NTTコミュニケーションズ

Bizコンパス

DXの潮流、CDOの挑戦
2021.04.23

INDUSTRY REVIEW~業界有識者が「DXの現在と未来」を語る第10回

三菱ケミカルHD浦本CDO「製造業DXは、現場改善と全体変革の“両利き”で加速する」

著者 Bizコンパス編集部

 With/Afterコロナや働き方改革、2025年の崖などへの対応から、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)によるビジネスの変革を求められています。中でも製造業は、老朽化する工場設備への投資や高齢化が進む熟練工の技術継承、さらに研究開発の迅速化など、業務プロセスの大きな変革が必要です。

 そういった中で、日本最大の総合化学メーカーである三菱ケミカルホールディングスは、2017年4月からDXへの取り組みを本格化しています。日本IBMで東京基礎研究所所長やスマーターシティ事業の執行役員などを歴任した岩野和生氏を招き入れ、同社初のCDO(最高デジタル責任者)に任命。「DXグループ」を発足させ、業界ならず国内のDXをリードしてきました。

 その取り組みを引き継ぎ、2020年4月よりCDOに就任したのが、岩野氏とともに人工知能やIoTによるDXを推進し、2018年~2020年には人工知能学会会長も務めた浦本直彦氏です。同氏は、どのようなビジョンやコンセプトによって、自社のDXを進めていこうとしているのでしょうか。

 今回は、浦本氏と旧知の間柄であるNTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)のエバンジェリストである林雅之氏が、三菱ケミカルホールディングスのDXについて伺います。

製造業DXは、技術やノウハウをデジタル化して価値に変えること

:前任者である岩野さんがCDOを務めた2017年からの3年間で、DX推進組織の立ち上げ、DXのベストプラクティスや方法論を体系化した「デジタルプレイブック」といった取り組みを実行されました。岩野さんは3年間を通じて「DXの基礎固めは終わった」との見解を示されていますが、この3年間を振り返っていただけますか?

NTTコミュニケーションズ株式会社
エバンジェリスト
林雅之氏
NTT Comデータプラットフォームサービス部にて広報、マーケティング等を担当。国際大学GLOCOM客員研究員。総務省 AIネットワーク社会推進会議 構成員(2016-2018)。経済産業省 データ流通及びデータプラットフォームのグローバル化に関する研究会 招聘委員(2018)。ニッポンクラウドワーキンググループ サムライクラウドサポーターなども務め、クラウドを中心にDXの推進に寄与する活動に積極的に取り組んでいる。

浦本:三菱ケミカルホールディングスにDXのチームができたのは2017年4月で、当時は私も含めて7~8割は外部から集まったメンバーでした。そのため、当初は三菱ケミカル(事業会社)の現場に出向き、たとえば、その設備が止まると大きなロスを生むプラントに対して「プラントが止まる兆候を事前に把握するために、運転データを分析してはどうか」といった、現場の“お困りごと”の解決に一緒に取り組んできました。製造部門だけではなく、R&Dとマテリアルズ・インフォマティクスを推進したり、事業部と新しいビジネスモデルを模索したり、人事や経理部門と一緒になど、プロジェクトをボトムアップに進めることが多かったです。

株式会社三菱ケミカルホールディングス
執行役員 Chief Digital Officer
浦本直彦氏
1990年日本IBM入社。自然言語処理、Web技術、セキュリティ、クラウドなどの研究開発に従事。2016年Bluemix Garage Tokyo CTO。2017年三菱ケミカルホールディングス入社、人工知能やIoTを活用したデジタルトランスフォーメーションを推進。2020年4月より同社執行役員Chief Digital Officer。2018年~2020年6月人工知能学会会長、現在九州大学客員教授を兼務。2020年より情報処理学会フェロー。

 2年目からは、DXを推進するための考え方やツールを体系化し、横展開していくためにベストプラクティスを集め、現場への提供をはじめました。これらは現在進行形の取り組みなので、後ほど詳しくご説明できればと思いますが、その一つが「デジタルプレイブック」です。社内外のDX事例を調査し、ビジネスモデルを考えるために必要なエッセンスを13個のパターンに分類、それらを組み合わせることで、事業部門が新しいビジネスのアイデアを出すサポートを進めてきました。

 こうした取り組みを進めて3年が経ち、昨年の4月に私がCDOのバトンを受け取りました。本質的なところは以前と大きく異なってはいませんが、大きな戦略のもと経営課題を解決する、あるいは事業経営にインパクトを与える明確な成果を生み出すフェーズに入っています。

:経営的な視点でDXを取り巻く環境の変化はあったのでしょうか。

浦本:変わりつつあります。たとえば昨今では、サステナビリティやSDGsなど「社会的価値を創出する」ことが経営課題の1つになってきました。これまでのDXはプロセスの最適化や顧客起点の新しいソリューション、ビジネスモデルの創造をキーワードとすることが多く、なかなか社会的価値を創出するためのトランスフォーメーションにまで手が回っていなかったことが実情でもあります。

 そういった背景から、徐々に社会的価値までを見据えた形でDXをリードしなくてはいけないという認識が私の中では生まれています。

 変わっていないのは、デジタル技術だけではなく、それぞれの従業員が持つ経験や知見、知恵を「デジタル化して価値化する」という部分です。ユーザー企業の強みは、会社の中にある経験や知見、知恵だと思います。化学会社であれば、新しい素材や材料を作るための配合レシピや分子設計、それを高品質低価格で製造するためのノウハウがこれに当たります。これら会社に眠る資産をデジタル化して価値に変えていく。「デジタル技術だけでなく、デジタル技術と会社の知を組み合わせて大きな価値を生みだす」ということは岩野が言い続けていたことですし、私も継承しています。

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