このように、特に高いパフォーマンスが求められる領域では、パブリッククラウドでは注意すべき点がいくつかあります。しかしGPUサーバーの数が数十台に達するような規模では、オンプレミスでの運用は困難です。そもそも複数のGPUを搭載すると必要となる電力量が膨大となることに加え、GPUサーバーが発する熱への対応も考えなければなりません。また、GPUサーバーの台数が増えれば、運用の負担も大きくなります。
実際、前述したPreferred Networksは自社で構築するのではなく、パートナーとしてNTTコミュニケーションズとNTTPCコミュニケーションズを選定し、その構築から運用までを委託しています。この基盤が構築・運用されているのが、NTTコミュニケーションズグループのGPUプラットフォームです。
Preferred Networks向けスーパーコンピュータ

さらにNTTコミュニケーションズでは、GPUサーバーを中心とした高速ストレージやインターコネクトなどの周辺インフラを一括提供する「GPUソリューション」も展開しています。このソリューションは一般的なパブリッククラウドとは異なり、ユーザー企業のニーズに合わせてGPUサーバー基盤を構築するプライベートクラウド型のサービスです。あらかじめ用意されたGPUサーバーを提供するといったものではないため、サーバーが離れていて相互接続で遅延が発生する、などといった心配はありません。
「GPUソリューション」構成イメージ

構築されたGPUサーバー環境は月額サービスとして利用することが可能であり、クラウドサービスと同様に自社で資産として持つ必要はありません。またインフラ管理に必要な監視や運用保守についてもNTTコミュニケーションズ側で行われることも見逃せない利点でしょう。
またGPUプラットフォームが構築されているのは同社のデータセンターである「Nexcenter」内であり、国内のデータセンターを利用できることから、センシティブなデータを扱うといったケースでも安心です。加えて、特にGPUサーバーの運用で考慮する必要がある熱問題への対処のため、リアドア冷却方式のラックの提供を2018年度内に開始予定です。これはラックの背面扉に屋外冷却設備で作られた冷水を循環させて冷却する方式であり、冷却効率が高く、発熱量の多いサーバーにも対応可能です。そのほか、冷却効率の高いコールドプレート方式や液浸方式等の導入検討もすでに開始しています。
このGPUソリューションでは、eVDI用途も想定されています。GPUを搭載したサーバーの上で仮想マシンを実行し、3D CADを利用したり各種シミュレーションを行ったりすることができます。
国内データセンターであることは、このeVDIにも大きなメリットをもたらします。仮想デスクトップ環境を利用する際、接続先であるサーバーが遠ければレスポンスが悪化し、マウスをクリックしても反応がすぐに返ってこないなど使い勝手に悪影響を及ぼします。しかし国内データセンターであれば遅延を抑えられるため、快適に仮想デスクトップ環境を使えるというわけです。
業務アプリケーションなどで使うサーバーのクラウド移行は多くの企業で進められていますが、そのような環境で使うサーバーとAIやeVDIで利用するGPUサーバーでは要件が異なります。そのため、安直に「これまで使っているクラウドでGPUも提供されているから」などと選べば、コストの無駄が発生したり、必要なパフォーマンスが得られなかったりするおそれがあります。まずは自社の利用形態を明確化し、適切なコストで利用可能か、そしてパフォーマンスをはじめとする要件を満たせるかといった観点からサービスの選定を行い、自社にとって最適なものを選択するようにしましょう。
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