃さはこれくらいと明示してくれないかと、検査の神様に質問をしました。返ってきた答えは「見れば分かるだろ」でした。現場と開発では、そもそものプロトコル(言語)が異なるわけです。「KIZKIアルゴリズム」の開発プロジェクトでは、こういった現場の暗黙知、いわば非物理現象ともいうべき“検査の神様の勘センシング”をデータ化するために、何度も何度も彼にインタビューをしました。