国内外の工場の自動化を追求してきたファナック株式会社は、製造業のデジタル変革を加速させるべく、IoTを活用した新事業「FIELD system」を展開しています。製造現場の生産機器を接続し、情報を集約して、生産性の向上と“止まらない工場”を目指すFIELD systemは、いかにして開発されたのでしょうか。そのベースには、パートナー企業との共創がありました。
【ファナック株式会社について】
1956年に日本で民間初の NC(数値制御装置)とサーボ機構の開発に成功して以来、一貫して工場の自動化(FA)を追求し、自社の基本技術であるCNC、サーボ、レーザから成る「FA事業」と、それらの技術を応用した「ロボット事業」「ロボマシン事業」の3本柱によって、製造業現場の自動化推進に貢献している。
「FA事業」「ロボット事業」「ロボマシン事業」を3本柱にビジネスを展開しているファナック株式会社(以下、ファナック)は、近年ITをベースとした新しい事業にも注力しています。それが、2016年にシスコシステムズ、ロックウェル・オートメーション、株式会社Preferred Networksの各社と共同で開発開始を発表した「FANUC Intelligent Edge Link and Drive system(FIELD system)」です。
このFIELD systemは、ファナック製のCNC(コンピュータ数値制御装置)やロボットに加えて、多種多様なメーカーのデバイスやセンサー類が接続可能なIoTプラットフォームです。複数のメーカーが製造したさまざまな世代の機器を組み合わせて使うことが当たり前の工場現場に対し、共通の連携基盤を提供することで、製造現場のオープン化や生産活動のスマート化を支援することを目指しています。
同社研究統括本部 次長の玉井孝幸氏は、FILED systemの特徴を説明します。
「FILED system上では、さまざまな自社製・サードパーティ製アプリを提供します。それらを利用することで、『つながる(機器の容易な接続)』『見える(稼働状況の可視化)』『考える(収集したデータの分析)』『動かす(分析結果によるエッジ機器のコントロール)』という各フェーズの取り組みをトータルに加速することが可能になります」。つまりFILED systemは、プラットフォームとアプリの両輪によって、新しいエコシステムの構築を目指すものとも言えるでしょう。
FILED systemのコンセプトを実際のサービスに落とし込むには、国内外を含めたシステムの管理・運用、アプリケーション配信の仕組みなど、いわば“システムを支えるシステム”の整備が不可欠です。そこで同社は、こうしたITの領域を得意分野としている、ともにプロジェクトを進めるためのパートナーを迎えたいと考えていました。
同社がパートナーに求めた要件は、まずFIELD systemの基本コンセプトであるエッジコンピューティングの技術を持ち、IoTに欠かせないネットワーク基盤や各種インフラ機器を迅速・的確に手配・運用できることでした。さらに、高性能なソフトウェアの開発や先進技術をいち早く取り込むことができる技術力、提供エリア拡大に対応できるグローバルなカバレッジも重要です。その上、大規模プロジェクト運営の経験が豊富であることも、一連の段取りをスムーズに進めるために必要だと考えました。
「FIELD systemのコンセプトを具現化しつつ、目の前の課題だけでなく、その先で起こりうる問題も解決できる総合力を備えていることが、FIELD systemのパートナーの条件でした」と玉井氏は話します。
こうした要件からファナックが協業パートナーの一員として新たに加えたのが、NTTコミュニケーションズを含むNTTグループでした。NTTコミュニケーションズは、強みとしているネットワークやクラウド領域のソリューション、および豊富なビジネスノウハウに加え、グループのNTT研究所、NTTデータとの連携による先進技術の知見やソフトウェア開発力も兼ね備えています。
「FIELD systemは、当社にとって未知の領域に挑むプロジェクトです。その点、システム運用やグローバル展開などにおいて経験・実績が豊富なNTTグループは、パートナーとして安心感がありました。将来を見据えたとき、ともに歩んでいけると考えたのです」と玉井氏は語ります。
こうしてスタートしたプロジェクトですが、その過程ではさまざまな壁が立ちふさがりました。ファナックは製造業の現場を専門にやってきましたが、NTTコミュニケーションズはその分野はあまり経験がないというように、両社の専門分野が異なるため、当初は技術者などのプロジェクトメンバーで長時間の議論を重ねて相互理解に務め、信頼関係を構築していきました。
同時に、プラットフォームの完成を目指すパートナーとして、“リスクとメリットの両方を共有して取り組める体制”を確立することで、課題を1つずつ解決していったといいます。「NTTコミュニケーションズとの密な連携により、難しい課題も解決することができました」と玉井氏は振り返ります。
2017年秋に正式リリースされたFIELD systemは、すでに複数の製造業に導入され活用されているほか、多くの企業からも引き合いがあるといいます。「まずは特定の工場やラインで試験運用するお客さまが大半ですが、そこで得られた成果をベースに今後は本格活用が進んでいくものと期待しています」と玉井氏は先を見据えます。
「FIELD system」の概要

その際のカギになるものとして、同社が位置づけるのが「つながる、見える、考える、動かす」というFIELD systemの基本コンセプトを具現化するアプリです。今後は、“止まらない工場”の実現に向けた「予防保全」、製造物の品質を担保する「検査」、熟練工のノウハウ伝承を含む「使いやすさ」、生産性・歩留まり向上や精度向上を担う「最適化・性能向上」といった領域でのAIアプリの開発にも注力していきます。
AIに求められる精度が100%は要求されない機器の故障予知領域に加え、将来的にはより精度が求められる領域にも応用していく方針です。
たとえば一般に工作機械は、稼働中の運転や停止による機械自体の温度変化で熱膨張や収縮を繰り返すため、それが加工精度に影響を及ぼします。現在は現場の技術者が長年の勘や経験を基に調整することで、加工精度を保っているケースも多いといいます。
「これらの熟練技術者の技術やノウハウをAIに置き換えて、伝承することができれば、作業の属人化や技能の消失といった課題を解決することが期待できます。労働人口の減少や働き方改革による時短化が叫ばれる昨今、AIによる熟練技術者の技術のデジタル化やノウハウ伝承は、多くの現場が必要とするテクノロジーだと考えています。ほかにも『現場で価値のあるアプリ』を徹底的に考え、実現していきたいです」と玉井氏は語ります。
ファナックは今後も、FIELD systemを通じて製造業各社の生産活動最適化を支援していきます。将来的には、国内にとどまらず、欧米やアジア地域でも順次提供を開始する計画だといいます。
「日本の製造業は各企業の優れた技術の基に、拡大を続けてきました。そのような技術を、IoTを活用することでさらに価値を高めることができるのならば、製造業の皆さんにぜひ活用していただきたいと考えています。それこそが、長年製造業に関わってきたファナックの社会的使命であるとも考えています。当社は、このFIELD systemにかかわる事業を、ゆくゆくは既存3事業と並ぶ4つ目のビジネスの柱にしたいと考えています。NTTコミュニケーションズには一層の支援や提案を引き続き期待しています」と玉井氏は今後の展望を語りました。
最後に、新しいビジネスモデルの構築や事業領域の拡大に挑む際のポイントを伺いました。
「そのようなチャレンジングな施策を推進する場合、いまや単独企業でどうにかするという時代ではないと感じています。そうなると、協業するパートナーが重要になってきます。先にも触れましたが、自社とパートナーがともにwin-winとなることは最低限必要ですが、忘れてはいけないのはリスクも共有するということではないでしょうか。今回のFIELD systemのプロジェクトにおいても、じっくりと時間をかけて当社とNTTコミュニケーションズとの相互理解に務め、リスク面においてもお互いに理解するまでコミュニケーションを重ねました。その結果、お互いの不得意分野を補完し合える関係を構築することができました」
ファナックとパートナー企業の共創によりつくられたIoTを活用した新事業、FIELD systemの今後の展開が、注目されます。
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