AIでビジネスの課題を解決する

なぜフィデリティ投信は「AI翻訳」を導入したのか

2018.08.31 Fri連載バックナンバー

 外資系資産運用会社のフィデリティ投信株式会社では、海外から届いた英語のレポートを翻訳し、日本のユーザーに届けるサービスを行っています。しかし、その翻訳作業に伴う時間とコストが課題となっていました。

 しかし「AI」に関連する、あるサービスを導入したことで、翻訳作業の大幅なスピードアップと、コスト削減に成功したといいます。

 

気になる見出しをクリック

海外発のレポートを翻訳して顧客に提供。でも時間もコストもかかる

 フィデリティ投信株式会社(以下、フィデリティ投信)は、世界有数の規模と歴史を持つ独立系資産運用グループであるフィデリティ・インターナショナルの日本法人です。日本国内の個人投資家や機関投資家向けに、幅広いサービスを提供しています。

 同社の強みといえるのが、世界中の拠点網を駆使した運用・調査体制です。同社には日々、運用に関する膨大な量のレポートが世界中から届けられており、そのレポート内容は翻訳作業を経て、同社の日本の顧客に提供されています。

 同社ではこれまで、レポートの翻訳作業を、外部の翻訳業者に委託していましたが、そこで問題になっていたのが、時間とコストです。

「運用レポートは非常にボリュームが多く、毎日のように翻訳作業が発生しています。そのため、外部委託の場合、1,000文字程度の原稿で、翻訳が完了するまで2日、3日はかかります。コストも1文字あたり数十円かかっており、支出は膨大なものになっていました」(同社金融市場調査室 穂谷栄一郎氏)

 中でも喫緊の課題は、翻訳に要する時間でした。緊急性の高いレポートは、外部に委託していては間に合わないため、社内で対応せざるを得なかったといいます。

「外部委託では間に合わないレポートの翻訳は、複数の社員で作業を分担し、ときには深夜まで残業することもありました。社員の多くは英語力が高く、少量であれば、自ら翻訳したほうが早い場合もあります。しかし、翻訳専門のスタッフではないため、社員が本来取り組むべき業務を圧迫し、業務負荷を大きくしていることが問題となっていました」

 こうした負荷を軽減するために、同社では翻訳ソフトの導入を検討。しかし、狙い通りの効果は得られませんでした。金融業界には専門用語が多く、一般的な翻訳ソフトでは満足できる精度の翻訳が上がらないためです。

 そんな折、穂谷氏は「AIを利用した新たな翻訳サービスが提供される」というニュースリリースを目にします。

経営陣は大歓迎も、情シスが慎重な理由とは

 穂谷氏が見つけた翻訳サービスは、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)が提供する「AI翻訳プラットフォームサービス」です。これは、次世代技術「ニューラル機械翻訳(NMT)技術」を搭載したエンジン「COTOHA Translator™」を核とするサービスで、NTTグループ企業の株式会社みらい翻訳が、国立研究開発法人情報通信研究機構と共同開発したものです。

 AI翻訳プラットフォームサービスは、TOEIC900点レベルのビジネスパーソンに匹敵する翻訳精度を備えており、さらに翻訳にかかる時間も短く、人間の翻訳と比べ、数十分の一から数百分の一に抑えられるほどの性能を持っています。人間が行う作業は、翻訳結果の確認と、わずかな修正だけとなります。

「AI翻訳プラットフォームサービス」とは

 “このサービスであれば課題が解決できるかもしれない”と思った穂谷氏は、AI翻訳プラットフォームサービスの導入を経営陣に提案。もともとフィデリティ投信では、デジタルソリューションの積極的な活用を経営戦略として掲げていることもあり、二つ返事で了承されました。

「“このサービスを使えば、運用レポートの翻訳にかかる時間と経費の大幅な節約が見込める”とマネジメント層に伝えたところ、“トライアンドエラーで構わない、失敗を恐れずファーストランナーとして挑戦すべきだ”という後押しをもらいました」

 トップの許可は得られたものの、実際にサービスの導入に際しては、もう1つのハードルがありました。それは、情報システム部との連携です。社内で定めたセキュリティポリシーをクリアできているか、できていないのであればクリアに向けてどのように準備すべきか、対策を講じる必要がありました。

 穂谷氏から相談を受けた同社情報システム部の小泉忠裕氏は、AI翻訳プラットフォームサービスの導入に際し、社内でいくつかの確認を行ったといいます。

「翻訳内容に機密情報が含まれるのであれば、社内規定により、外部セキュリティレビューによる査定、検査を行う必要があります。そのため、運用レポートの翻訳では、機密情報を扱わないことが前提条件でした。この条件を徹底するために、金融市場調査部で細かく管理項目を設定し、ダブルチェック体制を整えるなど、機密情報が翻訳されない仕組みを構築しました」(小泉氏)

 小泉氏はさらに、サービスを提供するNTT Comに対して、データの暗号化や不正アクセス対策、DR/BCP対策などが十分であるかどうか、将来的に全社展開や機密情報の翻訳利用が可能かどうか、といった確認も事前に行ったといいます。

翻訳スピードは約10倍に、コストは“桁が1つ減る”ほどの効果

 こうした事前調整が完了し、AI翻訳プラットフォームサービスは無事、穂谷氏が所属する金融市場調査室に導入されています。

 穂谷氏は、AI翻訳プラットフォームサービスの導入により、従来と比べて最も改善された点について、翻訳の「スピード」と「クオリティ」の2つを挙げました。

「スピードに関しては、これまでは10,000語を超える運用レポートを外部委託で翻訳した場合、約20日かかっていましたが、AI翻訳プラットフォームサービスの導入後は、わずか数十秒で完了します。

 クオリティについては、外部委託による翻訳よりは精度は落ちますが、手直しにかかる時間を含めても2日程度で終わります。つまり、作業にかかる時間を、従来のおよそ1/10に短縮できたということになります。今後、辞書登録機能を使って金融業界の専門用語を覚えさせることで、さらなる精度向上、時間短縮も可能と考えています」

 AI翻訳プラットフォームサービスでは、Microsoft OfficeやPDF形式のファイルをドラッグ&ドロップするだけで翻訳を行う「ファイル翻訳」機能も利用できますが、穂谷氏はこれについて高く評価しています。

「ファイルをドラッグ&ドロップすれば、フォーマットを維持したまま翻訳ができます。レポート本文のみならず、図表の凡例なども翻訳してくれます。これまでのようにファイルからテキストをコピー&ペーストで抜き取って翻訳し、結果をもとのファイルに張り付ける手間を考えたら、作業効率が大幅に改善されています」

「ファイル翻訳」画面の一例

 コスト削減についても、想定以上の効果が出ています。

「少なくとも“桁が1つ減る”くらいの削減効果が出ています。コストを気にせず利用できる、定額制のサブスクリプション契約(利用期間に応じて料金を支払う契約)であることも大きなメリットだと感じています」(穂谷氏)

 さらに、外部委託から内製に切り替えたことで、見積書、請求書などの経理処理も不要になり、その分の稼働の削減に成功。加えて、運用レポートの提供スピードがアップしたことで、有益な情報を迅速に顧客に提供するというサービス力の強化が図れたといいます。

AI翻訳プラットフォームサービスの導入効果

 今回のプロジェクトで手応えを得た穂谷氏は、次の展開を見据えています。

「現在は運用レポートなどがメインですが、今後は機関投資家との日々のやりとりにも活用していく予定です。さらに、社内の各部署にも広げていきたいと考えています。将来的には、上位メニューにアップグレードして、機密情報の翻訳についても対応していこうと考えています。

 この波が社外にも広がり、AI翻訳が金融業界のデファクトスタンダード(事実上の業界標準)になれば、日本の金融業界の生産性は飛躍的に高まるのではないでしょうか」

※掲載されている内容は公開日時点のものです。
※掲載されているサービスの名称、内容及び条件は、改善などのために予告なく変更することがあります。

ご覧いただくにはログインが必要です。

新規会員登録(無料)はこちら

まだ会員でない方は、会員登録(無料)いただくと、続きが読めます。

このテーマについてもっと詳しく知りたい

関連キーワード

Bizコンパス編集部

Bizコンパス編集部

このページの先頭へ
Bizコンパス公式Facebook Bizコンパス公式Twitter