――小売業DXの世界的な潮流に対して、国内小売業はどう対峙していくべきでしょか。
田中:まず、DXに対する認識を改めなければなりません。日本企業の多くは、業務を効率化することでの人手不足への対策やコストダウンなど、生産性向上の「手段」としてDXに取り組んでいます。言い換えれば、ユーザーファーストではないということです。5~6回タッチしないと注文ができないようなシステムが作られてしまう理由でもあります。
それに対して、米中のテクノロジー企業は、顧客の利便性やCX(カスタマーエクスペリエンス)を高めるために、自社事業の中核を見極め、それをデジタルでアップデートさせています。分かりやすい例が「Amazon Go」です。
Amazon Goは「無人のコンビニ」と思っている人が多いかもしれませんが、実はオープンキッチンなどを備えた有人店舗です。人的コスト削減のためにテクノロジーを使ったわけではなく、顧客がより早く、便利に、買い物ができるCXを追求した結果、セルフレジすらなくしたわけです。
オープンキッチンがあるのは、同じサンドウィッチでも、出来合いのものより人が目の前で作ったほうが美味しそうだからです。このようにAmazon Goは、カスタマーセントリック(顧客中心主義)を実現するために、テクノロジー一辺倒ではなく、アナログも併用しているわけです。
――このようなカスタマーセントリックなDXを実現するために、日本の小売業に必要なことは何でしょうか?
田中:やはり、経営者の意識に尽きると思います。昨対比や費用対効果のような短期的思考から脱却して、長期的な視点でのデジタル変革を現場が主導していくのは難しい。昨今は、トップマターで外部からCDOやCDXOを招聘するケースがありますが、それは経営者の意識の表れだと思います。
アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏は、「Day 1」という言葉を毎日言い続けています。Day 1は「今日が会社設立の初日」だと意識を持ち続けることです。ベゾス氏はアマゾンが大企業病に陥らないため、スタートアップ企業のようなマインドを従業員が持ち続けることがイノベーションを生み出すために不可欠と考えているのです。