HPEは、次世代コンピューターのアーキテクチャーとして注目を集める「メモリ主導型コンピューティング(Memory-Driven Computing、以下MDC)」によって、ハイスペックなマシン環境を製品化するためのPoCをNexcenter Lab™で行っています。同社の水越仁氏は、MDCについて次のように話します。
「今我々は、コンピューティングへのアプローチを根本から再考しています。その理由は、デジタルトランスフォーメーションによる爆発的なデータ増加にコンピューティング能力が追い付かなくなる世界がすぐそこまでやってきているからです。
全世界の年間トラフィック量は劇的に増えており、2008年の0.3 ZB(ゼタバイト:1ゼタバイトは10億テラバイト)から2020年には44ZBに達すると予測されています。従来型のコンピューティングでは段階的な改善しか期待できないため、既成概念を越えたイノベーションが必要になっているのです」
MDC は、米国にあるHewlett Packard Enterpriseの研究所が提唱する次世代コンピューターのアーキテクチャーです。プロセッサではなくメモリをコンピューティングの中心に置くことによって、電力の消費を抑えながら膨大なデータ処理を高速化します。これによって理論上では、従来型で数日かかっていたデータ処理を数時間、数分、数秒に短縮させ、最終的にはリアルタイムでの処理を可能にします。

MDCの実績として、水越氏は「神経変性疾患に対する治療法の発見を目指す取り組み」の事例に言及。この事例では、研究でのデータ処理において電力を60%削減し、分析スピードを22分から13秒へ100倍向上させることで、研究のボトルネックを取り除いたといいます。
しかし、このアーキテクチャーを製品化するためには、現在のコンピューターデバイスの規格では対応が不可能なため、業界全体で新たな規格の策定が不可欠でした。水越氏は、それがNexcenter Lab™に参画した理由であるといいます。
「我々は、MDCによって発揮される処理能力とスピードをぜひエンタープライズの皆さまに提供したいと考えています。現在60社以上の企業が参画して、MDCに必要な新規格である『Gen-Z』に準拠したさまざまなデバイスの開発を進めています。順調にいけば2021年には、エンタープライズレベルのサーバーにも採用される予定ですが、その完成を待っている間にビジネス環境が激変してしまう可能性があります。
そこで、既存のマシンでMDC を動かせるプログラミング手法や共有メモリを扱うソフトウェアスタックを開発しオープンソースで公開しました。Nexcenter Lab™で実施しているのは、既存マシンで稼働するMDCの検証環境です。多くの企業にさまざまな検証をしていただき、それを我々もユースケースとして取り込み、1日も早くエンタープライズの世界に超高速コンピューティング届けたいと考えています」