実践に学ぶグローバルIT戦略(第3回)

進出先として人気のベトナムの魅力と意外なリスク

2018.06.20 Wed連載バックナンバー

 製造拠点を東南アジアに設けたいと考えたとき、タイやインドネシアと並んで多くの企業に選ばれているのがベトナムです。勤勉な国民性で向上心に富み、また親日的でもあることも進出先としての大きな魅力でしょう。しかし、ベトナムへの進出には特有のリスクも伴います。この点について、株式会社アイ・グローカルの實原享之氏に語ってもらいました。

 

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2,500社以上の日系企業が進出するベトナムの魅力

 人件費の面で魅力があり、また国民全体の平均年齢が28歳と若い労働力が豊富なベトナムには、現在約2,500社の日系企業が進出しており、この数字はタイやシンガポールに次ぐものとなっています。中心となっているのは製造業ですが、ソフトウェア開発などといったハイテク産業に該当する企業は大幅な減税措置が受けられることから、オフショア開発のための拠点をベトナムに設けるIT企業も少なくありません。

 ベトナムの代表的な都市として挙げられるのは、ハノイとホーチミンです。両都市とも製造業の日系企業が多く進出しているほか、ホーチミンには流通業や金融業の進出も目立ちます。また両都市の間に位置するダナンも湾港都市として急速に発展しており、120以上の日系企業が進出先として選択しています。

地域ごとの特徴

 進出メリットとしては生産拠点としての優位性に加え、昨今では消費市場としての魅力も増しています。2015年から2017年まで経済成長率は6%以上を維持しているほか、中間所得層が着実に伸びていることがその背景にあります。

ベトナムに進出したIT企業に課された莫大な追徴課税

 このような背景からベトナムに進出する日系企業は増え続けていますが、一方で注意しなければならない点もあるようです。日系企業のベトナム進出を支援している株式会社アイ・グローカルの實原享之氏は、あるIT企業を例に注意すべきポイントを説明しました。

「この企業はベトナムにオフショア拠点を開設し、日本からエンジニアを社長として派遣したほか、エンジニアを10人と、総務兼経理としてチーフアカウンタントの資格を持つ人を現地で採用しました」

 チーフアカウンタントとは日本で言う経理部長の国家資格であり、企業はその資格を持っている人を1人雇用する必要があります。国家資格を持っている人材なのだから、財務や経理は問題なく進めてくれるだろうと思うところですが、実は4年後に大きなトラブルが待っていました。

「そのIT企業は税務調査を受け、数千万円の罰金と追徴課税を課されたのです。日本人社長の日本での所得の申告漏れ、法人税およびVAT(付加価値税)の追徴が原因でした。しかも、チーフアカウンタントの資格を持つ総務兼経理の人が突然退職し、経理業務がストップして決算が締まらないという状況に陥ったのです」(實原氏)

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ベトナムの税務調査は日本よりも厳しい!?

 このような事態が発生した背景にある理由として、實原氏が説明したのは税務調査の厳しさです。日本でも税務調査が厳しいという声を聞くことは少なくありませんが、實原氏は「客観的に見ても、ベトナムのほうがかなり厳しい」と指摘します。

 罰金の額が大きくなることも、ベトナムの特徴と言えます。追徴課税に対する利息である延滞税は過去5年間を遡ることが多い上、5年前の追徴課税には5年分の利息が課されます。さらに過少申告や脱税、不正行為に対する加算税、重加算税が少なくとも20%、最高では300%が課されるため、ペナルティが極めて大きくなる構図となっているのです。

【人事・税務】会社設立時の現地スタッフの採用

 この事例のポイントとして、實原氏は次のように話しました。

「IT企業がオフショア開発の拠点を立ち上げた場合、売上も経費もごくシンプルな構図になると思われます。ただし税務調査がかなり厳しいので、そういった会社でも決算書の作成や税務申告は緻密にしておかなくてはなりません。経理をいきなり現地で採用して内製化しようとすると、高い確率で税務調査の際に痛い目に遭うことになります」

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大きな負担の覚悟が必要となるベトナムからの撤退

 別の事例として、實原氏はある製造業のベトナム進出についても説明しました。この企業では、初期投資を抑えるため、レンタル工場を借りてベトナムでの事業をスタートした後、順調に生産活動は推移します。しかし間接費の負担が大きかったことから、なかなか黒字化しないという課題がありました。

 5年後、同じ工場団地に土地を取得して自社工場の建設をもくろみますが、すでに土地は完売していたため、撤退することを検討します。ここで思わぬ壁に突き当たったと言うのです。

「ベトナムに一度進出すると、撤退は非常に難しいのです。税務調査が非常に厳しく、それを経ないと撤退手続きが進まない仕組みになっているんですね。特に撤退の税務調査となるとさらに厳しさが増し、それだけで2年ぐらいかかりますし、ペナルティも数百万から場合によっては数千万円が発生することもあります」(實原氏)

 そこでこの企業は撤退を諦め、ベトナムの別の場所での工場建設を検討します。しかし、ここにも落とし穴があったのです。

「市や省をまたぐ引っ越しも容易ではありません。ベトナム全体から見れば撤退するわけではないのですが、市や省の地元の役所からは撤退と見なされ、撤退の手続きを要求されるのです。そのため、この企業は同じ省の奥地に工業団地を見つけ、そこで自社工場を建設しました。しかしベトナム人スタッフは自宅から30分以上離れていると辞める人が多く、手塩にかけて育てたスタッフの半数が退職してしまいました」

【会社設立】レンタル工場 or 自社工場

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駐在員のコストは年収の2.3~2.5倍

 駐在員として派遣する日本人駐在員の個人所得税も大きな負担となるようです。ベトナムの個人所得税は累進課税で、最高税率は35%となっています。この点だけを見ると、日本と比べてもそれほど税金が高いという印象はないかもしれません。しかし家賃やビザの取得費用など課税範囲が極めて幅広いことから、個人所得税は高額になってしまいます。

 また現地の税金によって給与が減ってしまうのを割けるために、ほとんどの企業において手取り保証がなされます。そうして増額した分も当然課税対象となり、さらに税金が高くなる要因となります。

「こうした課税のロジックはほとんどの国が採用しているものですが、ただベトナムの場合は税率が高かったり、課税範囲が広かったりするため、極めて個人所得税が高くなります。1人駐在させると、年収の6割から7割を税金として支払うことになり、さらに家賃など諸々を含めて考えると、年収のおおよそ2.3倍から2.5倍のコストがかかります」

【税務】駐在員の個人所得税

 なおベトナムで法人を設立した場合、法的代表者はベトナム居住者であることが条件になります。一方、駐在員事務所であれば所長は出張者でも構いません。このメリットを活かし、いきなり法人を設立するのではなく、まず駐在員事務所を設立し、その後現地法人化するというシナリオも考えられます。

 しかしベトナムには駐在員事務所を現地法人に格上げする手続きはなく、いったん駐在員事務所をたたむことになります。これも撤退と見なされ、税務調査を受けることになります。この際、領収書の不備などによって交際費がプライベートの飲食などと判断されて課税されるといったことがあると、實原氏は注意を喚起しました。

 このように、ベトナムは魅力的な進出先である一方、特有のリスクがあることも事実です。事前の調査をしっかりと実施する必要があるのはもちろん、場合によっては現地の事情に詳しいベンダーやコンサルタントに協力を仰ぐことも検討すべきでしょう。

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NTTコミュニケーションズの駐在員が語るベトナムの通信事情

 ベトナムに拠点を設立する際には、通信インフラに留意してほしいと話すのは、NTT Communicatons(Vietnam)Ltd. Sales Directorの鈴木貴之氏です。

 都市部ではほぼ全域で光ファイバによるブロードバンドサービスの利用が可能となっているほか、携帯電話も2017年には全土で商用展開が完了するなど、ベトナムの通信インフラは着実に整えられています。ただし、その一方で障害も多いのが実態です。

「ベトナムのネットワークの品質を見ると、年間10時間49分の通信断が生じています。日本では年間10分程度のため、大きな品質の違いがあります。その大きな理由となっているのはアクセスラインです。架空ケーブルもスパゲティ状で、埋設の仕方もいい加減になっていることが多く、工事による断線が頻繁に生じます。驚いてしまいますが、通信ケーブルに洗濯物が掛けられていることもあるんです」

国内のアクセスラインの状況

 ベトナムと海外を結ぶ海底ケーブルも多くの日系企業を悩ませていると言います。

「ベトナムでは海底ケーブルの数が多くありません。その中の1つであるAAGと呼ばれるケーブルで多くの通信がまかなわれていますが、これが頻繁に切れます。2016年には年間で6回も切断しましたが、そうなると復旧に数週間を要します。たとえばインターネットVPNを使って日本のシステムを利用している場合、普及するまでの間非常につながりづらい状況となってしまい、実際に多くの日系企業を悩ませていました」

国際接続部分の脆弱性

 水漏れや停電といったトラブルも珍しくないため、オフィス内でのサーバー運用には注意が必要です。水漏れによってサーバーが故障する、あるいは停電によってシステムが使えないといったことになれば、業務に支障が生じかねません。こうしたトラブルによる影響を避ける上で、積極的に検討したいのがデータセンターの活用です。

 NTT Com Vietnamでは、TierⅢレベル相当の堅牢なデータセンターをベトナム北部と南部のそれぞれで運営しています。前者はハノイ中心部から自動車で30分とアクセス良好なタンロン工業団地内にある、ベトナム初の国際基準データセンターとなっています。南部にある後者のデータセンターは、ホーチミン市中心部から20kmとほど近く、こちらもグローバルな品質管理基準で運営されています。

ベトナム北部のデータセンター

ベトナム南のデータセンター

 この2つのデータセンターを用いたDRソリューションも提供しています。システムの二重化によって災害対策を強化できるほか、クローズドVPNとインターネットを組み合わせることで、ネットワークの冗長化も図れます。

Tier III DCとネットワークを利用したDRソリューション

 ベトナムを含め、東南アジアでは日本のように通信インフラが整っていないため、長時間に渡って利用できなくなる状況が発生することがあります。こうしたトラブルがビジネスに大きく影響するのであれば、どのようなITインフラを構築すべきか、現地に精通したベンダーに相談したいところです。

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Bizコンパス編集部

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