製造や分析、研究など、さまざまな現場で必要となる「純水」や「超純水」を作るための装置を販売するオルガノ株式会社。同社は、NTTコミュニケーションズの「Things Cloud®」を活用してIoTへの取り組みを進めています。そのプロジェクトが始まった背景や具体的な取り組みについて、お話を伺いました。
【オルガノ株式会社について】
1946年の創立以来、総合水処理エンジニアリング企業として、日々の生活と産業の発展をサポート。大規模工場や発電所などに水処理技術や設備を提供するプラント事業、設備の効率化や水処理能力のアップなどを支援するソリューション事業、多様な製品群で幅広いニーズに短納期で対応する機能商品事業を3本柱に事業を展開している。
水処理の総合エンジニアリング企業として、超純水から純水、浄水そして排水に至るまで幅広い水処理技術を有しているのがオルガノ株式会社(以下、オルガノ)です。2018年4月には「オルガノは水で培った先端技術を駆使して未来をつくる産業と社会基盤の発展に貢献するパートナー企業としてあり続けます」という新たな経営理念が設定されました。
さらに同じタイミングで策定された中期経営ビジョンの1つとして、「高付加価値の機能商品を生み出し続け、グローバルに展開する会社」という目標も掲げられています。この目標を達成するべく、製品の差別化やグローバル展開を進めるための手段として検討されたのがIoTの活用です。この具体的な背景について、オルガノ 経営統括本部の本宮明紘氏は次のように説明しました。
「現在オルガノで注力している事業の1つが機能商品事業と呼ばれるもので、工場や研究所などで使用されている水処理装置などの製造、販売を行っています。機能商品事業の中で展開している製品やサービスの強化を図るためにIoTの活用を検討しました。水で培った技術を活用し、お客さまに継続的にビジネスパートナーとして選ばれることを考えたとき、お客さまの状況を常に把握してタイムリーに適切なサービスを提供することが必要となります。その目的を達成するための手段として、IoTが有効ではないかと考えました」
このIoTの活用により、業務改善を目指している課題の1つが「製品に故障が発生したときのサポート対応」です。水処理装置に故障が発生すると、お客さまから問い合わせの連絡が入ります。当然ながらお客さまは水処理の専門家ではないため、何が問題となっているかまで把握してサポートに伝えることは難しいでしょう。そこで実際にカスタマーサービス担当者が現場に赴き調査を行うわけですが、場合によっては装置の状況を記録したデータを持ち帰って解析し、再度訪問して対応するといったこともあったようです。
「我々が提供する装置からの純水の供給が止まってしまうと、お客さまの生産活動や業務を止めることになってしまいます。ですから、安定して動作し続けることが最も大切です。IoTを導入することにより、お客さまから連絡をいただく前に状況を把握することが可能となり、お客さまの装置を止めることなく対応する、あるいは装置が稼働を停止する時間を極力短縮できるのではないかと考えました」(本宮氏)
また、同社機能商品事業部の飛彈正崇氏は「たとえば装置から水が出ないとなった場合、ポンプが動いていない、水処理用の膜が目詰まっている、あるいは供給水の圧力が不足しているなど、さまざまな原因が考えられます。その際、IoTによって機器の状態を詳細に把握することが可能であれば、担当者が事前に準備をしたうえで出向いて対応したり、軽微な故障であれば現場側で即時に対応してもらったりすることもできます」と話します。このように遠隔で状況を把握することで迅速に復旧対応ができれば、お客さまにとっても大きなメリットにつながります。
自社の製品力強化、そして迅速かつ効率的なサポートの実現に向けてIoTの活用に向けた検討を進めた結果、いくつかの監視サービスがテスト的に導入されました。テスト的に導入したお客さまとのやり取りの中でセキュリティや監視サービス全体管理の重要性が見えてきました。しかしながら、これまでテスト導入していたサービスでは表示できる情報が限定されていたり、システムへの登録作業が煩雑であったりするという課題がありました。さらに、多数の機器を効率的に監視できないことも問題だったようです。
このような背景から、あらためてIoTプラットフォームを構築するためのソリューションの選定が進められました。その中で重視されたのは、以前利用していた監視サービスで課題となっていた大量の機器を効率的に管理することが可能かどうかという点です。加えて、監視画面のカスタマイズ、そして習熟期間を短縮し速やかに立ち上げられることが大きなポイントでした。
まず監視画面について、同社機能商品事業部の鈴木康弘氏は「以前使っていたサービスの画面は、カスタマイズができませんでした。そのため、デザイン面も含めて、お客さまが見てもわかりやすい画面を作れるものが望ましいと考えていました」と話します。
さらに本宮氏は「機能商品事業はこれまで国内市場がメインでしたが、今後はグローバルに展開することも見据えています。そのため、ソリューション選定においてはグローバルで利用できることも重視しました」と、海外での利用も視野に入れていたと説明します。
このように、オルガノはIoTプラットフォームに求める要件を整理した上で、各社から提案を募ります。その結果、最終的に選定されたのがNTTコミュニケーションズの「Things Cloud®」でした。これは各種IoTデバイスの監視や制御を遠隔で行うための仕組みを備えたクラウドサービスであり、多数のデバイスに対応しているほか、豊富なソフトウェアライブラリを備えています。
最終的な選定理由としては、管理画面のカスタマイズ性や習熟期間を短縮し速やかに立ち上げられることやグローバルへの対応といった要件を満たしていたことに加え、プログラミングの手間を最小限に抑えられたことも大きかったようです。
「基本的にノンプログラミングで、画面やシステムを構築できる点は魅力でした。特に我々が提供する製品は多様で、取得する情報も製品によって異なるほか、場合によってはカスタマイズする必要があるケースもあります。その都度プログラムを書く必要があると大変ですが、GUIで容易に設定できれば機能を追加したり、対応機種を増やしたりする場合の稼働も軽減できます」(本宮氏)
プログラミングすることが前提となっていると、たとえば画面の変更や新たなデバイスの追加にも時間を要するほか、外部のインテグレーターなどに作業を依頼すればコスト負担も増大します。しかしThings Cloud®であればノンプログラミングでそのような作業ができるため、画面変更やデバイスの追加にも容易かつ迅速に対応することが可能です。Things Cloud®の選定では、こうした点も評価されました。
オルガノのシステム構成イメージ

実際の導入にあたっては、IoTデバイスのメーカー、そしてNTTコミュニケーションズを交えた検証も行われました。同社技術開発本部の尾崎大介氏は「Things Cloud®のサービス開始後の早い段階で、NTTコミュニケーションズのVPNサービス(Arcstar Universal Oneモバイル)の接続テストを始めました。接続テストを進める中で、一部の機種が接続できないという状況が生じましたが、メーカーとNTTコミュニケーションズを交えて一緒に検証を行うことで解決することができました。また通信方式の違いで接続できないこともありましたが、Things Cloud®のサービス拡充の中で対応していただきました」と、NTTコミュニケーションズのサポートについて振り返ります。
「Things Cloud」導入後の効果

Things Cloud®を活用したオルガノのIoTサービスはスタートしたばかりですが、すでに効果は表れているようです。その1つとして本宮氏が紹介するのはサポートの質の向上です。
「水処理の専門家であるオルガノが製品を監視していることで、『安心感がある』という声をお客さまからいただいています。また消耗品の交換期限が近付くとメールで通知するという機能を組み込んでいるのですが、これによってオルガノから能動的に提案できることもメリットだと感じています」
サポート業務の負担軽減、そしてノウハウの継承にも有効だと考えていると話すのは鈴木氏です。
「IoTを活用することでサポート業務を効率化し、人手が不足している領域をカバーできるのではないかと考えています。また我々が提供する製品のメンテナンスでは経験値が重要ですが、この経験を人から人へ継承するのは容易ではありません。IoTを使って得たさまざまなデータを活用して、なるべく個人の経験値に依存しない形で、ノウハウをうまく継承できるようにしたい。今後はそのような部分も期待しているところです」
同社が提供するデスクトップタイプ純水製造装置・超純水製造装置である「ピューリックFP-α」および「ピュアライト PR-α」シリーズは、IoTに対応可能であることも評価され、「2017年(第60回) 日刊工業新聞十大新製品賞」において「モノづくり賞」を受賞しました。オルガノ株式会社のIoTに向けた取り組みが社会的にも評価されていると考えられるでしょう。
今後の展開について本宮氏は「今後は海外でもIoTプラットフォームを展開し、さらに機能もどんどん増やしていきたいと考えています。現状はデータの見える化が実現できた段階ですが、その後のデータ活用、お客さまへのさらなる付加価値の提供にもつなげていきたいと考えています。その実現に向けて、NTTコミュニケーションズと取り組みを進めていきたいですね」と語りました。
自社だけでなく、お客さまにも大きなメリットをもたらしたこの事例は、IoTがもたらす価値を示す好例と言えるのではないでしょうか。IoTがオルガノのビジネスにどのような好影響をもたらしていくのか、今後の動向にも注目です。