アメリカではウォルマートなど大手小売業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しEC業界の巨人であるアマゾンに対抗、中国では、数年前からアリババとテンセントが相次いで小売業に進出して、デジタルディスラプションを起こそうとしています。
クローバルで押し寄せるDXの波に対して、日本の小売業はどのように対応していけばよいのでしょうか。上場企業の取締役や経営参謀としてDXのコンサルティングを行う、立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)田中道昭教授に聞きます。
顧客体験でしのぎを削る、中国のテクノロジー企業
――小売業をIT化、DXという観点で見たとき、日本の企業にはどういった課題があるのでしょうか。

立教大学ビジネススクール教授
(大学院ビジネスデザイン研究科)
田中 道昭氏
田中:日本の小売業の一番のネックは、小売業の多くは営業利益率の低いビジネス構造であるため、ITなどに投資できる余力がほかの業種と比べると少ないということです。アメリカや中国と比較すると経営者のIT投資に対する意識も高いとはいえません。
世界的に見て、小売業のDXを牽引しているのはアメリカや中国です。アマゾンやアリババといったデジタルネイティブな企業が、すでに構築されたデジタルのインフラを活用してオフラインに進出し、既存の小売企業を圧倒しています。
中国では、多くの業態・業種において最終的にアリババとテンセントの熾烈な一騎打ちになっています。彼らがしのぎを削っているのはどこかというと、顧客体験の向上、カスタマーエクスペリエンス(CX)です。
たとえば、中国では、デジタルでもリアルでも、2回のタッチで購入が終わるユーザーインターフェイスが常識となっています。そういった競争の繰り返しで、DXが進化し、サービスが向上されていく、という側面があります。
日本でも最近は外食に行くとタッチパネルがありますが、注文の完了までに5~6回タッチが必要なケースが多い。そうすると「近くの店員さんに頼む方が楽」となる。デジタルが本質的な意味でのCX向上につながっていないのです。
国内の小売業には、アリババやテンセントのようなデジタルディスラプターがまだ出てきていないため、危機感も強くありません。それが大きな課題だと言えます。