戸松 社内に向けた人材育成、社外に向けた客層拡大、やはり多くのことを一度にやろうとせず、1つに絞ることにビジネス変革のポイントはあるのでしょうか。
土屋 日本の経営者は真面目な方が多く、多くのことを早くやろうとします。欲張り過ぎることは失敗のもとです。多くをやろうとすれば、どれも中途半端になりますし、納期を切れば仕事の質は低下します。ですから、経営者は社員や部下に新しいテーマを振りすぎない。10年に1つ、多くても1年に1つでいいのです。その代わり、時間をかけてもいいのでファンダメンタルなことを徹底的にやる。たとえテーマが絞れず、スタートが遅れても構いません。その代わりやり始めたら、5年、10年かけてもいいのでできるまでやる。そうすれば100年の競争優位をつくる大きな仕事ができると考えています。
戸松 先日、「ワークマンをマネると【地獄の一丁目】行きになる!」という土屋さんと一橋大学の楠木先生の対談を読んで、非常に面白かったです。確かに、もともと個人向け作業服市場で断トツのポジションにあり、なかなかマネできない戦略とは思います。しかし、ここはあえてC4BASEセミナー本番に向けて、参加者の参考になるようなメッセージをお願いします。
土屋 いまの時代は先が見えず、グローバルな競争が激化し、企業にとってはかじ取りの難しい局面を迎えています。この状況で従来と同じことを続けたり、他社のマネをしても先はありません。独自のスタンスで抜本的にやり方を変える必要があります。私自身、商社で同じことを繰り返し、失敗を重ねてきました。
そしてワークマンに入って、従来のやり方を180度変えました。もちろん、すべてを一度に変えるのは難しい。まずは時間をかけること、時間を味方につけることです。もっとゆるやかに腰を据えて5年、10年のスパンで考えれば、あっ!と驚く奇跡は起こせます。
C4BASEの講演では、さまざまな視点からの組織改革の取り組みを紹介します。そういうことなら、うちでも試せる、実験できるかもしれないといった、小さな改革のヒントをお話ししたいと思っています。
『ワークマン式「しない経営」―― 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密 土屋哲雄』

土屋 私の妄言ばかりで、あまりかっこいい話ではありません。100年の競争優位を築くヒントは結構入っていますが、いままでのビジネス書と同じ感覚で読むと脱力感を味わうでしょう(笑)。とくにしゃかりきに頑張って、ものすごいスピードで多くの仕事を回してきたビジネスマンの方に読んでいただきたい一冊です。