ハイネケン、日本リーバ(現ユニリーバ・ジャパン)、サンスター、日本コカ・コーラ副社長、タカラトミー社長、新日本プロレスリング社長兼CEOという華麗な経歴を持つハロルド・ジョージ・メイ氏。これまでわたり歩いてきた企業をユニークなマーケティングの視点で変革し、成長させてきたプロ経営者です。
1963年にオランダで生まれ、8歳から父親の仕事の関係で横浜へ移り住み、インターナショナルスクールで英語を、日常生活で日本語をゼロからマスター。その後、13歳よりインドネシア、大学はアメリカと、世界を見聞してきたメイ氏は、流暢な日本語に加え、6カ国語が話せるマルチリンガルです。
世界の文化に触れ、異なる価値観を身に着け、多言語のコミュニケーション能力を持つメイ氏は、これまでのキャリアの中で外資系企業や日本企業の長所・短所を深くとらえています。日本は、なぜ欧米に比べイノベーションが生まれにくいのか。どのような視点で企業を変革していくのか。コロナ禍に挑戦すべきことは何か。
メイ氏とビジネス共創コミュニティ「C4BASE(シーフォーベース)」のマネージング・ディレクター、戸松正剛氏がマッチアップ。12月1日(火)のC4BASEセミナーを前に、公開スパーリングさながらの熱いトークを繰り広げます。
「人間には、目と耳は2つずつあるが、口は1つしかない」なぜか

NTTコミュニケーションズ株式会社
C4BASE マネージング・ディレクター
戸松正剛氏
戸松 さて、C4BASE本番に向けた前哨戦のゴングが鳴りました。手始めに、長年マーケティングの最前線で働いてこられたメイさんに、マーケティングの極意を伝授していただいてもよろしいでしょうか。
メイ マーケティングとは、消費者の心を突きとめる心理学だと考えています。そこで重要になるのは観察力です。人間には目と耳は2つずつありますが、口は1つしかありません。つまりしゃべる伝達力より見たり、聞いたりする観察力を2倍にするよう、神様がデザインしたのではないかと勝手に解釈しています。

元タカラトミー代表取締役社長
元新日本プロレスリング社長兼CEO
プロ経営者
ハロルド・ジョージ・メイ氏
戸松 その観察力から生まれた成功例をいくつか教えていただけますか。
メイ 日本コカ・コーラに勤めていたころ、日本ではコカ・コーラの売上が20年ほど停滞していました。そこでダイエットコカ・コーラを売り出しますが、売上は芳しくありませんでした。不振の理由は銀色の缶に大きく印字された「Diet」の文字。体重を気にしているから飲むという、ネガティブなイメージにつながってしまったのです。しかも本来のコカ・コーラからおいしい成分を“引き算”している印象にもつながります。
そこで、逆転の発想で最初からカロリーが入っていない“ゼロ”をコンセプトに黒いラベルのコカ・コーラゼロを売り出したところ、大ヒットしました。商品の思想は一緒ですが、心理学的なアプローチを変えることでヒットは生まれるのです。
戸松 もうひとつ、飲料業界に新たな市場を開拓した話はメイさんの観察力が発端ですよね。
メイ コンビニで冷えた水を購入した女性が、ペットボトルをハンカチなどで拭く姿を目にしました。バッグにしまう際に、水滴がつくのを嫌がっていたのです。そこで会社に常温で売ることを提案したのですが、飲料とは冷やすか温めて売るのが常識だと大反対されました。どうにか食い下がって1店舗で試験的に常温の商品を売ってみたところ、これが見事に当たりました。いまやコンビニ、スーパーで常温コーナーは普通になりましたが、その新市場を生み出したのは、消費者心理を読む観察力でした。
戸松 成功を積み重ねてきたメイさんは、いまのマーケティングをどのように見ていますか。
メイ マーケティングは進化していると思います。昔は商品マーケティングでよかったのですが、いまはモノで差別化はあまりできません。そこでブランドがとても重要になってきました。ブランドとは、企業と消費者との約束です。現代は企業マーケティングが重要な時代になっていると捉えています。