IoT/AIを活用したサービス開発の裏側

IoTとAI活用で危険を防ぐ、見守りサービス「みもり」

2018.08.08 Wed連載バックナンバー

 IoTの普及に伴い、その適用領域は極めて幅広く、さまざまな分野で大きな変革を生み出しています。その一例として今回取り上げるのが、子どもの安心と安全のためのIoT活用事例です。無料の緊急連絡網ツールである「マチコミ」を提供するドリームエリア株式会社では、このたび子どもを見守るためのデバイスである「みもり」を新たにリリースしました。このデバイスの開発にかけた思い、そして背後で使われているテクノロジーについて、同社の代表取締役である寺下武秀氏にお話を伺います。

 

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子どもの安心・安全のために無償で提供される「マチコミ」

 子どもを狙った犯罪が多発している影響から、多くの自治体で発信しているのが不審者情報です。子どもが不安を感じるような言葉で不審者に声を掛けられる、あるいは子どもが不審者につきまとわれるといった事案が発生した場合、その情報を即座に発信することにより、保護者や学校などによる適切な対処を支援するための仕組みです。

 この不審者情報をメールで配信するための仕組みとして、全国の小中高等学校で採用されているのが「マチコミ」です。これは無料のメール連絡網システムであり、不審者情報や保護者に連絡すべき事項があった場合、学校がメッセージを入力すると、事前に登録されたメールアドレスにメッセージが送信されるというサービスになります。

 当初は連絡網の代替に使うシンプルなシステムでしたが、現在ではカレンダー機能や行事の出欠確認、そしてメッセージを投稿できるタイムライン機能を備えるなど、多機能なサービスになっています。学校ごとに会員制のサービスとして運用することになるため、無関係の外部のユーザーが不正にサービスを利用することもありません。この安心感もマチコミの大きな特長となっています。

 教育施設や子ども対象とした団体であれば、無償で使えることもポイントです。マチコミを運営するドリームエリア株式会社(以降、ドリームエリア)の代表取締役である寺下武秀氏は、無償で提供することになった背景を次のように説明しました。

「もともと私たちは、携帯電話を使う飲食店向けの販促システムを作っていました。飲食店のPOPに印刷されたQRコードを読み込むと、クーポンが送られてくるというシステムです。それを販売していたところ、ある教育関係の方からそれを連絡網のシステムとして使えないかと相談を受けたのです。最初は有償で販売するつもりでしたが、行政の場合、予算を確保することが難しく、通例申請しても半年から1年はかかってしまいます。また当時は子どもが被害に遭う事件が多く、私も子どもが生まれたばかりということもあり、民間企業として協力しようという気持ちで無償での提供を決めました」

単なるトラッキングデバイスを超えた子どもの見守りツール

 そのような中、ここ数年の状況から寺下氏にはある疑問が生まれていたといいます。それはあまりにも多くの不審者情報が配信されるようになったことで、保護者の関心が薄れているのではないかというものでした。

「不審者情報の定義が曖昧になってしまい、保護者が受信したときに『これは不審者情報なのか』と困惑するようなものが増えたと感じています。知り合いに不審者情報を受け取ったときにどうしているかと聞いても、そのまま受け流しているというケースが多いのです。私たちがマチコミを提供するのは子どもたちの安心・安全を守るためでしたが、不審者情報が活用されていない現状では、マチコミで本来目指していた成果を生み出せていないのではないかと感じるようになりました」

 さらに昨今では、街中で見ず知らずの子どもに声を掛けることがはばかれる風潮もあります。昔であれば、夜遅くに子どもが1人で歩いていると、たとえ知らない子であっても「こんな夜遅くに出歩いていると危ないよ」などと声を掛けられたでしょう。しかし現在でそういった声をかける人は決して多くありません。

 このように状況が変化する中、どうすれば子どもの安心・安全を守ることができるのか。そのように考えた寺下氏が思いついたのはトラッキングデバイスでした。これはGPSを利用して子どもの位置を捕捉し、子どもがどこにいるのかを保護者がいつでも把握できるというデバイスです。

「不審者情報に疑問を持ち始めた昨年の6月ごろ、マチコミを利用されている保護者の方を対象にトラッキングデバイスに興味があるかというアンケートを実施しました。その際、80%以上のユーザーから『興味がある』という回答を得られました」

 単純なトラッキングであれば、昨今のスマートフォンを使っても実現することは可能です。しかし現在の日本では70%近い小学校が携帯電話の持ち込みを禁止しているため、現実的には利用できません。この結果から、寺下氏はスマートフォン以外の見守りのシステムが必要だと考えました。

 一方、単純に子どもの位置を把握できたり、学校などに到着した際に通知を送信したりするだけでは、子どもの見守りにつながるのかという疑問も生まれたと言います。そこでマチコミと連動するアイデアが生まれます。マチコミで不審者情報を配信する際、不審者が出た場所を地図上で設定すると、そのエリアに子どもが入ったときにスピーカーから「ここは危ないので離れてください」といった音声を流すというものです。こうしたアイデアが採用され、最終的に実現したのが「みもり」でした。

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ドリームエリアが「100円SIM」を採用した理由

 みもりは小型の専用デバイスであり、GPSを用いて位置情報を取得できるほか、不審者がいると思われるエリアや危険な場所を登録したデータベースを利用し、子どもが危険な場所に入ると警告メッセージを鳴らして注意を促します。

 さらにAIを活用し、いつもと違うルートを通ったり、子どもの徒歩ではない速度で移動したりしている場合は保護者に通知する機能もあります。そのほか、迷い子防止機能や防災対策の機能も組み込まれています。

 このデバイスを実現するために活用されているのがNTTコミュニケーションズの「Arcstar Universal One モバイル グローバルM2M(100円SIM)」(以降、100円SIM)と、クラウドサービスである「Enterprise Cloud」です。まず100円SIMを採用した理由について、寺下氏は次のように述べました。

「格安SIMと呼ばれるサービスはいくつかありますが、安いものでも数百円になってしまいます。その分、利用できる通信量が多いということもあるのですが、価格を重視しました。そしてもう1つの理由は利用できるエリアの広さです。すでにマチコミは全国に広がっており、最初から日本のどこでも安定したサービスを提供したいという思いがありました。LPWAなど新たな技術の採用も検討しましたが、利用できるエリアが限定的でした。このような判断から最終的に100円SIMを採用しました」

 100円SIMとEnterprise Cloudを採用した理由として、セキュリティも大きな要因となったとのことです。

「100円SIMとEnterprise Cloudの組み合わせであれば、インターネットを介さずに閉域網だけでクラウド上のサーバーに接続することが可能です。安心・安全にかかわるサービスであり、セキュリティリスクは企業リスクにもつながることから、セキュリティを担保しながら着実に進めていきたい。そう考えたとき、NTTコミュニケーションズのサービスであれば閉域網で接続できるほか、クラウドへの接続が無料で利用できるというメリットもあります。この面でもコストメリットがありました」

 NTTコミュニケーションズが提案した、障害時の対応も安心感につながったようです。具体的には、100円SIMのみならず、クラウドサービスも含めて一元的に問い合わせできる、24時間365日対応の窓口を提供するという内容でした。このように、万一のトラブルの際でも迅速に対応する体制が整えられていたことが安心感につながったと寺下氏は話します。

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数千時間を超えるテストでも通信関係でのトラブルは皆無

 このように利用するサービスを決め、デバイスやサーバー環境を開発した後、ドリームエリアでは徹底的なテストを行っています。

「フィールドテストを開始して半年ほどたちますが、その間に数千から数万時間分のテストを実施しています。マチコミというブランドがすでにあり、そこに対しての安心・安全に対する信頼や期待感は極めて大きいと感じています。その期待に応えるためにも、しっかりテストを行って提供したいと考えています。実は当初の予定よりもリリースが遅れているのですが、より信頼性を高めるために発売延期を決断しました。その結果、満足できる品質で今回のリリースに至っています」

 なおフィールドテストの通信関連でのトラブルはなく、ネットワーク遅延の問題を回避するための新たなロジックや監視のための仕組みの追加といった作業は発生しなかったとします。そのため、余計な稼働は発生しなかったと100円SIMおよびネットワークを寺下氏は評価しました。さらに各SIMに対して、固定のIPアドレスが割り当てられることもサービス提供の上でのメリットにつながっているようです。

「今回のみもりでは、どのユーザーがどのIPアドレスを使っているかをすべて管理しています。このため、もし不正が行われた場合でもIPアドレスレベルでブロックするなどの手を打てます。こういった点も100円SIMの利点だと感じています」

 サービスだけでなく、NTTコミュニケーションズのサポートの質も寺下氏は高く評価しました。

「技術面も含めて、私どもが期待するレベル以上のサポートを提供していただいています。特に今回はコマンドのレベルまで支援していただき、大変助かりました。自分たちで調査すれば数日を要することになり、それだけ時間をかけても結果的に問題が解決しないということも過去にはありました。しかし今回は迅速にサポートしていただいたおかげで、開発工数の削減や開発スピードの向上につながっています」

 開発の観点では、みもりの端末とクラウド上のシステムを閉域網で接続したこともメリットにつながりました。寺下氏は「インターネット経由での接続だった場合、システム全体でセキュリティを強固にしていく必要があります。しかし今回は閉域網接続だったため、セキュリティ強化が必要な部分とそうでないところを切り分けられました」として、システム構築にかかるコストを最適化できたと話します。

 みもりのように、ネットワーク上で提供するサービスを開発する際のアドバイスとして、寺下氏は将来的にスケールできるようにシステムを構成しておくべきだと話します。特にインフラとしてクラウドを利用する際、当初はミニマム構成でスタートすることは少なくありません。その場合でも将来的なスケールアウトを見越した構成にしておかないと、急にトラフィック量が増加したといった場合に対応できないというわけです。

 もうひとつ、100円SIMを利用するユーザーに対してもアドバイスが送られました。

「IoTデバイスの通信量として考えると、月間1MBというのは余裕があるように感じますが、新しい機能やサービスを追加するとどうしてもデータ量が増えてしまいます。そのため、将来的なデータ量も見越して通信の方法は検討すべきです。実は私たちも気象情報との連動などサービスの拡充を考えていて、それらを組み込むと1MBを超える懸念があります。ただ100円SIMであれば1MBを超えた後の料金も明確になっているので、新機能を有料オプションとして提供し、通信量の増加分をまかなうといった形で対応できるのはいいですね」

 今後は安価にビーコンを構築する仕組みを確立し、たとえば学校に到着した際に保護者に通知するといった機能も加えたいとのこと。地域社会において子どもの安全をどう守るかは極めて重要な課題ですが、その解決策としてみもりは広く活用されるのではないでしょうか。


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Bizコンパス編集部

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