2018年10月、トヨタ自動車とソフトバンクが、新しいモビリティサービスの構築に向けて提携し、新会社を設立して、2018年度内を目処に共同事業を開始すると発表しました。
トヨタ自動車の豊田章男社長は、記者会見で「自動運転をやっていこうと思って行った会社のドアを開けたら、必ず孫さん(ソフトバンクの孫正義社長)が座っていた」と述べ、ソフトバンクが有する「企業群」が提携の決め手の一つであったことを示唆しました。一方のソフトバンク側も、提携の意図として、ライドシェア関連スタートアップ(アメリカのUber、シンガポールのGrabなど)との資本関係が大きな強みの一つであると指摘しました。
つまり、一見すると大手同士の連携ながらも、実態としては「日本企業とスタートアップとの連携」と見ることもできます。
日本企業は、特にアジアのスタートアップと連携するケースが年々増加しています。Tech in Asiaが発表した「アジアのスタートアップエコシステムにおける日本の投資家の大きなインパクト」によると、日本企業のアジアスタートアップへの投資総額(2015年~2017年)は349.5億ドルで、これは中国企業がアジアスタートアップに対する同期間の投資総額である212億ドルを上回る数値です。
中国の企業は、AlibabaがシンガポールのECサイト「Lazada」を買収したり、Tencentがインドネシアのライドシェア・物流企業「Go-Jek」へ投資するなど、アジアのスタートアップに積極的に投資しています。しかし、日本企業はそれ以上に、アジアのスタートアップへの投資を行なっていることがわかります。
スタートアップは日々生まれており、有望な連携先を見つけ出すのは容易ではありません。そこで注目されているのが、ピッチイベントのような、スタートアップが自らのアイデアやサービスをプレゼンするビジネスコンテストです。
NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は、東南アジアで先陣を切ってピッチイベントを開催している企業の一つで、「NTT Com Startup Challenge」(以下、Startup Challenge)と題したピッチイベントを、2017年8月にインドネシアで初めて実施すると、2018年にはインドネシアに加えて、マレーシアとベトナムでも開催しました。
そんなNTT Comのグローバル事業推進部 企画部門 主査 林 常寛氏、ルクリ 俊明氏、営業推進部門 中山 香理氏にアジアスタートアップの魅力を伺いました。
「応募スタートアップの傾向としては、社会課題を解決するためにテクノロジーを使うものが多かったです。これは先進国にはあまり見られない傾向ですね。例えば、インドネシアでは農業従事者の生産性向上のための、生産者、消費者、投資家、地権者のマッチングプラットフォームを提供するアグリテック系の企業が1位となりました。
このアイデアの背景には、多くの農業従事者がバリューチェーンへのアクセス手段を持たず、銀行口座すら保有せず厳しい生活を強いられている現状を変えたいという思いがあったといいます。」(林氏)
「ベトナムでは、安価でコンパクトな風力発電機を開発・販売するスタートアップが最優秀に選ばれました。同国では電気がまだ届いていない地域が数多くあり、情報格差がそのまま年収格差につながる現実があります。ですが、この風力発電を使えば、たとえ電気が通っていなくてもスマートフォンが充電でき、住民が必要な情報にアクセスできます。社会課題に根ざしたアイデアだと思いました」(中山氏)

NTT Comはどうして東南アジアにフォーカスしてピッチイベントを開催するのでしょうか。その理由について、林氏は、東南アジアにはまだ「エコシステム」が成熟していないことを指摘しました。
「東南アジアは人口が多いため、スタートアップの数も実は多く、伸びています。しかし、彼らを支える仕組みが成熟しているとは言えません。特に、アーリーステージと呼ばれる、初期段階のスタートアップを支えるエコシステムは十分ではありません。そこで我々が、彼らをサポートできるようになれば、と考えました」
「我々の目的は、あくまでもエコシステムを構築することです。そのため、ピッチイベントの開催だけでなく、パートナー企業とのマッチングなど、スタートアップ企業が成長するためのサポートも取り組みの中心となっています」(同社グローバル事業推進部 企画部門 ルクリ俊明氏)
Startup Challenge開催目的

「この取り組みを開始した当初は、東南アジアにおける弊社の知名度は圧倒的に低く、予算も少ない、スタートアップ界隈の人脈もないところからのスタートでした。日本国内での知名度がある状況とは全く異なり、何事も思うように進まなかったですね」(林氏)
Startup Challengeは、「東南アジアにおけるエコシステムの構築」という壮大な目的のもと、2016年末にスタートしたものの、「知名度がない」「予算がない」「人脈がない」の3重苦で、プロジェクト開始当初のチームメンバーもわずか3人。プロジェクトの進め方は、アジャイル開発のように“走りながら考える”というものでした。
「チームに参画したメンバーが、自分の友人や知人の知人といった伝手などあらゆる手段を投じ、本当に“草の根”で取り組みを広げていきました。イベントのスポンサー候補や政府関係者、ベンチャーキャピタルなどに飛び込み営業をし、年間で70社以上と打ち合わせを行い、我々の活動の意義に少しでも賛同してくれる人がいれば参画して頂く、というスタイルでした。」(林氏)
ルクリ氏は一番骨の折れた活動について、政府機関とのコネクションの確立と連携を挙げました。
「スタートアップのビジネスは、進取の取り組みが多いがゆえに、政府の規制によって大きな影響を受けやすいものです。従って、エコシステムの構築を本気で目指すのなら、開催各国での政府機関との連携は必須です。しかし、誰に接触すれば良いのか、わかりませんでした。
そこで知人の伝手で、在日インドネシア副大使を紹介してもらい、そこからインドネシア政府のMinistry of Industry(日本でいう経済産業省)を紹介され、そこからまた、5,6回の電話会議や対面打ち合わせと公式書面を送付し、Startup Challengeの目的・意義を理解いただけるよう努めました」(ルクリ氏)
結果、インドネシアでのピッチイベントでは、インドネシア経済産業大臣を基調講演に招待することに成功し、現地メディアでの反響も大きかったとのことです。
「この2年間で民間から政府系までコネクションが多く築けたのは、プロジェクトのあるルールやメンバー構成を工夫していたからかもしれません。ルールの1つに、“これがいい”と思うものがあれば、個人でもいいから動く、というものがあります。つまり、“自分が思うことを信じて、自発的にやりましょう”ということの徹底です」(中山氏)
承認プロセスについても、通常業務より簡略化したことで、チームのスピート感がアップしたといいます。
「メンバーの“多様性”も、プロジェクトを成功させるうえで大きかったと思います。営業に強いメンバーや、マーケティングに強いメンバーもいました。外国籍メンバーは母国でのネットワークを活用し、パートナリングの推進に貢献しました」(中山氏)
さまざまな困難を乗り越え、第1回目のStartup Challenge が2017年8月にインドネシアで開催。応募は350社にのぼりました。翌年のインドネシアのイベントではさらに応募数が増え、インドネシアとマレーシア、ベトナムの3カ国合計で1,050社に達しました。
NTT Com Startup Challengeの歴史

NTT Com Startup Challenge 2018

「東南アジアにおけるNTT Comの知名度は低かったですが、インドネシアでは2年連続で実施できたことで、スタートアップコミュニティにおけるプレゼンスは高まったと手応えを感じています。マレーシアとベトナムについても、国の規模から考えると、想定した以上の応募がありました」(中山氏)
Startup Challengeの特徴の1つとして、NTT Comはあくまでもピッチイベント開催を通してスタートアップ支援をすることに重点を置き、スタートアップに対して出資する側には回らないことが挙げられます。
「一般的に、企業のスタートアップ支援は『出資』という形で行うことが主流です。しかし最近は、ベンチャーキャピタルや、事業会社が運営するコーポレートベンチャーキャピタルによる出資も盛んです。そのため、スタートアップは以前より容易に資金が調達できる環境にあります。そこで我々は、スタートアップが資金の次に課題とする「新規顧客の獲得」に注目しました。
そのため、これまでトータル1,000社近くのスタートアップ企業のプレゼンを見ていますが、我々はどの企業に対しても出資を行わず、あくまでも日系企業のアジア進出や、東南アジアのスタートアップの日系市場への拡大の“橋渡し役”に専念しています。出資していないからこそ、中立的な立場で日系企業とスタートアップをつなぐプラットフォーマーとして貢献できると考えています」(林氏)
これまで4回に渡ってStartup Challengeを実施したことで、日系企業からも問い合わせの連絡を受けているといいます。たとえば、「取り組みの内容を教えてほしい」といったものや、「スポンサーとして参加したい」といった声もあるようです。
「これまではベンチャーキャピタルと手を組むことが多かったですが、2019年度以降は多くの事業会社と手を組み、実際のビジネスにつながっていくような仕掛けに取り組んでいきたいです」(林氏)
アジアへの進出を考える際、こうしたイベントを活用して現地のスタートアップと手を組めば、各国毎に異なる課題やニーズに対応することも可能になります。また、日本での新規事業開拓の際には、国内のスタートアップに加えて、東南アジアのスタートアップにも注目してみるのも良いでしょう。特にアグリテックなどの分野においては、東南アジアのスタートアップのほうが、アイデアや技術を持っている場合があります。
海外展開や新規事業の創出を効率的に、低リスク、低コストで進めたい企業は、現地のスタートアップとの提携という手法があることを記憶にとどめておいても損はないでしょう。
これまで、企業とベンチャーとの連携、東南アジアのスタートアップの熱狂やそれに関する取り組みを紹介しましたが、百聞は一見にしかず。実際に東南アジアに行かなくても、その熱狂に触れられるイベントが3月13日に東京で開催されます。
「NTT Com Startup Challenge Summit」と題し、早稲田大学の入山准教授の講演や、Startup Challengeで審査員を務めシンガポールを拠点とするKK Fund共同創業者であるKuan Hsu氏と、外交官×エコノミストという経験を生かしNews Picks Chief Asia Economistを務める川端 隆史 氏との対談、そして、インドネシア・マレーシア・ベトナム各国上位3社によるピッチがあります。日本ではなかなか見つけられない新たな発見があるかもしれません。
NTT Com Startup Challenge Summitの申込みはこちらから(NewsPicks)
もう少し詳しく知りたいという方には、一橋大学大学院経営管理研究科教授である楠木健氏とStartup Challenge発起人であるNTT Com杵渕保敬氏が「イノベーションと多様性」をテーマに対談した記事(NewsPicks)もあるので、ご覧ください。
Startup Challengeのノベルティプレゼント
本記事で紹介したStartup Challengeのノベルティセットを、10名様にプレゼントいたします。当プロジェクトのTシャツ(XLサイズ)とボールペンがセットになっています。以下リンクより、必要事項を記入のうえ奮ってご応募ください。
「ぜひ応募いただき、Startup Challengeのことを知っていただければと思います。そしてタイミングが合えば、イベントにも参加してみてください!」(林氏、ルクリ氏、中山氏)
※プレゼントの応募受付は終了いたしました。たくさんのご応募ありがとうございました。
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